2016年12月27日 08:30
12月の頭に、VRエバンジェリストのGOROmanさんへのインタビューをしてきた。その中身は、すでに一部掲載しているし、年末年始頃には、もっとガッツリした記事が掲載されると思うので、詳しくはそちらをお読みいただきたい。
とはいえ、(世の中には誤解している人も多いだが)﹁インタビューの書き起こし﹂は﹁原稿﹂とは違うものだ。書き起こしでは面白い記事にはならない。みなさんにお読みいただいているインタビュー記事なども、相当に丸めたり削ったりしている。いわば﹁煮詰める﹂作業をするのがライターの仕事である。
今回のインタビューでも、﹁煮詰める﹂過程で切ったシーンがけっこうある。主に脱線しすぎてメインの話題からずれたものなのだが、ここで、その一部をご紹介したい。独立した話題として、なかなかに面白い命題だと思うからだ。
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――個人的には、﹁入力している﹂ことと﹁今入力しているものが見える﹂ことが同期しているから、作業効率が担保されているのかな、とは思うんですよね。実は、音声入力で原稿が書けないんですよ。それは、変換効率の話ではなく。
GOROman‥ああ、わかります。
――タイプしている時って、書いている部分より﹁先﹂が見えている感じがしません?でも音声入力している時って、イメージとしては100文字先くらいしか見えないんです。タイプしている時は、あくまでイメージですけど、500文字先とか1,000文字先までぼんやりと見えている感じなんですが。
GOROman‥それってたぶん、タイプは小脳や運動を司るところでやっているということですね。音声入力は一度、コンピュータでいうところのDAコンバートをしなきゃいけないわけで。音声化して声を出すのはそれなりに重い負荷だし。それをキューイングしてバッファに貯める必要がある。
たぶん、そのバッファが足りないんですね。会話って、別に16倍速ではしゃべれないですよね。脳の使える一時バッファが限られているから、その量が100文字、ってことじゃないですかね。
――世の中には、ものすごいトレーニングの結果、がーっと長文を音声入力できる人もいるんですよ。大御所の作家先生とかはそうらしくて。電話先で﹁今日は何文字いるの?﹂って編集者に伝えたら、﹁じゃあいくよ﹂って言って、がーっとしゃべる。しゃべり終わったところで、ピッタリ指定の文字数という。
GOROman‥ジョン・カーマックもそうですよ。でもかれ、宇宙人だから(笑)
脳内のキャッシュは限られているけれど、それを出し入れして働かせる訓練ができている、ということじゃないですかね。
――だから、まだしも腕を動かした方が、文章を残すとか絵を描くとか、そういう作業には本質的に合っている気はしています。手でやると、脳から出た結果ブラッシュアップされる、的な。
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どうだろう?なかなか示唆に富んだ意見だと思う。
筆者もひどい肩こり持ちなので、音声入力は色々試してきた。それこそ、15年以上前からだ。だが、どうしてもそれだけで仕事をするに至れないのは、変換効率の問題以上に、﹁自分が書いている原稿の先が見えない感﹂があったからだ。
GOROman氏の指摘する﹁バッファ説﹂は非常に納得できるものだ。
正確には、小さなバッファしかなくても、やりようはあるのだろう。脳内に原稿をきっちり描く能力があり、訓練ができていれば、件の大作家先生のような神業もこなせるのだと思う。
ここには﹁目隠し将棋ができるか否か﹂に近いものがある、と、このインタビューの後に考えた。目隠し将棋は、実際にはそこまで難しくはない。だが、脳内に回路ができないと全然ダメなのだ。私が音声入力で文章を書けないのは、商業的な長さの文章を書くための回路が﹁ワープロ/エディタに特化﹂して作られているからだろう。紙ではできる気がしない、というか、数倍の時間がかかる。回路が出来ていないからだ。
この﹁回路﹂という話は、別に文章のような長いものだけに限らない、と思う。AIが一般化してUIレイヤーになり、﹁声やチャットで操作する﹂のがあたりまえになる、と予想されているが、みなさんは﹁きちんと命令を素早く与える﹂ことはできるだろうか?自分がやりたいことをきちんと言語化するのは難しいことだ。音声コマンドに違和感を覚える理由はそこにある、と思っている。そのうち慣れて、多くの人が﹁回路を脳内に持つ﹂ようになるのだろうか。
そこのギャップが埋まるかどうか、もしくは﹁空気を読んで動いてくれるAI﹂ができるようになるかどうかが、ひとつのポイントだ。
小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」
本稿はメールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」からの転載です。
コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。
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2016年12月23日 Vol.110 <今年の成果、今年のうちに号> 目次
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01 論壇【小寺】
定時制高校からいろいろ学ぶ
02 余談【西田】
音声で原稿を書くとき「頭」で起きていること
03 対談【小寺】
おやすみ
04 過去記事【小寺】
景気回復の中にも浮沈が。家電業界サバイバル時代
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと