安保徹氏︵元新潟大学教授︶は﹁免疫学﹂を売りにした著作で知られている。﹁爪を揉むことで免疫力が上がってさまざまな病気が治る﹂﹁癌の痛みは治癒反応であり、癌性疼痛に対して痛み止めを使ってはならない﹂など、きわめてユニークな主張を行っている。安保徹氏による臨床に関するユニークな主張には医学的根拠はない。﹁専門家の間では議論がある﹂というレベルの話ではなく、一見しただけで明確に間違いだとわかるレベルの話である。
ところが、その安保徹氏による反ワクチン論を信じてしまった衆議院議員がいた。武藤貴也議員は、自身のオフィシャルブログにおいて、パンデミックに備えた抗インフルエンザ薬とワクチンを税金で購入することを懐疑的に論じた。その根拠が﹃﹁インフルエンザワクチン﹂の効果が殆ど無い﹄という安保徹氏の主張なのだ。
■衆議院議員 むとう貴也 オフィシャルブログ﹁取り戻そう!日本!﹂(自民党滋賀4区)
白血球の自律神経支配メカニズムを解明した免疫学の世界的権威で、現在新潟大学大学院教授の安保徹先生は、このインフルエンザワクチンについて驚くべきことを語っている。﹁ワクチンなんて歴史的に効いたためしは殆どありません。弱めたウイルスを使ってワクチンを作っているわけで、本物の抗体ができないのです。今までにワクチンを打った人で、その後インフルエンザにかからずに済んだという例はひとつもありません。効果も殆ど期待できないワクチンに、なぜこれほどの税金を投入するのか。愚の骨頂です。﹂ 私はこの発言を聞いて非常に驚いた。安保教授によれば、文字通り多額の税金を投入し大量に備蓄され廃棄を繰り返しているワクチンは、全くの﹁ムダ﹂だというのである。 政府において備蓄する薬の必要性について検討する場は、厚生労働省所管の審議会・部会・調査会である。ここに各専門家︵医者や研究者など︶が出席し話し合いが行われるわけだが、むろん既述の安保徹教授はこのメンバーには入っていない。免疫学の世界的権威であるにもかかわらずである。
安保徹氏の主張の引用元は、おそらくは、JBpress(日本ビジネスプレス)の■若者よ、新型インフルエンザに大いにかかれ21世紀型医療は﹁自分で治す﹂〜手を洗うな、マスクはするな、キスをしよう‥JBpress(日本ビジネスプレス)であろう。手洗いは感染症対策の基本である。慣れていれば、﹁手を洗うな﹂というタイトルだけで信頼できない記事だとピンと来る。実際、記事の内容もこのブログの読者にはおなじみの﹁いつものやつ﹂である。 ﹁ワクチンなんて歴史的に効いたためしは殆どありません﹂﹁今までにワクチンを打った人で、その後インフルエンザにかからずに済んだという例はひとつもありません﹂という安保徹氏の主張は、単なる嘘である。CDCやWHOなどの公的機関や、Pubmedといった医学論文検索サイトで情報を集めることもできるが、日本語で読めて比較的まとまっている、■インフルエンザワクチンは﹁打つべき!﹂か? - 感染症は国境を越えて - アピタル︵医療・健康︶を紹介しておこう。 インフルエンザワクチンの効果が限定的であるというのは事実である。インフルエンザワクチンは、接種さえすれば100%感染や発症を抑制できるというものではない。コストに見合った効果があるかどうかは、常に検討されねばならない。2009年の﹁新型インフルエンザ﹂のパンデミックに対する対応が適切だったかどうかも、検証されるべきだ。だが、そのためには正確な情報に基づく必要がある。﹁ワクチンなんて歴史的に効いたためしは殆どありません﹂と根拠なく嘘をつき、また、その嘘を鵜呑みにしてしまうようでは、おぼつかないだろう。 武藤貴也議員は﹁ワクチンで莫大な利益を得ている人たち﹂のことを気にしている。なるほど、利益相反には注意を払うべきだ。ならば、安保徹氏の利益相反についてはどうか。JBpressの記事は、安保徹氏の﹃40歳からの免疫力がつく生き方﹄という著作を紹介している。もっともらしいデタラメを述べることで利益を得る人たちのことも気にしたほうがよい。 議員ともなれば、医療だけではなく、政治や経済や教育やその他、広い分野についての知識が必要とされる。医療についての専門的な知識まで要求するのは酷である。しかしながら、安保徹氏によるインフルエンザワクチンに関する主張が﹁どことなく怪しい﹂と気付くためには、専門的な知識は必要ない。武藤貴也議員は﹃本当に必要な薬やワクチンは何か、そしてそもそも最善の﹁リスク管理﹂とは何か、私も国会議員の一人としてしっかりと研究し、考えていきたいと思う﹄とも書いている。安保徹氏の主張のどこがおかしいか指摘できるぐらいでなければ、薬やワクチンに関する最善の﹁リスク管理﹂などできようはずもない。
