AWSやクラウドサービスを組み合わせ、コードを書かずに課題を解決する﹁作らない﹂SIを目指す株式会社サーバーワークス代表の大石良氏と、開発者コミュニティ﹁DevLOVE﹂のファウンダーであり、﹁正しいものを正しくつくる﹂を理念として、ギルドワークス株式会社を設立した市谷聡啓氏。一見すると両極端な二人からは、ソフトウェア開発に対する共通した姿勢が浮かび上がりました。
聞き手は、翔泳社主催のソフトウェア開発者向けカンファレンス「Developers Summit」(デブサミ)の育ての親である岩切晃子と、取りまとめ役の鍋島理人です。
ソフトウェアを「作らない」SIは後ろ向きか
岩切 ► 今回の対談は、市谷さんがギルドワークスを設立された際に、市谷さんから大石さんを紹介してほしいと言われたことが背景にあります。なぜ、大石さんに興味を持たれたのでしょうか。
市谷 ► ギルドワークスでは﹁正しいものを、正しくつくる﹂をミッションにしています。しかし、自分たちの周辺だけで全部やっていけるとは思っていなくて、それぞれ何かしら持っているいいところ結集して、いいプロダクトを作っていきたいと考えています。そこで、AWSに関して、自分たちでは手に負えないところに長けている大石さんに、色々お話を伺ってみたいと思いました。
岩切 ► 正しく作るために大石さんの力を借りたかった。一方で、作らない派の大石さんとしては、正しく作る派の市谷さんが大石さんに胸を借りたいと言っていることに対してどう感じましたか。
大石 ► いや、すごくありがたいです︵笑︶。実は、作らないって言い出したのは、ロート製薬さんとお仕事した2010年からです。システム部の部長さんが、﹁これからはアプリを作りたくないんだよね﹂って仰っていて、リースが切れる古いWindowsサーバーのAWSにのせて、Amazonを延命策として使いたいという話をされていたんです。AWSは、もっとイノベーティブで、新しいものだと思っていたので、後ろ向きな扱い方に驚いてしまいました。よくよく話を聞いてみると、前向きなところに注力するために、後ろ向きなところはクラウドを使おう、ということだったんです。従来は、ハードとソフトはリース期間が揃っていて、リースアップに合わせてシステムを更改する、というのが慣習としてあったけれど、リースアップ後は、ハードをAWSに乗せ、アプリはそのまま使い続ける。そのようにして、作らないアプローチを実現したいとおっしゃっていたところに感銘を受けました。
情報システムには、今あるものはAWSでうまく延命しつつ、新しいシステムが欲しくなった時には、AWS上で作ったり、Salesforceやkintoneなどの既存サービスを組み合わせるという形があるんだと気付かされて、これが僕らの進むべき道だ、と思いました。
岩切 ► 作らないというのも正しい選択の一つだと思いますが、市谷さんの﹁正しいものを、正しくつくる﹂というスローガンを初めて聞いた時にどう思いましたか。
大石 ► 実はサーバーワークスも、作ることを全部やめようと言っているわけではなく、自分たちが提供するサービスはちゃんと作ってるんですね。作る作らないをはっきりさせるってすごく大事だと思っています。
私達は当初、自社で使う営業管理システムを自作していたんですよ。その方が、自分たちにフィットするものが作れるはずだと思って。そしたらですね、うまく行かなくなったんです。結局、社内の余ったリソースでやるので、現場から上がってくる要求事項に応えられなくなっちゃうんです。一方、Salesforceは年に3回アップデートする。実は、Salesforceや外部のクラウドを使ったほうが、ちゃんと機能アップもされるし、運用も全部やってくれるし、むしろそっちの方が進化のスピード早いなということに気づいて。それで、営業管理みたいなコモディティは作るのではなく使おうと。もちろん、サービスや競争力の源泉になるもの、それはやっぱり作らなきゃだめだと思います。ただ残念ながら、当社は競争力の源泉たらしめるほどの優れたコードを書く人材が限られています。
お客さんに、品質のいいコードを正しく作ってデリバリーするのってすごく難しく、高度なことなので、今はお客さんが使うシステムを作るのは控えよう、というのが作らないSIのもう一つの側面です。