Twitterではたまに書いているのですが、エロ漫画広告バナー︵主に女性向け︶をウォッチすることが趣味です。
エロコンテンツの在り方には時代の潮流やジェンダー差が結構ダイレクトに反映されるし、Web広告はTVCMや雑誌広告と違って﹁消費者のニーズを反映してリアルタイムでどんどん最適化していく﹂ものなので、広告の配信頻度&訴求の仕方を見ていれば大体の流行りが分かる。それが楽しいんですよね。
特に女性向けコンテンツ︵いわゆるTL‥ティーンズラブ︶の流行に興味があって︵自分が女なので男性向けのトレンドは観測しづらいというのもありますが︶、目新しいバナーに当たったら出来るだけスクショを撮って保存するようにしています。
ここ1年でスクショが300枚以上溜まったので、昨年のトレンドや目立った動きをざっとまとめておきたいと思います。
▲カメラロールが地獄絵図
※あくまで﹁私個人の﹂観測結果なので、全体の流行と比べて多少のズレはあると思いますがご容赦を。
一応、配信される広告の傾向に大きな偏りが出ないよう、普段は極力広告を踏まないようにしています︵どうしても気になったものや明らかに流行っているものは読みに行くこともあります︶。
※コンテンツそれ自体より﹁広告の出方とそこから分かるトレンド﹂に興味があるので、作品の中身を一つ一つ論評するわけではないです。
※女性向けとしてはBL系広告も増えてきてますがここでは扱いません。
※ここで言う﹁女性向け﹂は厳密には﹁異性愛者の女性向け﹂、﹁男性向け﹂は﹁異性愛者の男性向け﹂ですが、記事中では略して表記します。
— crop (@cropcrop01) 2016年4月7日
時系列で追ってると、明らかに①がウケたから②が作られ、②が大好評だったので③→④へ…という流れなんだけど︵こういうスマホ漫画広告はクリック率と売上が全て︶、女子の正直な欲望に応え続けたら﹁ん?相手役って男である必要無くない?﹂となって最終的に百合に到達したの凄まじくないですか? 0:40 - 2016年4月8日
﹁頼れる相手がいいけど普段からオラオラされるのは嫌だし女心は絶対分かってほしい!家事とかも分担してくれそうな人がいい!でも性的にはリードされたいし私に欲情してほしい!﹂という女性の願望を全部叶えようとしたら﹁自分のことが大好きなレズビアンの親友﹂に辿り着いたのめちゃくちゃ示唆深い 0:45 - 2016年4月8日
この時点ではまだ﹁オネエ失格に次ぐヒットを出すべく色々試してみている﹂という感じで、とにかく実験的な作品がどんどん出てきていました。
これは"オネエ"の別パターン︵ゲイ設定ではなさそう︶。
失恋したけどオネエ上司が親身に恋愛相談に乗ってくれたおかげで吹っ切れて、そのまま上司に口説かれて…というもの。
﹁オネエだから男として警戒してなかったし、相談に乗ってくれたお礼でもあるから受け入れちゃっても仕方ない!﹂という"言い訳"要素も完璧。二匹目のドジョウ狙いとしては充分売れたはず。
﹁オネエがこれだけ受けるなら、見た目を完全に女性にしてみたらどうだろう?﹂ということで、街コンで知り合った綺麗なお姉さんは超肉食系男子だった!という変わり種が登場。
これも一時期よく目にしたので、かなりヒットしたと思います。
これも﹁美少女だと思ったら肉食系男子だった!﹂のパターン。エロが結構男性向けっぽい表現なので、どちらでも読めるように作られている?
