三両清兵衛と名馬朝月
著者：安藤 盛 読み手：入江 安希子 時間：28分31秒
三両のやせ馬
﹁馬がほしい、馬がほしい、武士が戦場で、功名するのはただ馬だ。馬ひとつにある。ああ馬がほしい﹂
川音清兵衛はねごとのように、馬がほしいといいつづけたが、身分は低く、年は若く、それに父の残した借金のために、ひどく貧乏だったので、馬を買うことは、思いもおよばなかった。清兵衛は、毛利輝元の重臣宍戸備前守の家来である。
かれはなぜそんなに馬をほしがったか。それというのは、豊臣秀吉がここ二、三年のうちに、朝鮮征伐を実行するらしかったので、もしそうなると、清兵衛もむろん毛利輝元について出陣せねばならぬ。そのとき、テクテク徒歩で戦場をかけめぐることは、武士たるものの名誉にかかわる、まことに不面目な話だからである・・・
