︻2017年12月9日最終更新︼ かるび︵@karub_imalive)です。 5月19日にリリースされた鬼才、ドゥニ・ビルヌーヴ監督の最新映画﹁メッセージ﹂を見てきました。見終わると、人生の意味について誰かと語りたくなるような、深くて静かな感動が待っている素晴らしい傑作でした! 早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。 ※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。 ●1.映画﹁メッセージ﹂の基本情報 ●2.映画﹁メッセージ﹂の 主要登場人物とキャスト ●3.結末までのあらすじ紹介︵※ネタバレ注︶ ●突然現れたエイリアンの12隻の宇宙船 ●コンタクトを通じて徐々に明らかになる異星人の目的 ●近づく核戦争の危機 ●危機を救ったルイーズの機転 ●4.ストーリーの感想や評価︵※ネタバレ注︶ ●宇宙人襲来モノSFなのに、テーマは﹁自分の人生﹂という不思議な映画 ●アート要素とエンタメ要素が高いレベルで両立した傑作だった! ●ルイーズの変化していく現実認識・生きる目的 ●映画を見終わった後、突きつけられる様々な哲学的な問い ●5.映画﹁メッセージ﹂の9つの疑問点~伏線や設定の考察・解説~ ●疑問点1‥なぜルイーズは未来が見えるようになったのか ●疑問点2‥ヘプタポッドの言語を身につけたルイーズに起きた変化とは? ●疑問点3‥人類がエイリアンからもらった﹁武器﹂とは一体何だったのか ●疑問点4‥物語終了後のルイーズの人生ってどうなっているの? ●疑問点5‥ルイーズの娘はなぜ若くして死んだのか? ●疑問点6‥なぜ、イアンとルイーズは離婚してしまったのか? ●疑問点7‥中国人のシェン上将は、なぜ核攻撃を中止したのか? ●疑問点8‥異星人たちは、なぜ人類︵ルイーズ︶に彼らの言語を教えたのか ●疑問点9‥本作品での﹁自由意志﹂のあり方はどういうスタンスで描かれたのか? ●6.まとめ ●7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など ●原作小説﹁あなたの人生の物語﹂ ●映画﹁メッセージ﹂オリジナルサウンドトラック ●ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品は、まとめてU-NEXTで!
1.映画﹁メッセージ﹂の基本情報
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︻監督︼ドゥニ・ヴィルヌーヴ︵﹁複製された男﹂﹁ボーダーライン﹂他︶
︻配給︼ソニー・ピクチャーズ
︻時間︼116分
︻原作︼テッド・チャン﹁あなたの人生の物語﹂
前作﹁ボーダーライン﹂は2015年度アカデミー賞3部門でのノミネートとなりましたが、2016年度アカデミー賞8部門でのノミネートを果たし、﹁音響効果賞﹂受賞に輝いた今作。ここ最近、リリースするたびに傑作を連発しているカナダ出身の鬼才、ドゥニ・ビルヌーヴ監督がメガホンを取りました。
ビルヌーヴ監督といえば、10月28日に日本公開となる﹁ブレードランナー2049﹂も現在撮影中。こちらもめちゃくちゃ楽しみです!
︵http://chinafilminsider.com/china-box-office-chinese-moviegoers-dead-arrival/︶ ルイーズは、異星人が地球を去って約1年半後に開催されたパーティの場で、中国軍のシェン上将から彼の携帯電話の番号と、妻が死ぬ間際のダイイング・メッセージを聞くビジョンを見ます。 その直後、ルイーズは中国軍の核攻撃を阻止するため、そのキーマンであったシェン上将に電話をかけ、その時点では彼も知り得ない危篤状態の妻のダイイング・メッセージを伝えました。シェン上将は、ルイーズの電話によって、異星人から提供された﹁武器﹂とは物理的に人類を攻撃するものではなく、彼らが戦闘の意思を持っていないことを悟り、核攻撃を中止したのです。 ちなみに、劇中で語られた妻のダイイングメッセージ︵中国語︶は﹁In war there are no winners, only widows.﹂︵戦争には勝者はいない。ただ未亡人だけが残される︶というものでした。
2.映画﹁メッセージ﹂の 主要登場人物とキャスト
この映画では、主人公ルイーズとエイリアンのコンタクトが話の中心となるため、画面上は軍関係者など多数のキャラクターが常に見えているものの、しっかりチェックしておけば良いキャストは、以下の3人のみ。非常にシンプルな映画なのです。 ルイーズ・バンクス︵エイミー・アダムス︶ 回想シーンでの物憂げで全てを悟った慈しむような目つきや、エイリアンとの交流シーンなど、非常に情感豊かにベテラン女優らしい熱演でした。2017年秋も、実力派男優ジェイク・ギレンホールと共演する﹁ノクターナル・アニマルズ﹂が待機中。 イアン・ドネリー︵ジェレミー・レナー︶ どうしても﹁アベンジャーズ﹂シリーズでの﹁ホークアイ﹂や﹁ボーン・レガシー﹂﹁ミッション・インポッシブル﹂シリーズなど、アクション系俳優のイメージが強いのですが、今作では至って普通の学者役。アクションシーンも一切なく、自慢の肉体美を披露する局面はありませんが、彼の知性的で優しい顔つきは、こういう普通のオッサンを演じるほうが実はあっているような? ウェバー大佐︵フォレスト・ウィテカー︶ 最近だと﹁ローグワン﹂でのソウ・ゲレラ役が記憶にあたらしいところですが、今作では軍隊側の人間で、ルイーズ、イアンを統率し、現場と軍幹部の間に挟まれた、いわゆる中間管理職を演じます。ルイーズとイアンが、人類の危機的状況︵に見える中︶どこか超然と研究に打ち込む中、このウェバー大佐は、普通の人間のあせりや恐怖を体現した、﹁一般人﹂を象徴する存在として描かれました。 スポンサーリンク3.結末までのあらすじ紹介︵※ネタバレ注︶
突然現れたエイリアンの12隻の宇宙船
ルイーズ・バンクは、娘との様々な記憶を思い出していた。娘が生まれたときのこと、幼少時のこと、そして、病気で娘に先立たれた記憶。様々な記憶が脳裏に蘇っていた。 ルイーズは、言語学の大学教授だった。その日、クラスへの出席者は少人数だったが、講義を開始した途端、臨時ニュースが流れた。アメリカを含め、日本、中国、イギリス、パキスタンなど、世界中で同時に12箇所に地球外の飛行物体が現れたという。 その日は休講となり、まもなく世界中は大混乱に陥った。翌日も大混乱が続く中、独り大学へ出勤してみたが、誰もキャンパスに人影は見当たらなかった。 ルイーズが研究室でパソコンを眺めていると、そこへウェーバー大佐がやってきた。過去の軍隊への協力実績から、異星人とのコンタクトへの協力要請だった。 その夜、ウェーバー大佐はルイーズを自宅まで迎えに来て、彼らはアメリカでの異星人の出現場所、モンタナ州のサイトまでヘリで移動した。ヘリに同乗していたのは、物理学者のイアン・ドネリーだった。ルイーズとイアンは、共同で研究にあたることになった。コンタクトを通じて徐々に明らかになる異星人の目的
