東日本大震災からまもなく1周年を迎える。
それを期にしたのか、大震災直後の状況を検証する試みが多くなされている。
TBSでは再現ドラマを行っていたし、
朝日新聞では﹁プロメテウスの罠﹂という、いわゆるニュージャーナリズム的に当時の政府や関係者の動きを克明に追った連載記事があった。
そして福島原発事故独立検証委員会︵民間事故調︶が最近、調査・検証報告書を発表している。この財団の理事長は、船橋洋一氏であるそうな。
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これから書く考察は、かなり早い段階で感じたものだが、まだまだ被害が大きいときに書くこともためらわれたし、また私たちも含めて<当事者>である。さらに当時、実際にその場所に携わった人も多いわけだから。
でも、上のような記録が次々と出る中で、以下の視点も何かの役に立つかと思い書かせていただく。
「東電撤退」と「決死隊」と。
かねてから議論を呼んでいたポイントのひとつに﹁東電撤退﹂をめぐる議論がある。
J-CASTニュースから。
http://www.j-cast.com/2012/02/28123686.html?p=all
報告書が菅氏を評価している点もある。これまでに何度も議論を呼んだ、﹁東電による全面撤退申し出﹂説に関連する﹁菅首相による東電本店乗り込み﹂案件もそのひとつだ。
菅氏は、2011年8月に出た﹁週刊朝日﹂インタビューでも、11年3月15日に東電から﹁現場撤退﹂の報告が来たとして、﹁本社に乗り込み、﹃撤退なんかあり得ない!﹄と語気を強めて言った﹂と話している。
﹁結果的に東電に強い覚悟を迫った﹂
﹁乗り込み﹂案件については、当時から﹁現場の士気を削いだ﹂という批判と、﹁怒鳴ったお陰で東電が踏みとどまった﹂﹁よく言った﹂とする称賛の声がネット上などで指摘されていた。
報告書では、﹁乗り込み﹂案件に関連して、﹁結果的に東電に強い覚悟を迫った﹂と、菅氏の行動を評価した。
東電側は以前から、﹁全面撤退ではなく一部撤退の要請﹂と反論している。しかし報告書では、当時の清水正孝社長が未明に何度も政権幹部らに電話している点から推定し、全面撤退を求めていたのだとみている。菅氏らの主張に沿う形だ。
なぜ”推定”かというと、東電の首脳はこの民間事故調の聞き取りをはじめから拒否したのだという。この推定の根拠が﹁何度も電話した﹂というのはちょっと疑問符もつかないでもないが、この後の議論には東電の態度はあまり関係が無い。
というか分かりやすくなるので、これは事実はどうあれの仮定として﹁東電は全面撤退を求めた﹂が﹁菅直人首相がそれを拒否し、現場に踏みとどまって作業を続けるよう命じた﹂ということにしておこう。
http://digi-6.com/archives/51806307.html
菅前総理大臣は﹁今回の原発事故で最も深刻だったのは、3月15日未明からの﹃東電撤退﹄を巡る動きだったと考えている。これに関して、私が﹃東電撤退﹄を拒否し、政府と東電の統合対策本部を設置したことを公平に評価し、﹃今回の危機対応における1つのターニングポイント﹄などと結論づけたことは、大変ありがたい︵略︶﹂というコメントを発表しました
さて、「はたち過ぎて銀英伝をたとえに出すのってどうよ」という名言もはてなではあったが、ここで引用させてもらう。
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http://members.jcom.home.ne.jp/sturm/osusume/gine1.html ﹁ありがとうございます。わたしはただ、委員長にひとつ質問を聞いていただきたくて参ったのです。﹂ ﹁ほう、それはどんな質問でしょう、私が答えられるような質問だといいのだが・・・﹂ ﹁あなたはいま、どこにいます?﹂ ﹁は、なんですと?﹂ ﹁わたしの婚約者は祖国を守るために戦場に赴いて、現在はこの世のどこにもいません。委員長、あなたはどこにいます?死を賛美なさるあなたはどこにいます?﹂ ﹁お嬢さん・・・﹂ ﹁あなたのご家族はどこにいます?わたしは婚約者を犠牲に捧げました。