- 図書館における複製(31条) B+
- 教科用図書への掲載(33条) B
- 教科用拡大図書等の作成のための複製(33条の2) C
- 学校教育番組での放送等(34条) C
- 学校その他の教育機関における複製等(35条) B
- 試験問題としての複製等(36条) B
- 点字による複製等(37条) C
- 聴覚障害者のための自動公衆送信(37条の2) C
以下の場合、政令で定められた図書館は、営利を目的としない事業として、図書館資料を用いて著作物の複製を行うことができます︵31条︶。
(一)利用者の求めに応じ、その調査研究の目的のために、公表された著作物の一部分を一人につき1部提供する場合︵1号︶
(二)図書館資料の保存のため必要がある場合︵2号︶
(三)他の図書館の求めに応じ、絶版等一般に入手することが困難である資料の複製をする場合︵3号︶
以下、31条1号に絞って解説します。
︵1︶政令で定められた図書館
ここでいう図書館とは、国立国会図書館や公共図書館、大学・高等専門学校の図書館など、政令で定められた図書館のことをいいます。初等中等教育機関の学校図書室や、企業の図書館は含まれていません。
︵2︶複製の主体
複製行為の法的な主体は政令で定められた図書館であり、当該図書館の責任のもと、その管理下にある人的・物的手段を用いて複製が行われる必要があります。
勘違いしやすいですが、複製行為の主体は図書館です。つまり、あくまでも図書館の利用者がコピーを希望し、図書館はその求めに応じてコピーするというわけです。利用者は複製行為の主体ではありません。
複製行為の主体が大学図書館で、コピー機によってセルフ式で利用者にコピーさせる場合は、一定の要件を満たすことで31条の要件を満たすという取り決めになっています︵PDFファイルのソース︶。
︵3︶複製の対象
複製できる著作物は、複製が行われる図書館の蔵書や保管資料です︵CD、DVDを含む︶。図書館の利用者が持ち込んだものは、当該図書館においては複製できません。
︵4︶調査研究の目的
利用者が調査・研究のために著作物を複製することが必要です。娯楽目的の複製は認められていません。
︵5︶複製の量
私的複製︵30条︶とは異なり、複製できるのは一部分に限られます。ここでいう一部分というのは、個別・具体的な判断が必要ですが、多くとも半分までと解されています。
教育上、著作物を利用する必要性は高いため、以下の要件を満たすときにかぎり、著作物を教科用図書に掲載することができます︵33条︶。
(一)公表された著作物であること
(二)学校教育の目的上、必要と認められる限度であること
(三)著作者に通知すること
(四)補償金を著作権者に支払うこと
(五)出所を明示すること︵48条1項1号︶
著作者への通知が必要なのは、著作物を教科用図書に掲載するさいに翻案が認められているため︵43条1号︶、著作者が権利行使する機会を確保する意味があります。つまり、著作者にとっては好ましくないかたちで著作物を改変されて教科用図書に掲載されることがありうるため、著作者への通知が必要とされているのです。
弱視の児童または生徒の学習の用に供するため、教科用図書の文字、図形を拡大して複製することができます(33条の2第1項)。この場合はその旨を教科用図書を発行する者に通知し、営利目的ならば補償金を支払わなければいけません(同条2項)。
以下の要件を満たすときにかぎり、著作物を学校教育番組において放送し、または学校教育番組用の教材に掲載することができます(34条)。
- 公表された著作物であること
- 学習指導要領に準拠した番組であること
- 学校教育の目的上、必要と認められる限度であること
- 著作者に通知すること
- 補償金を著作権者に支払うこと
- 出所を明示すること(48条1項2号)
具体的には、NHKの教育番組などで著作物を利用する場合、相当の補償金を払えは許諾がなくとも利用できるということです。
学校教育において、他人の著作物を利用するたびごとに著作権者の許諾を得るのは、円滑な教育活動を阻害してしまいます。また、利用の方法や態様によっては、無許諾での著作物の利用を認めても著作権者の利益を不当に害するとはいえないでしょう。そこで、以下の要件を満たしている場合に限って、教育機関での複製が認められるようにしました。
(一)営利を目的としていない︵非営利︶教育機関であること
(二)教育を担任する者および授業を受ける者であること
(三)授業の過程で使用することを目的としていること
