春近き日
著者:小川 未明 読み手:渡邊 明美 時間:3分1秒
お母さんが、去年の暮れに、町から買ってきてくださったお人形は、さびしい冬の間、少女といっしょに、仲よく遊びました。
それを、どうしたことか、このごろになって、お人形は、しくしくと泣いて、お嬢さんに願ったのであります。
﹁どうか、私をお母さんのところへ帰してください。﹂と申しました。
少女は、どうしていいかわかりませんでした。お人形のお母さんがどこにいるかということもわからなければ、せっかく仲よく遊んだお人形に別れることも悲しかったからです。
﹁私は、お母さんに聞いてみます……。﹂と、少女は答えました。
すると、かわいらしいお人形は、目をまるくして、
﹁どうか、お嬢さま、そのことはだれにも話さないでくださいまし。﹂と、頼みました・・・