按摩
著者:小酒井 不木 読み手:ながの いくお 時間:13分26秒
コホン、コホンと老按摩は彼の肩を揉みながら、彼の吸う煙草の煙にむせんで顔をしかめた。少し仰向き加減に、首と右肩との角度を六十度ぐらいにして居るところを見ると、生れつきの盲人であるらしい。
郊外の冬の夜は静である。
﹁旦那はずいぶん煙草ずきですねえ。三十分たたぬうちに十本あまりも召し上ったようですねえ﹂
と、彼は狡猾そうな笑いを浮べて言った。
﹁うむ。俺はニコチン中毒にかかったんで、身体中の肉がこわばってどうにもならぬから、按摩が通るたびに呼びこまずには居れんのだ。何とかしてこのニコチン中毒は治らぬものかなあ﹂と彼は中年のニコチン中毒患者に特有な蒼白い顔をして、でも巻煙草を口から離さずに言った。
﹁そりゃ旦那、眼をつぶすに限りますよ﹂・・・