九龍虫
著者:上村 松園 読み手:市川 晴巳 時間:2分51秒
いつだったか歯をわるくしてお医者さんに行ったところ、そのお医者さんは見たところそれほど丈夫そうにもないのに、毎日のおびただしい患者を扱って少しも疲労を感じないと言う。
﹁何か秘訣でも?﹂
と訊ねると、
﹁大いにありますよ﹂
そう﹇#﹁そう﹂は底本では﹁さう﹂﹈言ってお医者さんは南京虫のようなものがうじゃうじゃうごめいている小さな箱をみせてくれた。
九龍虫という虫で、なかなか精力のつく薬虫だとその医者は説明してくれた。
私は二、三十匹もらって桐の箱に入れて、医者の説明通り椎の実、龍眼肉、栗、人参などを買って来てあたえてみた。
二週間ほどしてから覗いてみたら九龍虫の蛹がいくつも出来ていた。
さらに半月ほどしてからしらべてみると、もう何百匹となくうじゃうじゃしているのには驚いた・・・