︵1︶コーマック・マッカーシー著﹃ザ・ロード﹄︵黒原敏行訳、早川書房、2008年刊︶ 色々な解釈が可能で、万人に訴える力のある本だと思う。そういう意味で現代の神話。人間と自然との関係や、文明の裏側にひそむ生と死の真実とはこういうものだ。個人的にはこんな旅をしてみたいという衝動をおぼえた。
︵2︶町田康著﹃告白﹄︵中央公論新社、05年刊︶ 町田氏の作品では﹃ホサナ﹄も凄︵すご︶かったが、平成ベストということならこちらか。ささいなことで人生が転落する不条理を見事に描いていて、悲劇は誰にでも起こりうる、そういう地続き感があり普遍的。
︵3︶辻邦生著﹃西行花伝﹄︵新潮社、95年刊︶ 文体の奥深さ、流麗さもさることながら、さまざまな人物の語りを通じて西行像を浮かびあがらせる手法が素晴らしい。重厚な辻作品群の中でも圧倒的に最高峰と断言できる。
︵4︶國分功一郎著﹃中動態の世界﹄︵医学書院、17年刊︶ 動詞の態をつうじて、そこにあるのに見えなかった世界が明らかになっていく展開がスリリングだ。世界をつくっているのは言葉だし、言葉が限定されると世界も限定される。それがはっきりわかった。
︵5︶増田俊也著﹃木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか﹄︵新潮社、11年刊︶ ある意味、取材系ノンフィクションの究極だ。異種格闘技戦の真実を追求する旅路のようでもある。格闘技に興味がなくても面白く、読んでいない人はそのぶん人生が不幸になる、そんな本である。=朝日新聞2019年8月7日掲載
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