モンタナ州のサイトには、軍関係者のキャンプがすでに設営されており、他の11サイトと回線をつなぎ、随時情報交換を行っていく段取りとなっていた。メディカルチェック、予防注射を済ませると、早速ルイーズ、イアンは第1回のコンタクトへと臨むことになった。 彼らの宇宙船は全長450メートルと、超巨大な縦型の黒い未知の浮遊物体で、18時間おきにコンタクト目的で最下部に開口部が現れた。開口部から入ると、途中で重力が反転して、彼らは壁伝いに垂直に歩いて最奥部へと向かった。 最奥部は、ガラスのような透明な仕切りが出来ており、その仕切の奥に、タコのような足を持った異星人が2体霧の中に動いていた。彼らの形状から、イアンとルイーズは彼ら異星人を﹁ヘプタポッド﹂と呼ぶことにした。 最初のコンタクトでの感触から、彼らとのコンタクトには音声ではなく文字︵筆談︶での対話が必要だと判断したルイーズは、2回めのコンタクトでフリップに﹁HUMAN﹂と書き、さらに防護服を脱いで彼らに親愛の情を見せた。 すると、彼らの側からも、触手の先から円環状に形成される文字状のメッセージを返してきた。彼らは、それを持ち帰って解析するとともに、ヘプタポッドの2体にコステロ、アボットと名前を付けた。 しかし、彼らがコンタクトを続ける間も、世界の混乱は継続し、人々の間に恐怖が蔓延していた。人々は、世界各地でデモや暴動を起こしていた。 セッションが進むとともに、彼らはフリップから様々な単語を説明し、それに対してヘプタポッドたちが彼らの側の対応する円環状のメッセージを返す、という地道な作業が続いていった。ルイーズは、さらに彼らに近づこうと、透明な壁に手を置いてヘプタポッド達に親愛の情を示すと、彼らも触手を重ねてきた。 すると、それ以来ルイーズは度々自分の娘についてのビジョン︵未来の記憶︶が頭にひらめくようになった。 中国ではシェン大将率いる部隊が対応に当たっていたが、確たる成果を出せずにいた。彼らはマージャンゲームを用いての対話を試みようとしていた。 ルイーズは、ヘプタポッド達の言語で夢を見るようになっていた。夢の中で、自分の娘と交流しているシーンを何度も見るようになっていた。夢の中で、娘の父親はいなくなっており、自分が娘に対してフォローをしているようなシーンが印象に残っていた。 異星人は、ルイーズに対して﹁武器を使え﹂とメッセージを投げかけてきた。それを聞いた他の軍隊関係者︵特に中国︶は、次第に異星人たちが侵略を開始するのではないかと疑い始め、態度を硬化させていった。近づく核戦争の危機
そして、中国はとうとう、24時間以内に退去しないと先制攻撃を行う、と宣戦布告するに至った。ロシアやスーダンなどがその動きに同調し、それと同時に12カ国での回線はシャットダウンされ、各国での協調関係は崩れていった。しかし、ルイーズは彼らが戦争を企図していようとはとても思えず、﹁武器﹂についての解釈をもっと深めようとウェーバー大佐に進言した。 アメリカ軍も、一旦モンタナ州のサイトから撤退する動きを見せていた。ルイーズとイアンは、撤退直前のセッション37で何とか彼らの真意を図ろうとした。しかし、そのセッションでは、精神状態を追い込まれた彼らの護衛兵が内部から宇宙船を破壊しようと、時限爆弾を仕掛けていた。 時限爆弾が爆発する前、ヘプタポッドたちはこれまでにない大量のデータを吐き出した。そして、アボットは、爆発と同時にルイーズとイアンを突き飛ばし、爆風や爆発の影響を最小限に抑えてくれる協力をしてくれた。アボットはこの影響で死亡し、これをきっかけに世界中の12サイトの宇宙船は、すこし上空へと場所を移動させた。 ルイーズが目を覚ますと、キャンプの中にいた。先に目覚めたイアンは、前回のセッションで得た情報を解析し、﹁時間﹂に関するストーリーであることに気づいた。ロシア軍がいよいよ戦闘行動を開始したとの情報が入り、軍隊は撤退準備を急いでいたが、その時ルイーズは独り宇宙船の方へ駆け寄っていった。 宇宙船からは、ルイーズを内部に迎え入れるための彼らの小型ポッドが射出され、ルイーズはそれに乗ってコステロと直接対面した。コステロは、彼女に対して教えたヘプタポッドの文字自体が、彼女と人類全体への贈り物=武器であると説明した。3000年後に彼らの文明に起こる危機への対処に協力してもらう見返りとしての贈り物だった。 彼らの言語を理解することは、サピア=ウォーフ仮説に基づくと、未来も見通せるようになるということを意味していた。そして、この直接のコンタクトによって、さらに彼女の脳裏に頻繁に未来の記憶が呼び起こされるようになっていた。 そして、彼女はかなり先の未来で、﹁ヘプタポッドの言語について﹂という本を出版していることも理解した。その瞬間、ルイーズには完全にヘプタポッドの言語体系を習得したのだった。危機を救ったルイーズの機転
