大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

シャープの液晶パネル工場は、なぜAIデータセンターになるのか?
名乗りを上げたソフトバンクとKDDIの思惑とは

 シャープの液晶パネル工場である大阪府堺市の堺ディスプレイプロダクト(SDP)が、AIデータセンターとして再スタートを切ることになる。

堺ディスプレイプロダクト(SDP)の建屋

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KDDIが導入を予定しているNVIDIAの最先端AI計算基盤「GB200 NVL72」

 合意内容についてKDDIなどでは、「AIが加速的に進化するなか、急増するAI処理に対応できるAIデータセンターの構築が求められているが、大規模なAI計算基盤を持つデータセンターを構築するにあたっては、最先端の演算装置の調達、設備の発熱を抑える高効率な冷却システムの整備、電力、場所の確保の3点が課題となる」とし、「これらの課題に素早く対応したAIデータセンターの構築を目指すべく、NVIDIAの最先端のAI計算基盤を構築すること、Supermicroが発熱量に対応可能なプラットフォームを提供することで協議を開始する。KDDIは、ネットワークの構築および運用をサポートし、電力の調達と場所の確保については、シャープが堺市に保有する施設や設備の活用を検討するなど、各パートナー企業のアセットを集結する」としている。

KDDI調Super Micro ComputerCharles LiangCEOCEOKDDI2姿

 もうひとつの陣営は、ソフトバンクである。こちらは6月7日にニュースリリースを出し、SDPの土地および建物を活用した大規模なAIデータセンターの構築に向けて、シャープと基本合意書を締結したことを明らかにした。敷地面積全体の約6割にあたる約44万平方メートルの敷地と、延べ床面積約75万平方メートルの建物に、受電容量で約150MW規模のデータセンターを構築して、2025年中の本格稼働を目指すという。将来的には、受電容量を400MW超の規模にまで拡大する見込みだ。

 ソフトバンクによると、「AIデータセンターの構築について、2024年1月から協議を進めており、ソフトバンクは、シャープ堺工場の土地や建物、電源設備、冷却設備などを譲り受けることで、データセンターの早期構築を図り、2024年秋ごろに着工し、2025年中に本格稼働させることを目指す。環境負荷が低いデータセンターとして、クリーンエネルギーの活用を検討する予定である」としている。

 また、「このデータセンターは、生成AIの開発、およびその他のAI関連事業に活用するほか、社外からのさまざまな利用ニーズに応えるため、大学や研究機関、企業などに幅広く提供していく予定である。さらに、ソフトバンクとシャープはAI関連事業における連携を検討していく」としている。

 ソフトバンクのニュースリリースでは、写真が添付され、赤枠で示されたところが、シャープから譲り受ける部分としている。ここには、SDPの液晶パネル工場のほか、電気、水、ガスなどのインフラエリア、物流施設などが含まれる。

赤枠内が、ソフトバンクが購入するエリアとなる。中心にある一番大きな棟が液晶パネル工場

 シャープでは、KDDIなどとの契約において、「堺工場のなかで、ソフトバンクとは異なる場所で、最適化を見込める提案を行い、協議を開始した段階」としており、KDDI陣営は、ソフトバンク陣営が契約したエリア以外の約4割の敷地のうち、SDPが持つ2つのカラーフィルター棟などがAIデータセンターとしての契約対象になりそうだ。

SDPのカラーフィルター棟

 また、インフラエリアをソフトバンクが抑えるため、KDDI陣営がAIデータセンターを運営する際には、ソフトバンクが購入したインフラエリアから電源供給を受けなくてはならないということも想定される。

 KDDIとソフトバンクのライバル2社が、同じ敷地内でどう共存するかも注目される。

AIデータセンターを設置することになるSDPとは?


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大阪府堺市のグリーンフロント堺
入り口にあるグリーンフロント堺の看板

 この場所は、新日本製鉄(現・日本製鉄)が所有していた127万平方メートルの敷地を取得し、再構築したもので、甲子園球場が32個入る広大な敷地に、SDPによる液晶パネル工場、凸版印刷および大日本印刷の子会社による液晶パネル生産のためのカラーフィルター工場、コーニングによる液晶パネル向けマザーガラス工場が進出。それらを棟間輸送で結ぶほか、液晶パネル生産と近い技術を持つ薄膜太陽電池の工場も設置される計画だった。

当初発表されたグリーンフロント堺の構成

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畳5.6畳分に匹敵する液晶パネルを生産した(当時の片山幹雄シャープ社長)

   

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SDPの入り口の様子
SDPの看板

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シャープ本社。薄膜太陽電池の生産を想定して建設した建屋だ
クボタの研究開発拠点「グローバル技術研究所」

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水冷サーバーを設置する際には水を循環させるための設備が必要になり、施設の耐荷重が課題となる(写真はNTTコミュニケーションズが試験稼働している水冷サーバー)
SDPに導入されている露光装置

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5月14日の決算説明会でSDPの液晶パネル生産の停止とAIデータセンターへの移行を発表したシャープの呉柏勲社長兼CEO

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液晶パネル工場とカラーフィルター工場の位置

 鴻海グループ、シャープ、KDDI、そして、ソフトバンクによって、さまざまな思惑が錯綜(さくそう)するSDPのAIデータセンター化の動きではあるが、データセンター事業を行う企業にとって、SDPの施設は、利用価値が大きいことに間違いはない。