﹁オネエとかじゃなく、いっそ女性同士にしてみたらどうだろう?﹂ということで、なんと相手役がレズビアンの親友になりました。
これ、元作品は︵ちょっと確認できてないのですが︶男性向け要素が強いのかもしれません。
でも一時期明らかに﹁女性向け﹂の文法で宣伝されていたのは確かなので︵メンズコミックを女性向けにPRしてみることも時々あるようです︶、それがすごく興味深いな~と思って書いたのが上のツイート群でした。
ただ、これは︵女性向けとしては︶さほど売れなかったように見えます。﹁女性性を纏ってはいるけど、一皮むけば肉食系男子﹂であることがやはり重要だったのか。
これはもう、流行りの要素を全部詰め込んだら訳分からなくなったパターンですね。
﹁コスプレ趣味で知り合った親友︵女︶に恋の相談を持ちかけたら、実はその親友が憧れの上司︵のコスプレ姿︶だった!?気持ちがバレて襲われちゃって大変!﹂ということらしいんですが…さすがに分かりにく過ぎたのか、すぐに見なくなりました。
ただ、スマホ漫画業界のこういうフットワークの軽さは面白いです。
…と、こんな感じで沢山の後追い作品が出てきましたが、結局はこの方向性で﹁オネエ失格﹂を超えるヒットは出なかったようです。
で、上半期にこれだけ吹き荒れた﹁オネエ﹂旋風とは何だったのか?なぜこんなに流行ったのか?というと、これは完全に私の主観ですが、やっぱり﹁オラオラ系はそろそろお腹いっぱい﹂という世の中のムードとマッチしたんじゃないでしょうか。
上で書いた﹁頼れる相手がいいけど普段からオラオラされるのは嫌だし女心は絶対分かってほしい!家事とかも分担してくれそうな人がいい!でも性的にはリードされたいし私に欲情してほしい!﹂というのは、まあ正直に言えば現代を生きる私自身の願望でもあります。
これを完璧に充足しようとすると、確かに﹁夜は肉食系なオネエ上司﹂とか﹁自分だけには欲情してくれる料理上手なゲイ男性﹂みたいな想像上の生き物を生み出すしかありません。
ただ、4月にツイートした時もこう↓書いたんですが、
あと、これはまた別の話ですがこれらの広告って普通に全年齢に表示されてると思うんだけど︵だからこうして貼ってるんだけど︶流石にもうちょいゾーニングされるべきだし、PC意識も足りな過ぎると思う︵ゲイやレズビアンという性的指向をこんな異性愛者の勝手な欲望のために便利使いしちゃダメだ…︶
0:58 - 2016年4月8日
やっぱり、この﹁ゲイだけど自分︵女︶だけには欲情してくれる﹂という性的ファンタジーをむやみに撒き散らすのは、ポリティカル・コレクトネス的にはNGじゃないかと思うんですよね。
﹁これはファンタジーだ﹂という前提を共有しきれず現実世界での偏見を助長する恐れがあるからです、少なくとも今の段階では。
たとえば現在どれだけ女教師モノのAVが氾濫していても、それを見て﹁女性教師ってみんなエロいんでしょ?﹂と信じ込む人はいない︵と信じたい…︶わけですが、﹁オネエ失格﹂に触れて﹁ゲイであっても魅力的な女に出会えば変わるんでしょ?私にもチャンスある!﹂と思ってしまうティーンの女子はいるかもしれない。多分いると思う。
多感な時期に触れるエロコンテンツの影響力はめちゃくちゃ大きいです。本当に。
実際、ゲイの男性は女性に対して限りなくフラットに︵ガツガツせずに︶接することができるので、ヘテロ女性から見てすごく魅力的に映ることがありますし。私は﹁この人と仲良くなりたいな~!﹂と思った男性が4人くらい連続でゲイだったことがあります。
﹁ゲイって言うけど女を知ったら変わるかもよ~﹂とか﹁レズなの?それは良い男を知らないだけだよ!﹂とか言っちゃう人がまだまだ存在するこのご時世︵私はどっちもリアルで聞いたことあります︶、アダルトコンテンツにおけるLGBTの扱い方にはもう少し慎重になるべきじゃないでしょうか。
……と長々書いていたらオネエ周りにしか触れられなかった……ので、次の記事で﹁上半期のその他のヒット&下半期のトレンド﹂についてまとめたいと思います。
"女性向け"ならではの訴求ポイントとは?