そこで、彼女に一連のフラッシュがやってきた。また、18ヶ月後、彼女はある国際的な会合で、中国のシェン大将と直接立ち話をする機会を得た。シェン大将から、彼女から電話で聞かされたシェン大将しか知り得ない妻のダイイングメッセージを聞くことが出来たため、ヘプタポッドへの核攻撃を思いとどまることができた、と感謝された。そして、シェン大将から携帯電話の番号を聞くことができた。 フラッシュが終わり、現実に戻ると、彼女はアメリカ軍の携帯電話を使い、シェン大将に電話連絡をした。基地内のオペレーター達に逆探知され、もう少しで殺されそうになるところだったが、何とかルイーズはシェン大将に連絡を取り、核攻撃を思いとどまらせることに成功した。 その時、12ヵ所全てのサイト上空にあったヘプタポッドの宇宙船は静かに向きを変えると、その場で消滅していった。全て終わったことを悟ると、イアンはルイーズにプロポーズして、ルイーズはイアンのプロポーズを受け入れた。近い将来、イアンとは別れ、ルイーズを病気で亡くしてしまうことがわかっていたにも関わらず。 ルイーズは、最後に彼女の娘ハナとイアン、3人でいる記憶を思い起こしていた。ルイーズとイアンは静かに抱き合うのだった。 スポンサーリンク4.ストーリーの感想や評価︵※ネタバレ注︶
宇宙人襲来モノSFなのに、テーマは﹁自分の人生﹂という不思議な映画
これまでの宇宙人襲来モノSFは、人々がパニックに陥って逃げ惑う中で、主人公が勇気を出して立ち上がり、人々を導き救い出すのがハリウッド映画の典型的なパターンでした。︵﹁インディペンデンス・デイ﹂﹁エイリアン﹂等々︶ しかし、本作では、最初から最後まで徹底して主人公ルイーズの内面に徹底的にフォーカスし続けます。ルイーズが自分自身と向き合い、個人的な内面の体験を突き詰めることで、結果として世界は救われるという不思議な味わいのストーリーでした。 もちろん、周りの軍関係者や世界中の人々が恐怖心からパニックとなっている状況は刻一刻と画面に映し出されますが、どこか現実感がありません。映画を通して、パニック状況は深刻になり、最終的に核戦争の一歩手前まで事態が悪化していきますが、状況が緊迫すればするほど、それとは対照的にルイーズは自分の心の内面深くへの探求を静かに深めていく対比が面白いです。 そして、異星人﹁ヘプタポッド﹂とのコンタクトは、まるでルイーズの個人的体験に気づきを与える、師匠との禅問答のセッションのようでした。異形の異星人なのに、全然こわくないという︵笑︶前衛書道や水墨画に似た表義文字を夢中で解析する中で、ルイーズは﹁時間﹂の概念を超越した現実感覚を獲得し、徐々に彼女自身の世界への見方・感じ方が微妙に変わっていく様子も非常に興味深いものがありました。アート要素とエンタメ要素が高いレベルで両立した傑作だった!
また、本作は非常にアートの香りもする芸術性の高い映画だったと思います。 ビジュアル面では、彼らの宇宙船がまるで﹁ばかうけ﹂のようだTwitterでバズっていましたが、アート好きな自分としては、宇宙船の形状や質感やシンプルな内部空間が、まるで現代アートの彫刻のようで最高でした! たとえば、こんな感じでしょうか? 巨匠ブランクーシの現代彫刻作品 そして、宇宙船の壁面も、どこか黒茶碗のようなあたたかみのある質感が、アートっぽくていいなぁと。 宇宙船の壁面。陶器のような質感がアートっぽい ヘプタポッド達の使う円環状の﹁表義文字﹂もまた、東洋の禅的な水墨画や、現代の前衛書道のような、高度に抽象化されたアートのような味わいがありました。公式動画での識者インタビューでも、﹁一見誰もが考えつきそうなのに、今までなかった斬新なデザインだ!﹂と絶賛されていました。 まるで水墨画か前衛書道のような表義文字 たとえば、これと禅画︵水墨画︶を比べてみましょう。 仙厓﹁一円層画賛﹂ 禅画では、﹁◯﹂は禅の真髄でもある﹁空﹂の境地や﹁悟り﹂を表すとされていますが、ヘプタポッドの表義文字と非常によく似ていますね。見ながら﹁おぉ、禅画の世界だ!﹂とニヤニヤしてしまいました。ルイーズの変化していく現実認識・生きる目的