■衆議院議員 むとう貴也 オフィシャルブログ﹁取り戻そう!日本!﹂(自民党滋賀4区)
白血球の自律神経支配メカニズムを解明した免疫学の世界的権威で、現在新潟大学大学院教授の安保徹先生は、このインフルエンザワクチンについて驚くべきことを語っている。﹁ワクチンなんて歴史的に効いたためしは殆どありません。弱めたウイルスを使ってワクチンを作っているわけで、本物の抗体ができないのです。今までにワクチンを打った人で、その後インフルエンザにかからずに済んだという例はひとつもありません。効果も殆ど期待できないワクチンに、なぜこれほどの税金を投入するのか。愚の骨頂です。﹂ 私はこの発言を聞いて非常に驚いた。安保教授によれば、文字通り多額の税金を投入し大量に備蓄され廃棄を繰り返しているワクチンは、全くの﹁ムダ﹂だというのである。 政府において備蓄する薬の必要性について検討する場は、厚生労働省所管の審議会・部会・調査会である。ここに各専門家︵医者や研究者など︶が出席し話し合いが行われるわけだが、むろん既述の安保徹教授はこのメンバーには入っていない。免疫学の世界的権威であるにもかかわらずである。
安保徹氏の主張の引用元は、おそらくは、JBpress(日本ビジネスプレス)の■若者よ、新型インフルエンザに大いにかかれ21世紀型医療は﹁自分で治す﹂〜手を洗うな、マスクはするな、キスをしよう‥JBpress(日本ビジネスプレス)であろう。手洗いは感染症対策の基本である。慣れていれば、﹁手を洗うな﹂というタイトルだけで信頼できない記事だとピンと来る。実際、記事の内容もこのブログの読者にはおなじみの﹁いつものやつ﹂である。 ﹁ワクチンなんて歴史的に効いたためしは殆どありません﹂﹁今までにワクチンを打った人で、その後インフルエンザにかからずに済んだという例はひとつもありません﹂という安保徹氏の主張は、単なる嘘である。CDCやWHOなどの公的機関や、Pubmedといった医学論文検索サイトで情報を集めることもできるが、日本語で読めて比較的まとまっている、■インフルエンザワクチンは﹁打つべき!﹂か? - 感染症は国境を越えて - アピタル︵医療・健康︶を紹介しておこう。 インフルエンザワクチンの効果が限定的であるというのは事実である。インフルエンザワクチンは、接種さえすれば100%感染や発症を抑制できるというものではない。コストに見合った効果があるかどうかは、常に検討されねばならない。2009年の﹁新型インフルエンザ﹂のパンデミックに対する対応が適切だったかどうかも、検証されるべきだ。だが、そのためには正確な情報に基づく必要がある。﹁ワクチンなんて歴史的に効いたためしは殆どありません﹂と根拠なく嘘をつき、また、その嘘を鵜呑みにしてしまうようでは、おぼつかないだろう。 武藤貴也議員は﹁ワクチンで莫大な利益を得ている人たち﹂のことを気にしている。なるほど、利益相反には注意を払うべきだ。ならば、安保徹氏の利益相反についてはどうか。JBpressの記事は、安保徹氏の﹃40歳からの免疫力がつく生き方﹄という著作を紹介している。もっともらしいデタラメを述べることで利益を得る人たちのことも気にしたほうがよい。 議員ともなれば、医療だけではなく、政治や経済や教育やその他、広い分野についての知識が必要とされる。医療についての専門的な知識まで要求するのは酷である。しかしながら、安保徹氏によるインフルエンザワクチンに関する主張が﹁どことなく怪しい﹂と気付くためには、専門的な知識は必要ない。武藤貴也議員は﹃本当に必要な薬やワクチンは何か、そしてそもそも最善の﹁リスク管理﹂とは何か、私も国会議員の一人としてしっかりと研究し、考えていきたいと思う﹄とも書いている。安保徹氏の主張のどこがおかしいか指摘できるぐらいでなければ、薬やワクチンに関する最善の﹁リスク管理﹂などできようはずもない。