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・ソニー、ベータビデオカセットを'16年3月に出荷終了
なんと、ソニーがベータビデオカセットの出荷を終了するという。このニュースを読んで感じたのは﹁ああ、ついにベータカセットが終わってしまうのか…﹂ではなく、﹁え?まだ販売してたの!?﹂という驚きの方だった。 今の人はビデオといえばVHSしか知らないと思うが︵というよりビデオの存在自体を知らないかも?︶、30年ぐらい前まではVHSとベータという2つの異なる規格が、主導権をめぐって互いに熾烈な争いを繰り広げていたのである。 結果的にベータは敗れ、VHSがビデオの市場で勝利したわけだが、その後もベータを使い続ける熱心なユーザーによって支えられていたのだろう。それがアニメオタクや映画オタクなどの、いわゆる”マニア”と呼ばれる人たちだった。 僕が子供の頃、近所のアパートに渡辺さん︵仮名︶というマニアな大学生が住んでいて、よくアニメのビデオなどを見せてもらっていたんだけど、彼が持っていたビデオデッキがまさにベータだったのである。渡辺さんは重度のアニメオタクで、部屋にはアニメを録画した多数のベータビデオがズラリと並んでいた。 その当時、すでにベータの敗北は決定していたにもかかわらず、﹁過去に集めた貴重な資料は捨てられない﹂と言い張り、中古屋を回ってベータデッキのパーツをせっせと確保していた渡辺さんは、同時に大変な映画オタクでもあった。 僕が初めて彼の部屋に入った時、まず驚いたのが天井からぶら下がっている2つのスピーカー。そして、正面に3つ、後方にも2つのスピーカーを設置し、部屋の端にはサブウーファーという豪勢な音響設備に度肝を抜かれた︵いわゆるドルビー・サラウンド・システムだ︶。 僕はこの部屋で色んな映画を観せてもらい、ド迫力のサウンドと映像に酔いしれていたのだが、そんな渡辺さんが”永久保存版”と称して集めていた映画ソフト、それがレーザーディスク︵LD︶だったのである︵今の人には﹁なんだソレ?﹂って話だろうけど︶。 LDというメディアが全盛を極めていた時代、映画マニアにとってLDソフトは”大好きな映画を最良の形で所有できる”という意味において特別な価値を持っていた。直径30cmの透明アクリル層に覆われた光り輝く円盤は近未来的な高級感を漂わせ、ディスクに記録された夢のように素晴らしい映像と相まって、映画をコレクションする喜びを存分に与えてくれたのである。 もちろん、映画オタクはビデオテープも集めていたんだけど、﹁テープがかさばる﹂﹁画質が悪い﹂﹁巻き戻しが面倒﹂﹁見たいシーンがすぐに見つからない﹂﹁繰り返しの視聴で摩耗する﹂﹁保存性に難あり﹂等、メディア自体に不満点が多かった。 それに対してLDには、これらの不満点をカバーする利点として﹁画質・音質の向上﹂﹁巻き戻し不要﹂﹁チャプター機能による頭出しが可能﹂﹁非接触メディアなので摩耗しない﹂﹁保存性に優れ劣化なし﹂等があり、メディアとして画期的に優れていたのである︵厳密に言うとLDも劣化するんだけどね︶。 LDの魅力はそれだけではない。レコードのLPサイズと同じ33センチ四方のジャケットを一杯に使ったデザインは、新書版サイズのビデオテープに比べて圧倒的に見栄えがいい。さらに、ジャケット内には大判の解説書が封入され、詳しい解説や貴重な裏話がびっしり書かれている等、コレクター魂を刺激しまくる要素に満ち溢れていた。すなわち、映画マニアが保存版としてLDを選択するのは”必然”だったのである。
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﹁1インチフォーマットを記録するということは、中心周波数から上下のローワーサイドとアッパーサイドのサブキャリアまで、全てを取り込むことができるってことなんだ。つまり理論上のLDの帯域は10MHz以上、水平解像度だって軽く800本を超えるんだよッ!﹂ と、こんな感じで分かったような分からないような理屈を振りかざし、DVDの襲来に抵抗を示したのである︵ちなみにLDの水平解像度は基準値で400本程度しかない︶。なぜこんなに必死になっていたかというと、その時点でLDユーザーたちは大量のコレクションを抱え込んでおり、すでに引き返せない状況に陥っていたからだ。 当時、知り合いにも1000〜2000枚ぐらい買っている人はザラにいて、僕でさえ500枚以上は持っていたと思う。映画好きで有名な竹中直人に至っては、引っ越しする時にLDを50枚ずつダンボール箱に詰めていったら、全部で100箱以上もあって途方に暮れたらしい。 要するに、﹁この山のようなソフトをどうしてくれる!?﹂となったわけで、当時の映画マニアたちの焦りと苦悩は想像に難くない。しかしそれでも、初期の頃はLDとDVDのソフトがダブルリリースされていたので問題は無かった。 また、﹃スター・ウォーズ エピソード1﹄が初めてソフト化された時も、ジョージ・ルーカスがインタビューで﹁DVDの映像技術はまだ十分ではない﹂と語り、LDのみのリリースとなったのである。これに対してLDファンからは﹁さすがルーカス!﹂と称賛された︵実際は﹃エピソード2﹄の撮影が忙しくてDVDの監修をしている暇がないことが理由だったらしい︶。
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そして、﹁よし!これからはDVDだ!﹂と気持ちを切り替えてDVDのソフトを買いまくっていたら、またしても次世代のメディアが発売されることに…。そう、Blu-ray Discだ。当然、DVDよりも圧倒的に画質が良くて音もいい。今後、ブルーレイがDVDに取って代わることは間違いないだろう。﹁つまり……また買い直せと……いうことか……﹂。
このように、オタクにとって自分の所有しているメディアが将来どうなるか?というのは常に重要な懸案事項であり、ある意味”死活問題”と言っても過言ではない切実な悩みなのだ。だから、こういうことが何度も繰り返されると、さすがに色々と考えざるを得ないのである。
近年、映像ソフトの売り上げが落ちていて、その原因をメーカー側は﹁違法コピーが氾濫しているから﹂と考えているようだが、本当にそうなのか?と。実は、今までソフトを買い支えていたアニメオタクや映画オタクたちが度重なるメディア規格の変更に疲れ果て、脱落する人が増えているからじゃないのだろうか?と。
また、僕らより下の世代のオタクに﹁モノを所有する意欲があまり感じられない﹂という点も気にかかる。例えば、僕らがLD-BOXを買う際に悩んでいたポイントは﹁どうやってお金を工面するか﹂と﹁買ったものをどこに収納するか﹂の2つだけで、﹁買わない﹂という選択肢は存在しなかった。
ところが、最近の若い人に話を聞くと、﹁なぜソフトを買うんですか?﹂と逆に聞き返されてしまうのだ。彼らにとって映像とは、ネットを通じていつでも視聴できるただの動画であり、﹁そんなもの、高いお金を払って手元に置いておく意味が無い﹂と考えているらしい。う〜ん、要はインターネットが普及したここ10年ぐらいの間に、ソフトに対する執着心や価値観が激変したってことなのかなあ。
自分としては、﹁好きな映画のソフトはパッケージとして手元に置いておきたい﹂という気持ちがいまだにある。以前より買う量は減っているものの、ディスクや箱や付属する解説書なども含めて、”映画を所有する”という喜びは何ものにも代え難く、たぶん今後も買い続けていくだろう。
ただ、テクノロジーの発展と共に記録媒体が進化していくことは避けられないし、そうなると将来的には﹁メディアが何になるか?﹂という問題ではなく、映画は”単なる高画質データ”としてハードディスクに保存したり、インターネットでダウンロード︵またはストリーミング︶して鑑賞する存在になっていくんじゃないだろうか?
実際に音楽はそうなっているし、それが自然な流れだとは思う︵すでに海外ではレンタルDVDがほぼ消滅し、ネットの動画配信が主流になっているらしいし…︶。﹁モノ﹂にこだわっていた時代は終焉を迎え、書籍も音楽も映画も全てが急速にデータ化されていく昨今、一つのメディアの終わりを告げる記事を読みながらそんなことを考えてしまった。﹁ブルーレイディスク、出荷終了﹂の記事が出るのは、果たしていつになるのだろうか。
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