本作では、ヘプタポッドとの交流が深まり、彼らの言語を習得していくにつれて、ルイーズの中に新しい思考体系とビジョンがもたらされていきます。すなわち、彼女の中に直線的に進行する﹁時間﹂の概念が薄れていき、クライマックスにかけて現在・未来の出来事が入り乱れ、同時進行でストーリーがつながっていく様子が描かれました。 未来に起こる出来事を全て今﹁知り得ることができた﹂ルイーズは、夫との離別や娘の病死など、現在の延長線上に必ずしも明るい未来が待っているわけではないことを知りますが、それでも敢えてイアンのプロポーズを受け入れ、予め決まっている未来を敢えて受け入れるのです。現実認識が変わってしまったルイーズにとって、生きる目的は﹁人生をより良く生きること﹂ではなく、﹁与えられた人生を味わい尽くすこと﹂に変化していたのですね。 すると、映画冒頭から度々挟まれるフラッシュの中で出て来る、ルイーズの、ある意味悲しみも喜びも全て含んだ、いつくしむような表情で娘を見つめていた意味が理解できて、たまらなく切なくなるんですよね。 映画ラストシーンでルイーズに﹁これから起こり得ることを全部知っていたとしたらどうする?﹂と聞かれたイアンが﹁その時に感じた気持ちをもっと大切にするかもしれない﹂とアドバイスしたやりとりが、ルイーズの変化した現実認識のありようをわかりやすく端的に説明していましたが、確定した未来を見通す力を得たルイーズは、物事の因果関係や結果に対して執着するのではなく、その一瞬一瞬の経験と、そこから発生する喜怒哀楽すべての自分の勘定を、愛おしむように大切に味わい尽くすようになるんですね。 この静かなルイーズの内面の変化を、的確に演じきったエイミー・アダムスの演技力は、ただものではないなと感じました。凄い!映画を見終わった後、突きつけられる様々な哲学的な問い
映画を見終わると、様々な疑問がわきあがってくるのも、この映画の特徴でした。例えば、僕の場合は、以下のような疑問がつきませんでした。 ・時間という概念が消え去り、物事の因果関係に意味がなくなった世界とはどんな世界なのだろうか? ・成功、失敗、戦略、戦いといった概念が薄れ、平和な世界がやってくるのか、それとも空虚で張り合いのない世界になってしまうのだろうか? ・もし人生があらかじめ運命として決まっていたとしたらどうなんだろうか? ・主人公ルイーズのようにそれを受け入れて生きるとしたら、どんな気持ちなのだろうか? ・過去・現在・未来の概念がなくなった時、自由意志は存在するのだろうか? ・・・等々、見終わった後、様々な疑問が尽きません。非常に哲学的で、一種スピリチュアルな感触もある作品です。人生を慈しむように噛み締めながら生きるルイーズの心情に深く共感を覚えるとともに、見終わってから﹁人生の本質﹂について深く考えさせられる映画でした。5.映画﹁メッセージ﹂の9つの疑問点~伏線や設定の考察・解説~
本作は、非常に時系列の流れやストーリーの伏線が非常に入り組んでいます。ここでは、映画での主要な論点・疑問点を9点に絞ってまとめてみました。疑問点1‥なぜルイーズは未来が見えるようになったのか
ヘプタポッド達と交流する中で、彼らから伝授された﹁表義文字﹂をマスターしたことがきっかけでした。 人間の言語は、右から左、前から後ろへと順番に流れていくため、人類は、因果関係を伴った時間の流れをリアルに感じながら世界を認識します。 これに対して、ヘプタポッドの﹁表義文字﹂は、前後左右がなく、物事の循環を象徴するような﹁円環﹂で閉じています。彼らの文法の中には現在・過去・未来といった﹁時制﹂がなく、彼らの現実認識では、世界では全ての出来事は同時に起こっており、物事の因果関係は極めて曖昧な状態なのです。 映画中でも引用された、人間の世界観や物事の捉え方は、使用する言語によって規定されるという﹁サピア=ウォーフ仮説﹂を裏付けるように、ヘプタポッドの﹁表義文字﹂に親しみ、深くインプットしていく中で、ルイーズは次第にヘプタポッドのような現実の捉え方ができるようになっていきました。 つまり、異星人同様、彼女が時折見る記憶のフラッシュの中には現在の出来事と関連した﹁未来﹂を含む映像が同時に見えるようになっていったというわけです。疑問点2‥ヘプタポッドの言語を身につけたルイーズに起きた変化とは?