国民に犠牲の必要を説くあなたのご家族はどこにいます?あなたの演説には一点の非もありません。でもご自分がそれを実行なさっているの?﹂ ︵ジェシカ・エドワーズとヨブ・トリューニヒトの会話︶ ブログの表題は﹁ジェシカ主義﹂としたが、もちろん同作品に限って調べても、この思想はジェシカだけが語ったわけではない。 http://blog.livedoor.jp/parade_of_gantasm/archives/17660798.html ﹁なるほど、あなたは良心的でいられる範囲では良心的な政治家らしい。だが結局のところ、あなたがた権力者はいつでも切り捨てる側に立つ!手足を切り取るのは確かに痛いでしょう、ですが、切り捨てられた手足からみれば、結局のところどんな涙も自己陶酔に過ぎませんよ、自分は国のために私情を殺して筋を通した、自分はなんと可哀相で、しかも立派な男なんだ、という訳ですな!泣いて馬燭を切るか。ふん!自分が犠牲にならずに済むなら、いくらでもうれし涙が出ようってものでしょうな!﹂ ︵ワルター・フォン・シェーンコップ︶ http://homepage.mac.com/hasse_54/archives/gineiden.html ﹁あなたがたが、口で言うほどに祖国の防衛や犠牲心が必要だとお思いなら、他人にああしろこうしろと命令する前に、自分たちで実行なさったらいかがですか。…たとえば、主戦派の政治家・官僚・文化人・財界人でもって﹃愛国連隊﹄でも作り、いざ帝国軍が攻めてきたというとき、真っ先に敵に突進なさったらいいでしょう。まず、安全な首都から、最前線のイゼルローン要塞内にご住居を移されたらいかがですか。場所は十分にありますが。﹂ ︵ヤン・ウェンリー︶ もちろんこの有名なご先祖に、長谷川如是閑の﹁戦争絶滅受合法案﹂ http://homepage.mac.com/ehara_gen/jealous_gay/hasegawa_nyozekan.html 与謝野晶子の﹁君死にたまふことなかれ﹂ http://www.geocities.jp/the_longest_letter1920/kimi_shinitamou_koto_nakare.html ﹁君死にたまふことなかれ すめらみことは戦ひに おほみずから出でまさね﹂ などがあるが、ひとまず置く。
話を銀英伝の上の箇所に戻すと、これは全盛期の田中芳樹︵結局﹁銀河英雄伝説﹂が氏の全盛期だったと断じていいだろう︶の筆力、描写力で、言う側の優れた人間性、言われる側の醜悪さ、俗物性を際立たせたこともあり、それがそのまま言う側の﹁意見﹂自体の説得力もUPさせている。 だから多感な少年少女時代、この思想を全面的に受け入れて、それを考え方のバックボーンとした人もかなりいるんじゃないかな。
作者本人も、地の文の中に評論か小説なのか分からない形で、さらに補強する文章を書いていたな︵創竜伝︶。http://www.tanautsu.net/honron08.html 人の世に、﹁権力者の生命の価値をしのぐほどの正義﹂は存在しないのであろう。﹁生命より正義がだいじだ﹂と権力者がいうとき、生命とは﹁他人の生命﹂であって、自分や家族の生命ではない。このことは、誰でもおぼえておいたほうがいい。 > このような書きかたをすると、﹁世の中はそれほど単純なものではない﹂という言いかたで反論してくる人がいるものだが、複雑な議論というものは、単純な疑問を解決してからおこなうものだ。世のなかに、生命よりたいせつなものはたしかにあるかもしれないが、それはひとりひとり異なる。権力者の美辞麗句にだまされないほうがいいだろう。むろん世の中には、﹁だまされたいの、だましてェ﹂という趣味の人もいるだろうから、そういう人は勝手にすればいい。ただし、破滅するのは自分だけにして、﹁だまされないぞ﹂と思っている人をけっして巻きこまないことだ。
- 作者:田中 芳樹
