散文詩 火星の芝居
著者:石川 啄木/斎藤 三郎 編 読み手:みきさん 時間:6分15秒
﹃何か面白い事はないか?﹄
﹃俺は昨夜火星に行つて來た。﹄
﹃さうかえ。﹄
﹃眞個に行つて來たよ。﹄
﹃面白いものでもあつたか?﹄
﹃芝居を見たんだ。﹄
﹃さうか。日本なら﹁冥途の飛脚﹂だが、火星ぢや﹁天上の飛脚﹂でも演るんだらう?﹄
﹃其麼ケチなもんぢやない。第一劇場からして違ふよ。﹄
﹃一里四方もあるのか?﹄
﹃莫迦な事を言へ。先づ青空を十里四方位の大さに截つて、それを壓搾して石にするんだ。石よりも堅くて青くて透徹るよ。﹄
﹃それが何だい?﹄・・・