北海道の「俊寛」
著者:小林 多喜二 読み手:福井 慎二 時間:5分28秒
十一月の半ば過ぎると、もう北海道には雪が降る。︵私は北海道にいる。︶乾いた、細かい、ギリギリと寒い雪だ。――チヤツプリンの﹁黄金狂時代﹂を見た人は、あのアラスカの大吹雪を思い出すことが出来る、あれとそのまゝが北海道の冬である。北海道へ﹁出稼﹂に来た人達は冬になると、﹁内地﹂の正月に間に合うように帰つて行く。しかし帰ろうにも、帰れない人達は、北海道で﹁越年︵おつねん︶﹂しなければならなくなるわけである。冬になると、北海道の奥地にいる労働者は島流しにされた俊寛のように、せめて内地の陸の見えるところへまでゞも行きたいと、海のある小樽、函館へ出てくるのだ・・・