夢十夜 第三夜
著者:夏目 漱石 読み手:岡本 茂 時間:7分22秒
こんな夢を見た。
六つになる子供を負ってる。たしかに自分の子である。ただ不思議な事にはいつの間にか眼が潰れて、青坊主になっている。自分が御前の眼はいつ潰れたのか いと聞くと、なに昔からさと答えた。声は子供の声に相違ないが、言葉つきはまるで大人である。しかも対等だ。
左右は青田である。路は細い。鷺の影が時々闇に差す。
﹁田圃へかかったね﹂と背中で云った。
﹁どうして解る﹂と顔を後ろへ振り向けるようにして聞いたら、
﹁だって鷺が鳴くじゃないか﹂と答えた・・・