上で﹁普段は極力広告を踏まない﹂と書いたんですが、じゃあそもそも何をもって男性向けバナー/女性向けバナーを峻別しているのか。 まあ絵柄と雰囲気でほぼ分かるだろと言われてしまえばそれまでなんですが、その﹁雰囲気﹂部分をあえて言語化してみると以下のような感じでしょうか。 ①モノクロ基調&目にやさしい配色︵主にピンク︶ ②モノローグが女性視点 ③男性の顔が確認できる︵美形であることが分かる︶ ④男女の関係性︵≒男の身元や素性︶が分かる 例えばこれ↓なんかは典型的な女性向けバナーですが、 ●モノクロ画像にピンクの文字&縁取り…①OK ●﹁新卒の私が…﹂という女性目線のモノローグ…②OK ●相手役男性の端正な顔アップ…③OK ●﹁新卒の部下と上司﹂という関係性がはっきり分かる…④OK 全ての条件を満たしているのでどう見ても女性向けです。 一方で男性向けバナーはどんな感じかというと、 ●"肉感"を伝える必要があるのでどぎつめのフルカラー ●﹁美女を発見﹂という男性目線のモノローグ ●女性のアップのみで、男性の顔は分からない ●2人の関係性も不明︵というか多分見知らぬ他人同士︶ …と、まあ︵もちろん例外は多々ありますが︶基本的には真逆の方向性。 というわけで、上記①~④を3つ以上満たしていればほぼ女性向けと判断しています。 これらの条件は10年前のガラケー全盛期からほぼ変わっていない気がするので、多分これを満たしてないとクリック率が下がるんでしょうね。 これに加えて、さらに﹁売れる︵クリック率が高く、よく読まれる︶﹂広告を作るためには ⑤男性の﹁欲情﹂が台詞や表情で表現されている ⑥﹁性的に求められて、受け入れちゃっても仕方ない﹂シチュエーションであることが伝わる ことが重要なように見えます。 上で例に挙げたバナーはこの両方を満たしているので模範的と言えるかもしれません︵実際そこそこ売れているはず︶。 ⑤については、男性の表情︵汗&息切れ︶で﹁主人公への欲情﹂が表現されているのでOK。ここは台詞︵﹁我慢できない﹂﹁もう止めらんねぇよ…﹂的な︶で表現されることも多いですね。 ⑥についても、﹁自分のせいで怪我をさせてしまった上司に、償いのために体を差し出している︵ので、性的に受け入れちゃってるけどビッチじゃないんだよ!あくまで償いのためだよ!︶﹂という﹁言い訳﹂がこれ以上ないほど明確に提示されています。安心してクリックできる。 ちなみにこの﹁言い訳﹂の作り方も、男性向けとはかなり傾向が異なっています。 女性向けでは﹁受け入れちゃっても仕方ない﹂状況作りが重視される一方、男性向けはもっと直接的に﹁挿入しちゃっても怒られない︵拒絶されない・罰せられない︶﹂ことが重要。 ▲天井から女子が落っこちてきてたまたま入っちゃっただけだから仕方ない! ▲ボディペイントで壁と同化してたらウッカリ入っちゃっただけだから仕方ない!︵天才か?︶ まあこの辺はさすがにネタ要素が強すぎますが、訴求の仕方に大きな違いがあるのは確か。この辺りの男女差は興味深いです。 ということで、前置きが長くなってしまいましたが、そろそろ2016年のトレンドを振り返っていきたいと思います。︵長くなるので2回に分けます︶上半期‥"オネエ"旋風が市場を席巻
2016年初頭の時点では、前年の特大ヒットだったと思われる"叔父"と"僧侶"の2TOPがまだかなり強い状態でした。 ▲父代わりに育ててくれた叔父とアレコレしてしまう﹁保護者失格。一線を越えた夜﹂ ▲同窓会で再会した初恋の相手がイケメン僧侶になっていた!﹁僧侶と交わる色欲の夜に…﹂ この2つに取って代わったのが、昨年大旋風を巻き起こした"オネエ"作品群です。 記憶している範囲では、まず最初にこの作品↓がそこそこのヒットを記録。 いわゆる"オネエ"言葉を使う男性がTL作品の相手役として出てくること自体がかなり珍しいことなので︵エロ要素のない少女漫画では﹁世界で一番大嫌い﹂などがありましたが︶、これの登場&ヒットは新鮮な驚きでした。 そして、上記のヒットを受け、満を持して登場したのがこれです。 同居してたゲイの従兄とひょんなことから関係を持ってしまい…という﹁オネエ失格﹂。これがとにかく大爆発しました。おそらく2016年最大のヒットタイトル。 これの何が衝撃的だったかって、この相手役男性は本当に﹁ゲイ﹂という設定なんですよね。オネエ言葉を使っているけどヘテロ、でもなければ最初からバイセクシャル、ということでもない。 これはさすがに﹁どういうこと!?﹂と思い一通り読んでしまいましたが、本当に﹁ずっとゲイで女には一切興味が無かったけど、主人公だけには何故か欲情してしまい恋愛関係になる﹂という驚きの展開でした。 この思わずクリックしてしまう斬新さ+あまりにも都合の良い展開+TLとしての完成度の高さ︵絵も上手いし適度にエロい︶で、この作品はめちゃくちゃに売れます。 そして、この爆発的な人気を見て業界全体が﹁オネエ、いけるぞ!﹂となったのか、類似/派生っぽい作品がどんどん登場し始めます。 これについては当時Twitterでも触れたんですが、スマホの女性向けエロ広告ウォッチが趣味なんですけど、最近の相手役の流行が①オネエ系(ノンケ)→②ゲイの従兄(ゲイなのに何故か主人公にだけ惚れる)→③見た目はお姉様だけど実はノンケの男→④レズビアンの親友 と移り変わってるの超興味深い pic.twitter.com/CDb0rHZWLk