蛙
著者:林 芙美子 読み手:駒形 ゆう 時間:10分40秒
暗い晩で風が吹いていました。より江はふと机から頭をもちあげて硝子戸へ顔をくっつけてみました。暗くて、ざわざわ木がゆれているきりで、何だか淋しい晩でした。ときどき西の空で白いような稲光りがしています。こんなに暗い晩は、きっとお月様が御病気なのだろうと、より江は兄さんのいる店の間へ行ってみました。兄さんは帳場の机で宿題の絵を描いていました。
﹁まだ、おッかさん戻らないの?﹂
﹁ああまだだよ。﹂
﹁自転車に乗っていったんでしょう?﹂
﹁ああ自転車に乗って行ったよ。提灯つけて行ったよ。﹂
より江たちのお母さんは村でたった一人の産婆さんでした・・・