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 信販会社のコールセンターでキャッシングの督促業務を担っていた榎本まみさんは、“逆ギレ”する客の怒りを鎮め、返済を促すプロだ。だが、もともと内気で話し下手。新人の頃は、何気ない応対が客の怒りを増幅させたという。

 客から怒号を浴びる日々が続き、「このままでは自分が病んでしまう」と危機感を覚えた榎本さんは、それまで通り一遍だった「聞き方」を、相手を“誘導”するための手段として捉え直すことに。その結果、回収できる確率が大幅に上がり、年間2000億円もの回収に成功するようになった。

<span class="fontBold">榎本まみ(えのもと・まみ)さん</span><br />新卒で信販会社に入社し、支払い延滞顧客の督促を行う部署に配属。気弱な性格でも、多重債務者や支払い困難な顧客に言い負かされず回収できる独自のメソッドを開発。300人のオペレーターに指示し、年間2000億円の回収に成功した。現在は某金融機関のコールセンターで働く。著書に『督促OLコールセンターお仕事ガイド』(リックテレコム)など。(イラスト:榎本まみ)

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 榎本さんが、逆ギレする人を“動かす”ために意識しているのは、「聞き方の工夫で怒りを鎮める」→「効果的な質問で相手を動かす」という2つのステップだ。

 「怒りを鎮める」ポイントは大きく5つ(次ページの囲み参照)。1つ目は「相づちのバリエーションで、聞く姿勢と共感をアピールすること」だ。

 「はい」「すみません」をおざなりに繰り返すだけでは、相手をイラつかせ、さらに怒りを増幅させかねない。「確かにその通りです」「お気持ち分かります」などと相づちのフレーズを複数用意し、共感しながら聞けば、相手が「親身に話を聞いてくれている」と感じ、警戒心が薄れる場合が多いという。

①相づちのバリエーションを複数用意し、「聞く姿勢」と「共感」をアピール!

 新人の頃は「はい」「すみません」など相づちがワンパターンだったため、「本当に話を聞いているのか!」と怒られることもあった。「あなたの話をちゃんと聞いています!」とアピールするために相づちのバリエーションを増やし、共感しながら話を聞くと、怒りが鎮まるようになったという。「長くても20分ほど聞き続けると、冷静になる人が多いです」(榎本さん)。





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相手の罪悪感を刺激する

 声のトーンや話すスピードも重要だ。「怒っている人は早口が多いので、それにつられず、こちらは落ち着いたトーンでゆっくり話すことを心がけます。すると相手の話す速度も落ちてくる。人間はゆっくりとした口調では怒りにくいので、自然に冷静になるんです」(榎本さん)。

(マンガ:榎本まみ)
(マンガ:榎本まみ)

“聞く”ストレスは、“ドラクエ方式”で解消!

 客の怒りを毎日聞いているとストレスがたまる。榎本さんは、怒鳴られた言葉などをノートに書き残すことで、「このクレーム、新しい!」などと客観視しながら楽しんでいる。また、イヤな思いをした日は手帳にシールを貼り、10枚たまったら「(私の)耐性レベルが10ポイント上がった!」などと、“ドラクエ方式“で“自己成長”を楽しみながら、外食などの“プチご褒美”を自身に与えている。

(イラスト:榎本まみ)
(イラスト:榎本まみ)
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 「相手を動かす」ポイントは2つ。質問を投げて「いつまでに」「どう動くか」を相手に決めさせた上で、約束通りに動いてくれなかった場合に、「お客様が10日にご入金してくださるとおっしゃったので、お待ちしていたのです…」などと罪悪感を刺激するような問いかけをすることで、行動に向けてそれとなく背中を押すのが基本だ。

 逆ギレとまではいかなくても、「すぐ怒る上司」や「いつも反抗的な部下」など、コミュニケーションが難しい相手を動かすには、榎本さんが実践している「聞き方」は大いに活用できるはず。ぜひ実践してみてほしい。

①具体的な約束内容は相手に決めさせる

 質問を投げると、人間の脳は無意識に答えを考えるようになる。榎本さんは、「返金してください」ではなく、「いつまでに、いくらならお支払いできますか?」と質問を投げかけるようにしたところ、回収率が大幅に上がったという。


②罪悪感を刺激するように問いかける

 督促して入金日を約束しても、約4割の客に破られていたという。そこで、榎本さんは相手の罪悪感を刺激することにした。「お客様が10日にご入金してくださるとおっしゃったので、お待ちしていたのですが…」と約束を破られた悲しさを伴った問いかけをすることで、逆ギレされることがほとんどなくなったという。

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