青森
著者:太宰 治 読み手:鈴木 百合子 時間:3分9秒
青森には、四年いました。青森中学に通っていたのです。親戚の豊田様のお家に、ずっと世話になっていました。寺町の呉服屋の、豊田様であります。豊田の、なくなった﹁お父さ﹂は、私にずいぶん力こぶを入れて、何かとはげまして下さいました。私も、﹁おどさ﹂に、ずいぶん甘えていました。
﹁おどさ﹂は、いい人でした。私が馬鹿な事ばかりやらかして、ちっとも立派な仕事をせぬうちになくなって、残念でなりません。もう五年、十年生きていてもらって、私が多少でもいい仕事をして、お父さに喜んでもらいたかった、とそればかり思います。いま考えると﹁おどさ﹂の有難いところばかり思い出され、残念でなりません・・・