銭形平次捕物控 鈴を慕う女
著者:野村 胡堂 読み手:伊藤 和 時間:52分35秒
一
﹁八、あれを跟けてみな﹂
﹁ヘエ――﹂
﹁逃がしちゃならねえ、相手は細かくねえぞ﹂
﹁あの七つ下がりの浪人者ですかい﹂
﹁馬鹿ッ、あれはどこかの手習師匠で、仏様のような武家だ。俺の言うのは、その先へ行く娘のことだ﹂
﹁ヘエ――、あの美しい新造が曲者なんですかい。驚いたな﹂
﹁静かに物を言え、人が聞いてるぜ﹂
銭形の平次と子分のガラッ八は、その頃繁昌した、下谷の徳蔵稲荷に参詣するつもりで、まだ朝のうちの広徳寺前を、上野の方へ辿っておりました。
﹁ガラッ八、よく見ておくんだよ、心得のために話しておくが――﹂
﹁ヘエ――﹂
平次は一段と声を落しました・・・