(四)必要と認められる限度であること
(五)著作権者の利益を不当に害しないこと
(六)公表された著作物であること
(七)慣行があるときは出所を明示すること︵48条1項3号︶
なお、譲渡が当然に想定されるときは、本条によりその譲渡についても著作権が制限されます︵47条の3︶。たとえば、学校の教員が授業で使うために著作物をコピーして、児童に譲渡︵配布︶することは問題ありません。
︵1︶非営利の教育機関
非営利の教育機関とは、幼稚園、保育所、小学校、中学校、大学、高等専門学校、専修学校、公民館、青年の家、少年自然の家、公的研修施設、職業訓練所などです︵以上、作花・詳解314頁︶。
ここでいう教育機関は、組織的・継続的に教育をする機関を意味し、公的施設で単発の講座を開設する場合は含まれないと解されます︵前掲・314頁︶。
塾などは営利を目的としているので、そもそも著作権者の許諾なしに複製はできません。企業の新人研修などの場合も同様です。さらに、試験後その問題を冊子に印刷して配付することも対象外です。
︵2︶複製行為者
本条により複製のできる者は、教育を担任する者、および授業を受ける者です。ここでいう教育を担任する者とは、授業を実際に行う者のことです。教育委員会などは含まれません。
︵3︶授業での使用
複製物の使用目的が、授業の過程で使用するものである必要があります。よって、夏休みなどの長期休業中の宿題として教材を複製することはできません。しかし、クラブ活動や、講義、実験、ゼミなどは授業に含まれます。
︵4︶許容される複製の限度
必要と認められる限度での複製が認められていますが、著作物の種類・用途や、複製の部数・態様に照らし、著作権者の利益を不当に害することはできません。
クラスの担任の先生がテレビで放送された教育番組をビデオに録画して、小学校の授業で児童に見せる行為や、児童や生徒が本の一部をコピーして授業で発表する行為などは許容されます。
しかし、ドリルなどの問題集の複製はできないとされます。ドリルは通常、児童や生徒が個人で購入して使用することを念頭に置いているため、これを授業のために使うのは用途に反しているからです。
35条2項は省略。
試験などはその性格上、漏洩︵ろうえい︶の恐れがあるため、事前に著作権者の許諾を得ることは困難です。そこで、以下の要件を満たすときに限り、著作物を試験問題として複製、または自動公衆送信︵送信可能化を含む︶することができます︵36条︶。
(一)公表された著作物であること
(二)入学試験、その他、人の学識技能に関する試験や検定試験であること
(三)必要と認められる限度であること
(四)著作権者の利益を不当に害しないこと
(五)営利目的の場合は補償金を著作権者に支払うこと
(六)慣行があるときは出所を明示すること︵48条1項3号︶
たとえば、学校の教員が国語の入試問題を作成するさい、小説を複製して文章問題を作る行為などがあたります。この場合は、著作権者の許諾も補償金も不要です。他方、塾の講師が模擬試験などを作成するさいに小説の複製をする場合は、著作権者の許諾は不要であるものの、補償金の支払が必要になります。
出版社が学校の入試問題を過去問題集として出版しようとする場合、当該入試問題のなかに文芸作品などの著作物が入っているなら、その著作権者から利用許諾を得なければいけません。つまり、出版社側としては大学と文芸作品の著作権者、双方から利用許諾を得なければいけないということです。
営利目的で試験問題を複製した場合に補償金の支払いが必要なのは、営利で他人の著作物を利用している以上、そこから生じた利益を著作権者に還元することが公平に資するからです。
公表された著作物は、点字による複製をすることができます︵37条1項︶。営利・非営利を問いません。また、同じく公表された著作物については、コンピュータを使用して点字を処理する方式により、記録媒体に記録し、公衆送信することができます︵同条2項︶。さらに、点字図書館など政令で定められた施設は、公表された著作物を、視覚障害者向けの貸出し、もしくは自動公衆送信のために録音したり、録音物を用いて自動公衆送信することができます︵同条3項︶。
政令で定められた施設は、もっぱら聴覚障害者のために放送番組・有線放送番組の音声を字幕にして、自動公衆送信することができます(37条の2)。本条はあくまでも、聴覚障害者がインターネットにより字幕を受信してテレビ画面を見ることを想定しています(リアルタイム字幕)。したがって、認められているのは自動公衆送信だけです。