笑われた子
著者:横光 利一 読み手:まあき、マナミン、ジョン酒巻 時間:11分26秒
吉をどのような人間に仕立てるかということについて、吉の家では晩餐後毎夜のように論議せられた。またその話が始った。吉は牛にやる雑炊を煮きながら、ひとり柴の切れ目からぶくぶく出る泡を面白そうに眺めていた。
﹁やはり吉を大阪へやる方が好い。十五年も辛抱したなら、暖簾が分けてもらえるし、そうすりゃあそこだから直ぐに金も儲かるし。﹂
そう父親がいうのに母親はこう言った。
﹁大阪は水が悪いというから駄目駄目。幾らお金を儲けても、早く死んだら何もならない。﹂
﹁百姓をさせば好い、百姓を。﹂
と兄は言った。
﹁吉は手工が甲だから信楽へお茶碗造りにやるといいのよ。あの職人さんほどいいお金儲けをする人はないっていうし。﹂・・・