独週刊誌シュピーゲル電子版30日に﹁プーチン大統領の神の戦士﹂︵Putins Gotteskriger︶というタイトルでロシア正教会の超保守派聖職者フセボルト・チャプリン大司祭︵Wsewolod Tschaplin︶のプロフィールが詳細に報じられていた。プーチン大統領の世界を知るうえでも参考になると思われるので、その概要を紹介する。
▲プーチン大統領の神の戦士、チャプリン大司祭︵独週刊誌シュピーゲルの記事から︶
同大司祭がソチ冬季五輪大会直前の昨年1月、同性愛者を法で取り締まるべきかを問う国民投票の実施を呼び掛け、大きな反響を呼んだことはまだ記憶に新しい。大司祭は、﹁同性愛者を社会から完全に追放すべきだ﹂と主張してきた。ロシアでは1993年まで同性愛は犯罪と受け取られ、99年までは精神病者と考えられた。2013年から同性愛を広げるプロパガンダは法的に禁止された。ロシアで同性愛拒否の風潮が強い背景には、ロシア正教の積極的な啓蒙活動がある。その中心人物がチャプリン大司祭だ︵﹁ロシア正教﹃同性愛者を追放せよ﹄﹂2014年1月13日︶
﹁過激な大司祭チャプリン﹂︵シュピーゲル誌︶は、同性愛と避妊に強く反対し、その発言はクレムリンでも無視できない影響力を持っているという。モスクワ正教総主教の広報担当のチャプリン大司祭︵47︶はテレビやラジオ番組に積極的に登場し、無神論者や教会批判者との対話では同性愛や堕胎を厳しく批判。暴行を受けた女性に対しては、﹁だらしない服装をしていた結果だ﹂と主張し、神の創造説を学校の教科に導入すべきだと強調する、といった具合だ。
チャプリン大司祭はプーチン大統領の愛国主義、ロシア民族の伝統重視を支持している。その意味で、チャプリン大司祭を﹁プーチン大統領の神の戦士﹂という呼称で呼ぶわけだ。チャプリン大司祭は欧米の人道主義を﹁アンチ・クリスト信仰への前段階﹂と評し、米国の同性婚の合憲決定を﹁神なきもの﹂と言い切っている。
チャプリン大司祭は﹁世俗社会が長い間平和である場合、その社会は衰弱し、神なき世界に陥ってしまう。幸い、平和は間もなく終わり、聖化する戦いが始まり、ロシアを神に戻すだろう﹂と予言する。どこか、聖戦を掲げるイスラム過激派勢力の叫びのように響く。同司祭によれば、戦いは神に戻るために不可欠であり、ロシアはその聖なる使命を担っているというのだ。
チャプリン大司祭は、﹁経済的、社会的革命が近いと信じている。革命は過剰な個人主義、物質主義を破壊する。その革命の第一歩はロシアから始まる。我々の最大の敵は米国でも北大西洋条約機構︵NATO︶でもない。金のことだけを考えて生きている凡人だ﹂という。同司祭は大金融資本の終焉を夢見ている。同司祭の表現によれば、﹁正教徒の顔した反資本主義革命﹂だ。
世界の半分はロシアが提案した社会主義に倣ったが、軍事拡張主義となってしまった。旧ソ連はその軍事主義と政治的圧政で自壊したが、﹁けっして外部の圧力に屈したわけではない﹂と信じている。その点、プーチン大統領と似ている。
﹁社会主義は世界の到る所で広がっている。社会主義は最良の社会秩序だ。社会主義の唯一の欠点は神を失ったことだ。それを修正さえすれば、ロシアは理想的な秩序に近づける。神の意志によって主導された世界だ﹂という。
プーチン大統領がチャプリン大司祭のように考えているか不明だが、大きくはかけ離れていないのではないだろうか。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ﹁ウィーン発﹃コンフィデンシャル﹄﹂2015年8月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発﹃コンフィデンシャル﹄をご覧ください。