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自分は初期﹁田中芳樹を撃つ!﹂創設時に参戦した一兵卒である。自分が持っている銀英伝や田中作品に関する問題意識はすべてそこにぶっこみ、ネタ切れで名誉除隊したというところだ。このサイトも管理人がうまくバトンタッチし、世紀をまたいで活動している息の長いサイトにもなった。 サイトにも、この問題について投稿した︵新Q太郎名義︶ ■お前が戦争に行け論 http://www.tanautsu.net/the-best01_03_01_aa.html ■﹁﹁個人の自由と権利に比べれば…﹂﹁それなら、私帰っていいですか?﹂ http://www.tanautsu.net/the-best01_03_02_aa.html ■ヨシ=タナーニヒトの演説 http://www.tanautsu.net/kousatsu01_20.html これらはそれなりに、それぞれの急所に撃ち込んだという手ごたえはある。
ただ、今回・・・多くの犠牲者が出た現実の災害の話を、小説と交えて論じる違和感はあるだろうが、やはり思考の回路は同じなので敢えて論じる。 菅直人首相はまさに原発事故に際して﹁切り捨てる側﹂に立ち﹁他人の生命を危機にさらし﹂ての撤退拒否、決死隊を命じた。 ﹃15日には第1原発から約50人を除いて﹁撤退﹂が始まっていた。菅直人首相は東電の撤退に怒りを募らせ、東電幹部に﹁決死隊になるんだ﹂と活を入れた﹄︵毎日新聞︶ http://blog.livedoor.jp/himasoku123/archives/51649727.html ジェシカ的な﹁あなたはどこにいます﹂、といえば、現地視察は行ったわけだが、それで責任免除となるとも思えない。家族は…まあどうでもいい︵笑︶。
もう、くだくだ論じるまでもないだろう。 ﹁貴方がた権力者はいつでも切り捨てる側﹂ ﹁あなたはどこにいます?﹂ ﹁他人に命令する前に、自分たちで実行なさったら﹂ は、痛快な啖呵であり、一種の部分的な真実はそこに含まれているんだけど、究極のところでは無効な言説である、ということでいいのではないか。 違うなら、現場の社員・作業員らの命を重んじて、全面撤退を命じた︵としておく︶東電首脳こそ銀英伝的には﹁正義﹂であるということになる。 そういう…話ではないか。
これに似ていると思う。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20090829/p2西原がそのショバ代・・・じゃなかった税金をあれして、﹁税務署がきたぁぁ!﹂というのをそのまま漫画のネタにした伝説の一編があるのだが、そこの一節に、もうほれぼれするようなリバタリアニズムがある。
将来日本にリバタリアンの政党とかテロ組織ができたら、そのマニフェストもしくは犯行声明の表紙に使っていただきたいコマである。
- 作者:西原 理恵子
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﹁税金なんてのは、おれたちが汗水流して稼いだおれたちの金に、手ェ突っ込んで奪っていく泥棒とおんなじだ!!﹂というのはリバタリアニズムという本格的な思想潮流も生んでいるけど、、論理的にも実例的にもいくらでも反論することが可能でしょう。 くわしくは﹁こち亀﹂26巻収録﹁スペシャル税!﹂の中の、キツネ村のおなはしを読んでほしい︵笑、一部の人ウケ︶。
- 作者:秋本 治
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だが・・・ひとつの、一面の真実として、為政者も納税者も﹁心しておく﹂べき考えなのじゃないか。そして﹃政治家は、自分や家族は戦場︵原発事故現場︶で闘わないくせに、安全な場所から命じて・・・﹄というのも、そういうものだというのが・・・自分なりに、この問題を20年以上考えた結論だ。 ﹁その程度﹂かもしれないが﹁それがあるとないとでは大違い﹂なのだ、と思う。
この歌も
これについても、以前﹁パロディソングとしての価値は大きいが、そのままこれを政治思想や政論として使うわけにはいかない、そういったものだ﹂といった話をした。 ︵ http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20070214/p4 ︶ 佐高信さんは、これを本気にしてカンボジアPKO撤退論をぶっていたけれど︵笑︶
