トートバッグデザインパクリ事件で学ぶ著作権侵害の基礎
佐野研二郎氏デザインとされるトートバッグの著作権侵害問題が大炎上しています。周知のように、結局、一部の商品の提供が中止されることになりました。
上記以外にも佐野氏や関係者のパクリを指摘するネットの声がありますが、そこでは、著作権侵害に相当しないものまで一緒くたに非難されているケースが見られます。皮肉な話ではありますが、今回のトートバッグが著作権侵害について学ぶ上でよい題材になると思いますので、これを使ってどういう場合に著作権侵害が成立するかについて見ていきましょう。
著作権侵害が成立するためにはざっくり言うと以下の条件が必要です︵引用・私的使用目的複製等の著作権法上の権利制限規定はこの文脈では関係ないので割愛します︶。
元ネタは海岸にあるような立て札をモチーフにしていますが、わざと下手にした感じなどデザイナーの個性が表われており著作物と言えます。本件は画像のデッドコピーであり、当然に元ネタの作者の個性も含めてコピーされていますので著作権侵害は否定しがたいと思います。FNNニュースによれば、元ネタ作者︵Ben Zaricor氏︶は、結構怒っており法的手段も検討しているとのことです。
個人が撮影したパンの写真です。これもデッドコピーに近いので依拠性と類似性は否定しがたいでしょう。問題は、パンの写真の著作物性ですが、前回書いたように著作物とされる可能性は十分にあるでしょう。
プールで泳ぐ女性のイラストです。水面に浮かぶ女性とプールの底の影だけを描くという手法そのものはアイデアに過ぎないですが、脚部分がトレースされているようで、依拠性、類似性共にかなりグレーだと思います。同じくFNNニュースによれば、元ネタ作者︵Geoff Mcfetridge氏︶は、﹁とんでもないこと﹂としつつ、法的手段を取るまでには至らないと述べているようです。
次は取り下げられなかった方です。
黒猫が半分だけ顔を出しているという構図はアイデアと言えます。表現としてはそれほど似ていない︵というか黒猫をシンプルなイラストにするとこういう感じにならざるを得ない︶と思いますので著作権侵害的には一応クリアーでしょう。ただ、この元ネタ作品は結構有名なので︵私の家にもあります︶アイデアを模倣すること自体がモラルとしてどうかという問題はあります。実際、元ネタ作者は法的手段に訴える意思はないものの、﹁﹃この流れのなかで、まだ一部分しか認めない︵注‥一部しか商品を取り下げなかったこと︶という佐野さんの認識は少しご自身に甘いようにも思えます﹄と苦言を呈した﹂そうであります︵参照記事︶。
スイカの絵です。スイカを一口かじった構図は︵比較的良くある︶アイデアですし、定型的な表現を除くと似ている要素はあまりないので著作権的には問題ないと思います︵もちろん、今後デッドコピーに近い元ネタが発見されれば別です︶。
全部検証している時間がないですが、やはり、ブラックなもの、あるいは、グレー度が高いものを取り下げて、それ以外は残したのだなあという感触です。
ここでは著作権の問題だけを論じましたが、当然ながら、著作権侵害でなければ何をしてもいいのかというとそんなことはなく、モラルや業界ルール的な不文律も考えなければいけません。これもグレーゾーンがある話で人により考えは異なるでしょうが、私見では上記のクロネコは著作権的にはOKだがモラル的にはアウト、スイカは著作権的にもモラル的にもOKなんじゃないかと思います。
また、モラルの問題としては、一部商品に問題があった場合に、その商品だけ取り下げればすむのか︵キャンペーン全体としてやめるべきではないか︶という議論もあるかと思いますが、これは著作権とは直接関係ない話なので、私としては特にコメントしません。
さらに、パブリシティ権︵有名人の名前や写真・似顔絵等を勝手に使った場合等︶が問題になるケースもあるかもしれませんが、長くなるので割愛します。また、オマージュ、パロディをどう扱うべきかの議論もありますが、これまた長くなるので別途。
ということで、今回の件に限らず、今後著作権侵害疑惑をネットで指摘する際には、上記の点を念頭に置いて考えるとよいのではないかと思います。
︻追記︼実際の裁判例で著作物の類似性がどう扱われるかについての記事を書きましたのでご興味ある方は合わせてお読みください。