1文字で世相を表す今年の漢字は﹁変﹂だった。変革の﹁変﹂でもあるが、やっぱり誰もが想像したのは大変の﹁変﹂。師走に入り、新聞に踊る文字や企業人が語る文字には、﹁落﹂︵下落︶、﹁縮﹂︵縮小︶、﹁止﹂︵停止︶、﹁退﹂︵後退︶などネガティブな漢字ばかりが並ぶ。
100年に1度の変を前に、消費者はもがいている。変にのみ込まれないようにもがく消費者心理を、﹁スピード﹂と﹁スロー﹂という2つのカタカナで読み解いてみた。
雪崩のような連鎖的業績悪化で、企業ももはや信用できなくなった。船が沈む前に素早く逃げないと激流にのみ込まれてしまう。そこで、スピード思考やスピード記憶術、スピードラーニングなどと、﹁素早くスキルアップや資格取得をして自己防衛しよう!﹂という人が増えた。だから、資格ビジネスや資格本、専門学校が好調だ。
一方、﹁今さらジタバタしても遅いよ﹂という意識も蔓延︵まんえん︶。ゼミを頑張っても内定取り消しだし、中年になればリストラが待っているだけ。どうせ次の﹁失われた10年﹂の始まりだ、だったら“スローに行こうよ”という意識だ。生活防衛のためにランクを落とした買い物に走る人が増えて、ディスカウント店が好調だ。
消費者はスピード派とスロー派に二極分化。しかし、焦って勉強しても身に付かないし、家計防衛策をしてもジリ貧であることに変わりはない。こんな時代どうサバイバルすればいいのか?
私はデザイン業界にヒントを得て、“積極的なスローな生きかた”を提唱したい。それは“スローデザイン”というコンセプトだ。
スローというキーワードは、1980年代にイタリアから始まったスローフード運動が原点。そこからスローライフやスローホリデイ、ファッションにまでスローが広がった。それぞれ意味は少しずつ異なるが、一貫するのは﹁地域文化や伝統を大切にして、ゆっくりと生活しよう﹂というライフスタイルの普及を目的にしている。
そして、近年じわりと広がる“スローデザイン”とは何か?
それは、地産地消や地域嗜好︵ちいきしこう︶を取り入れた商品開発や、地域嗜好を読み取る現地リサーチに時間をかけること。もちろん資源リサイクルや循環も考慮する。まだ生まれて間もないコンセプトなので識者によりブレがある。そこでスローデザインをカタチにしたデザイナーに訊いてみた。
下の写真は、スローデザインを時計というカタチに消化させたもの。時計とビーズネックレスを一体化させたコンセプト作品﹃clock﹄だ。
コンセプト作品『clock』
ビーズネックレスは、次のような仕組みで時を刻む。
●歯車の回転でビーズが1個ずつ落ちる。
●1つのビーズは5分ごとに落ちる。
●赤玉は60分ごとに落ちる。
●金玉は12時、銀玉は0時を表す。
●ネックレスが1周すると1日が終わる。
ビーズは部屋時計のパーツでもあり、ネックレスでもある。ひょいと首にかけ、“時間を着て”出かけることも可能だ。デザインしたのはアイスランドのソルン・アルナドッティルさん。
――なぜ装飾品と時計を一体化させようと思ったのですか?
ソラン 時間をデザインテーマにしようと思っていろいろ調べると、アフリカ人と西洋人の時についての考え方は180度違うということが分かってきました。
西洋の時計のメカは正確で、1時間・1分・1秒と刻むものですよね。でもアフリカン・タイムは、1人の人間が生涯に何を体験したかで測ります。時を機械的な進行ではなく、情緒的な経験として扱うのです。
チクタクという西洋時計から自由になり、個人的な体験の積み重ねを表せるようにするため、ビーズにはソロバンやロザリオ︵キリスト教で祈りの数を数える数珠︶、そしてアフリカ部族の美しい首飾りを参考にしました。
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