妻に失恋した男
著者:江戸川 乱歩 読み手:田中 淑恵 時間:20分31秒
わたしはそのころ世田谷警察署の刑事でした。自殺したのは管内のS町に住む南田収一という三十八才の男です。妙な話ですが、この南田という男は自分の妻に失恋して自殺したのです。
﹁おれは死にたい。それとも、あいつを殺してしまいたい。おい、笑ってくれ。おれは女房のみや子にほれているのだ。ほれてほれてほれぬいているのだ。だが、あいつはおれを少しも愛してくれない。なんでもいうことはきく、ちっとも反抗はしない。だが、これっぽっちもおれを愛してはいないのだ。
よくいうだろう、天井のフシアナをかぞえるって。あいつがそれなんだよ。﹃おいっ﹄と、怒ると、はっとしたように、愛想よくするが、そんなの作りものにすぎない・・・