通常の人間は物事を順序どおり経験し、﹁因果関係﹂に着目して、最大限行動した結果を得ようとします。しかし、ヘプタポッドの言語をマスターし、関連する事象を、過去も未来も関係なく同時に経験するようになったルイーズは、﹁結果﹂ではなく﹁結果﹂の根源に潜む目的や意図を汲み取ろうとする視点を身につけるのですよね。これが、ルイーズに起きた最大の変化でした。 原作では、ヘプタポッドの言語を身に着けたルイーズの心境の変化はこう結ばれています。 ・・・だから、わたしは強く注意をはらって、あらゆる詳細を心に刻んでいる。そもそものはじめから、わたしは自分の運命を知っていたし、当然のものとしてそのルートを選びもした。けれど、わたしがめざしているのは歓喜の極致なのか、それとも苦痛の極致なのか?私は最小と最大のどちらを成就するのだろうか?疑問点3‥人類がエイリアンからもらった﹁武器﹂とは一体何だったのか
物語中盤で、﹁武器﹂を供与する、と伝えられたヘプタポッドのメッセージは、軍幹部や他国政府に﹁敵対的な意志がある﹂と誤解される元になったわけですが、本来、彼らがルイーズに与えたかった﹁武器﹂として意図したものは、まさにこの﹁表義文字﹂そのものとそれがもたらす認識の大変化でした。 ﹁現在・未来・過去﹂という時制に縛られ、つねに不確定な未来を心配して計画・戦略を立て、自らの生存のために比較優位を確保するため戦わなければならないのは、彼らヘプタポッド達にとっては﹁不自由﹂そのものなのです。 そして、その認識の変化を通してルイーズが得た新たな能力=﹁未来を見通す力﹂こそがルイーズに対して時空を超えた情報へのアクセスを可能にし、世界を破壊する核兵器に対抗するための﹁武器﹂となったのでした。疑問点4‥物語終了後のルイーズの人生ってどうなっているの?
本作は、2周目以降に鑑賞した際に、全く違った新たな気づきを鑑賞者にもたらすように計算して編集されていることや、ルイーズの獲得した世界観に沿って、関連する出来事がバラバラで描かれたことにより、時系列で一体何が起こったのかわかりにくくなっています。︵ルイーズの立場に立って鑑賞するなら、時系列での整理は要らないともいえますが︶一応ここで﹁映画終了後﹂のルイーズの出来事を整理してみます。 時系列でルイーズ達に起きるできごと ・ルイーズとイアン、結婚する。 ・ルイーズ、国際会議で中国軍のシェン上将と面会する。 ・ルイーズ、一人娘のハナを出産する。 ・ハナの幼少時、ルイーズはイアンと離婚する。 ・ハナ、成人前後で病死する。 ・ルイーズ、﹁ヘプタポッドの言語﹂を出版。 →著作の序文に﹁ハナに捧ぐ﹂と書かれていた疑問点5‥ルイーズの娘はなぜ若くして死んだのか?
映画の設定では、﹁ガンによる病死﹂とされています。面白いのは、原作の設定。原作では、ハナは、難易度の高いロッククライミングに挑戦中、崖から滑落して全身を強打して死亡しました。﹁表義文字﹂をマスターして未来を見通せるようになったルイーズは、より心配性な性格となり、それに無意識に反発した娘は逆に﹁好奇心旺盛﹂なリスク選好型の性格へと育ってしまったのでした。疑問点6‥なぜ、イアンとルイーズは離婚してしまったのか?
セリフとしてきちんと描かれているわけではありませんが、ルイーズは、身につけた特殊能力や、彼らの未来について、イアンと結婚後、ハナが生まれてからある時点でイアンに正直に打ち明けたのだと思われます。回想シーンでハナのセリフに﹁これまでと同じようにパパが私のことを見てくれない﹂というセリフがありましたね。 娘が死ぬとわかっていながら子供を産んだこと、将来離婚してしまう未来などに耐えきれなくなり、ルイーズのことが信用できなくなったため、イアンはルイーズの元を離れていったのでしょう。疑問点7‥中国人のシェン上将は、なぜ核攻撃を中止したのか?
