ラムネ・他四編
著者:萩原 朔太郎 読み手:成 文佳 時間:5分15秒
ラムネ
ラムネといふもの、不思議になつかしく愉快なものだ。夏の氷屋などでは、板に丸い穴をあけて、そこに幾つとなく、ラムネを逆さにして立てて居る。それがいかにも、瓦斯のすさまじい爆音を感じさせる。僕の或る友人は、ラムネを食つて腹が張つたと言つた。あれはたしかに瓦斯で腹を充滿させる。
だがこの頃、ラムネといふものを久しく飮まない。僕の子供の時には、まだシヤンパンサイダといふものがなく、主としてラムネを飮用した。この頃では、もうラムネが古風なものになり、俳句の風流な季題にさへもなつてしまつた・・・