五月の朝の花
著者:岡本 かの子 読み手:森河 恵奈 時間:3分19秒
ものものしい桜が散った。
だだっぴろく……うんと手足を空に延ばした春の桜が、しゃんら、しゃらしゃらとどこかへ飛んで行ってしまった。
空がからっと一たん明るくなった。
しんとした淋しさだ。
だが、すこし我慢してじっと、その空を仰いでいた。
じわじわと、どこの端からかその空がうるんみ始めましたよ、その空が、そして、空じゅうそのうるみが拡がって。
その時、日本の五月の朝の中空には点々、点々、点々、点々。細長いかっちりした薄紫の鈴――桐の花です・・・