︵http://chinafilminsider.com/china-box-office-chinese-moviegoers-dead-arrival/︶ ルイーズは、異星人が地球を去って約1年半後に開催されたパーティの場で、中国軍のシェン上将から彼の携帯電話の番号と、妻が死ぬ間際のダイイング・メッセージを聞くビジョンを見ます。 その直後、ルイーズは中国軍の核攻撃を阻止するため、そのキーマンであったシェン上将に電話をかけ、その時点では彼も知り得ない危篤状態の妻のダイイング・メッセージを伝えました。シェン上将は、ルイーズの電話によって、異星人から提供された﹁武器﹂とは物理的に人類を攻撃するものではなく、彼らが戦闘の意思を持っていないことを悟り、核攻撃を中止したのです。 ちなみに、劇中で語られた妻のダイイングメッセージ︵中国語︶は﹁In war there are no winners, only widows.﹂︵戦争には勝者はいない。ただ未亡人だけが残される︶というものでした。
疑問点8‥異星人たちは、なぜ人類︵ルイーズ︶に彼らの言語を教えたのか
時系列で約3000年後、ヘプタポッド達に訪れる危機を人類に助けてもらうため、彼らは人類に対してヘプタポッド達の使っている﹁表義文字﹂を教えたのでした。ルイーズは、娘の死後、最終的に﹁ヘプタポッド達の言語﹂についての本を出版し、人類全体に﹁表義文字﹂とその意義を伝えます。 ただし、﹁未来﹂を見通せる力を手に入れた人類たちが彼らを救うのか、あるいは、﹁時制﹂の縛りから逃れ、永久に世界平和を達成した人類が彼らを救うのか、その3000年後にどのような形でヘプタポッドたちが救われるようになるのかは、映画でも原作でも明らかにはされていません。疑問点9‥本作品での﹁自由意志﹂のあり方はどういうスタンスで描かれたのか?
未来が確定したものとして見通せることと、我々の自由意志があるということは一般的に両立しません。なぜなら、私たちに自由意志があるなら、﹁現在﹂において自由に振る舞った結果、未来に起きる事象は不確定になるからです。 したがって、本作品では﹁もし未来を知るという経験が、人間の内に切迫感を呼び覚まし、︻自分はこうなるのだと知ったとおりの行動をすべき︼という義務感を呼び覚ますのだとしたらどうなのだろうか?﹂という仮説を立て、未来を確定したものとして描いています。6.まとめ
﹁見返すたびに新しい発見があるように、撮影後の編集作業には非常に気を使った﹂というヴィルヌーブ監督の言うとおり、本作は2回目の鑑賞以降で、もっと深くルイーズの気持ちに寄り添い、テーマを深く理解できるような深い作品でした。 間違いなく、10年後、20年後も楽しめる傑作だと思います。是非複数回映画館でチェックしてみてくださいね! それではまた。 かるび ▶ 映画DVDやその他商品が激安!Amazonサイバーマンデーのおすすめ目玉商品・セール情報まとめと解説!7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など
原作小説「あなたの人生の物語」
海外ではSF作品の最高峰であるネビュラ賞を獲得した傑作。日本でも、早川書房が主催する﹁SFマガジンオールタイム・ベストSF﹂の海外短編部門で第1位となったように、SF史上の金字塔的な短編作品です。パニック映画的なエンタメ要素を付加した映画に比べて、﹁哲学的﹂﹁科学的﹂な側面がよりマニアックに描写され、ルイーズの内面に焦点が当たっています。こちらも、映画を見た後2度、3度と楽しめる大傑作!
映画「メッセージ」オリジナルサウンドトラック
スペーシーで浮遊感のある曲や、静かな盛り上がりを見せるオープニング、エンディング、どことなく禅や東洋的な香りのするヘプタポッドたちとの遭遇シーンまで、瞑想的で繰り返し作業用BGMとして使える、不思議な魅力満載のサントラ。これは気に入りました!