行く側か 行かせる側か 佐々淳行
上のリンクから再録。﹁お前がいけ﹂論ではなく﹁行く側への感情移入・共感が為政者にあるのか!?﹂という観点から論じている。
危険な仕事には、命令により﹃行かされる者﹄と後にいて部下を﹃行かせる者﹄がいる。﹃行かせる者﹄が﹃行かされる者﹄への﹁感情移入﹂の思いやりに欠けている国は、滅びる。
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- 作者:佐々 淳行
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最後に関連リンク補遺
■「華氏911」異論--というか銀英伝的「息子を行かせろ論」について。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20040627/p1
■福島みずほvs志方俊之
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20060527/p3
NPOは自衛隊より活躍する、と熱弁を振るう福島瑞穂社民党党首に対し、自衛隊で30年以上勤め上げた志方俊之氏が﹁じゃあ、社民党がNPOを組織してイラクに向かえばいいじゃないですか﹂と言ったこと。
︵大意︶
福島党首﹁寄付はしてます﹂
志方﹁お金だけですか? 実際に行かないんですか?﹂
そう、タカ派側がハト派側を論難する武器にも容易くなり得るのだこれって。
■NHKドラマ﹁坂の上の雲﹂で203高地陥落に際してつぶやいてた http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20111212/p4 ︵見ながらのtwitterの再録です︶ 児玉のこのセリフ︵※援護射撃で味方も死ぬだろうが、このまま要塞が落ちないと犠牲がもっと大きい︶が正しいとして、銀英伝でシェーンコップなどがいう﹁あんたは戦場の現場に行かないから︵少数の犠牲をやむをえないという︶そんな考えができるんだ﹂というせりふはどう考えるべきか。 #坂の上の雲
■関連の本 自分の考察は、この本に収録されているメルマガから始まっている。
■NHKドラマ﹁坂の上の雲﹂で203高地陥落に際してつぶやいてた http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20111212/p4 ︵見ながらのtwitterの再録です︶ 児玉のこのセリフ︵※援護射撃で味方も死ぬだろうが、このまま要塞が落ちないと犠牲がもっと大きい︶が正しいとして、銀英伝でシェーンコップなどがいう﹁あんたは戦場の現場に行かないから︵少数の犠牲をやむをえないという︶そんな考えができるんだ﹂というせりふはどう考えるべきか。 #坂の上の雲
■関連の本 自分の考察は、この本に収録されているメルマガから始まっている。
- 作者:浅羽 通明
- 発売日: 2007/06/01
- メディア: 単行本
ここ二十年来、著者が個人ニューズレターほかに発表してきた論考、エッセイのうち、いわゆる﹁天下国家﹂を扱ったものから自撰した選集。近くは映画﹁太陽﹂、皇嗣問題から、遡っては平成改元期の天皇報道までに到る、天皇制関連の文章、主に十七年まえの湾岸戦争とここ数年来のイラク戦争へ対する日本国内の反戦論議を批評した文章、二〇〇一年に起こったいわゆる﹁九・一一﹂テロに関連した文章、﹁靖国﹂﹁日韓関係﹂﹁日本国憲法﹂など、現在、日本という国家のかたちを考える際に、中心的とされるだろう問題を扱った論考、世界と日本の現在を歴史のなかでより全体的に捉えようとした文章を収録。
■﹁菅直人は命がけで現地を視察した。でも無意味だった﹂ ・・・という、現地視察を重要視した上で、このエントリとまったく正反対の方角から田中芳樹流﹁お前が行け﹂論を批判する記事がこっち︵笑︶ http://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-305.html