銭形平次捕物控 平次屠蘇機嫌
著者:野村 胡堂 読み手:伊藤 和 時間:57分17秒
一
元日の昼下り、八丁堀町御組屋敷の年始廻りをした銭形平次と子分の八五郎は、海賊橋を渡って、青物町へ入ろうというところでヒョイと立止りました。
﹁八、目出度いな﹂
﹁ヘエ――﹂
ガラッ八は眼をパチパチさせます。正月の元日が今はじめて解ったはずもなく、天気は朝っからの日本晴れだし、今さら親分に目出度がられるわけはないような気がしたのです。
﹁旦那方の前じゃ、呑んだ酒も身につかねえ。ちょうど腹具合も北山だろう、一杯身につけようじゃないか﹂
平次はこんな事を言って、ヒョイと顎をしゃくりました・・・