【PC遠隔操作事件】江ノ島の猫その後
前回、話題にした江ノ島の猫の首輪の裏返し問題。その後、猫の世話をしている地元の女性が、首輪をつけかえたと証言している、という情報をいただき、確認に赴いた。
この女性︵ここではA子さんとしておく︶と家族は、猫たちの好みに応じて食べ物を提供したり、荒天の時に雨風をしのぐ場所を用意したりしている。首輪をつけられた猫は、ここでは﹁グレー様﹂と呼ばれていた。ふだんは、頂上付近の植物園前のスペースにいることが多い﹁グレー様﹂だが、活動範囲はかなり広く、今年初め頃までは、海に近いA子さんのところまで毎日のようにやってきていた。
今年1月4日に来たのは午後7時30頃。A子さんは﹁グレー様﹂が好きなミルクを温めた。見ると、ピンクの首輪がきつそうだったので、ミルクを飲んでいる間に外した。その時に、黒いモノ︵マイクロSDカード︶が付いているのに気づいた。
![ミルクを飲む「グレー様」(A子さん提供)]()
ミルクを飲む﹁グレー様﹂︵A子さん提供︶
﹁最近、GPS付きの首輪が売られていると聞いたので、それかな、と思ったんです。グレー様は上の植物園でかわいがられていて、年をとってきたこともあるので、植物園の人が心配してつけたのかな、と。そう思い直して、いったん外した首輪を、もう一度つけ直しました﹂
その際、長さを調整し、あまりきつくならないようにした。つける時には、黒いモノが内側になるようにした、という。つまり、表向きにつけた、ということだ。
﹁ゆるめたので、警察官が乱暴に引っ張った時に、するっと抜けたんです。元のままだったら、首が絞まって大暴れしたりして、本当にかわいそうなことになっていたはず。問題のモノも回収できなかったかも…﹂
ちなみに猫は、前日3日の夕方にも来ていて、この時はA子さんの姉がミルクをあげている。その際、姉が﹁グレー様にピンクの首輪がついてる!﹂と声を挙げるのを聞いた、という。しかし、姉はこの時に首輪には触れておらず、表裏についても意識しなかった。
私が集めた写真からは、4日午後3時半頃まで、首輪は裏返しについていることは確認できた。A子さんは外す前の首輪の状態が表向きか裏返しかは覚えていない。なので、確定的なことは言えないが、A子さんがつけかえた時に裏から表になったと考えれば、首輪の裏表が変わることに犯人が介在する必要はない。
私が挙げた可能性は、犯人以外に首輪をつけかえる人はいないはず、という前提だったが、その前提が間違っていた、ということになる。なので、前回の仮説は撤回することとしたい。
![日だまりの中で身繕いする「グレー様」。この後、首をかきかき…]()
日だまりの中で身繕いする﹁グレー様﹂。この後、首をかきかき…
ただ、それでも私の中で疑問はまだくすぶっている。犯人は、本当に、マイクロSDカードを表側にして猫につけたのだろうか…。猫好きであればなおのこと、猫が移動したり、すりすりしたり、首のあたりをかいたりした時に、カードが脱落してしまう可能性を、考えるのではないだろうか…。
首輪を表向きにつけているならば、猫が苦しそうなくらいきつく巻いてあったのは、裏側につけたSDカードが脱落しないため、と考えることができる。しかし、裏返しにきつく巻いても、何の意味もない。猫が苦しいだけだ。まったく、﹁グレー様﹂に対する犯人の対応は、とても猫好きのそれとは思えない。
そういうこともあり、首輪についての疑問は払拭しきれたわけではない。今は疑問のまま心の中にとどめておきたい。もし、午後3時半以降7時半までの間の写真を探すなど、地道な努力をしつつ、何か状況が変われば、改めて考え直すことにしよう。
犯人のアカウントに複数の人がアクセス
ところで、共同通信の記者が、昨年10~11月にかけて、﹁真犯人﹂からの告白メールが送られたウェブメールのサイトに、パスワードを入力し、送受信の記録を複数回にわたって盗み見ていたことが明らかになった。報道によれば、記者はこれまでの犯人の声明などから類推して、数回パスワードを打ち込んだら、アクセスできた、という。 しかも、﹁真犯人﹂のアカウントにアクセスしたのは、この記者だけではないようだ。 2ちゃんねるの掲示板には、﹁真犯人﹂が2通目のメール︵自殺予告メール︶を送った昨年11月13日深夜以降に、自分もログインした、と語るこんな書き込みがある。
︿俺も2件目のメールの後に気づいてログインできたけど、かなり共同がログインした形跡あったからなあ
ちなみにアカウントは例の鬼殺十蔵@ヤフー。
パスワードはvxgus1234
1件目の真犯人からのメールの時に、別のアカウントのパスワードとして書かれてたっけ。 パスワード自体は2件目の前には公開されてたから、実は2件目のメール以降は真犯人じゃない可能性もあるんだよね。﹀
︿俺がログインした時点では共同とTor以外ではログインした形跡はなかった。
ちなみに、このパスワードはExciteメールのパスとして公開されてた。
そっちは国内生IPアドレスがごろごろしてたよ。共同も混ざってた。 ﹀
﹁Exciteメール﹂とは、﹁真犯人﹂が福岡の男性のPCを遠隔操作して都内の幼稚園などに脅迫メールを送った時のメールのことだろう。アカウント名は﹁morokkosarin﹂。オウム真理教がばらまいたサリンの名称が含まれている。この時、パスワードに﹁vxgus1234﹂と、やはりオウム真理教が作った毒ガス名を入れ込んでいた。この情報は新聞でも報じられた。同じパスワードが、犯行告白や自殺予告など、報道関係者などに対するウェブメールでも使われていた、ということのようだ。
こんなあっさりアクセスできる状況なら、11月の中旬以降、他にも気づいてアクセスを試みた者がいてもおかしくない。この2ちゃんねるの書き込み主が言うように、﹁2件目のメール以降は真犯人じゃない可能性﹂は、排除できない。︵ただし、そうした行為は、いずれも不正アクセス禁止法に違反する犯罪として処罰される可能性があるので、試してみたりしないでください︶。
![回収された首輪。SDカードがついている(ロケットニュース24より)]()
回収された首輪。SDカードがついている︵ロケットニュース24より︶
そう考えていくと、今年元旦の雲取山にUSBメモリを埋めておいたことをクイズ形式で知らせるメール、そして1月5日未明の江ノ島の猫メール。これは前年の2通のメールと本当に同じ人が書いたのだろうか、という疑問もないわけではない。なにしろ、前年の11月には自分がミスをしていることに気づいて、心の動揺を隠しきれないメールを送っていたのに、年が明けたとたん、かなりのハイテンション。﹁マスメディアの方は独占スクープのチャンスです。早い者勝ちですよ﹂などと、自信満々で記者たちを煽っている。ミスをしたけれども、捜査が自分の身に及ばないという確信を得られる何かが、1か月半の間にあったのだろうか…。あるいは、犯人は気持ちのアップダウンが激しいタイプなのか…
今年に入ってからの2通のメールは、雲取山のUSBメモリ、江ノ島の猫のマイクロSDカードという記憶媒体とセットだ。ただしUSBメモリの方はみつからなかった、とされている。江ノ島猫メールの方は、実際にSDカードが回収された。その中に、﹁真犯人﹂でなければ知りえない情報、﹁真犯人﹂しか入手しえないデータが含まれているのだろうか…。これについては、今後裁判の中で明らかになるだろう。