眼鏡
著者:織田 作之助 読み手:堀口 直子 時間:5分59秒
三年生になった途端に、道子は近視になった。
﹁明日から、眼鏡を掛けなさい。うっちゃって置くと、だんだんきつくなりますよ﹂
体格検査の時間にそう言われた時、道子はぽうっと赧くなった。なんだか胸がどきどきして、急になよなよと友達の肩に寄りかかって、
﹁うっちゃって置くと、ひどくなるんですって﹂
胸を病んでいると宣告されたような不安な顔をわざとして見せたが、そのくせちっとも心配なぞしていなかった。むしろいそいそとした気持だった。
その晩、道子は鏡台の傍をはなれなかった。掛けてははずし、はずしては掛け、しまいに耳の附根が痛くなった。
――風邪を引いて、首にガーゼを巻いた時めたいに﹇#﹁めたいに﹂はママ﹈、明日はしょんぼりうなだれて学校へ行こうかしら。そしたら、みんな寄って慰めてくれるわ・・・