先ずはこの﹃ゟ﹄という文字がキチンと表示されているかどうかが不安である。
まあよほど古いPC等でない限り大丈夫とは思うが……。
ある程度高い年代の方々や出版・図書・報道などの業界にいる人、一部の研究者や特定分野の趣味人にとっては馴染みがある文字かもしれない。
※追記‥本文中の﹁ゟ﹂にもWebフォントで﹃筑紫明朝﹄を適用しました。こんな特殊な文字もバッチリ表示される…! FONTPLUSさんありがたい。
I have a よ. I have a り.
そもそも私がこれを全く読めなくて調べたことから始まってしまう。
正直、初見はどこか外国語のアルファベットかサンスクリットの文字か何かかと思った……。
これは、2つ以上の平仮名や片仮名などを組み合わせた文字で、﹃合字﹄や﹃合略仮名﹄と呼ばれるものの一つである。
読みは﹁より﹂であり、そのまま平仮名の﹁よ﹂と﹁り﹂の合字だ。※1
手紙の差出人名や起点を表す際に用いられる。
“佐藤太郎ゟ” とか “新橋駅ゟ五分” とか “朝八時ゟ出発” とかいった具合だ。
かなより出でてかなより多し
明治時代より前はよく使われてきたもので、江戸時代以前の古い記録や公的書類には頻繁に登場するという。
幾つか古文書の類を検索してみたが本当に多用されていて驚いた。
例えば国の重要文化財﹃石黒信由関係資料﹄だ。
閲覧可能な本文の一つをリンクで下記に上げるので時間があればサッと見て貰いたい。
[清図]﹁能州口郡邑知潟絵図﹂文化十四年三月 関係資料 ︻翻刻あり︼|射水市新湊博物館 高樹文庫﹁石黒信由関係資料﹂|ADEAC︵アデアック︶‥デジタルアーカイブシステム
句読点か何かか! っていう勢いで﹃ゟ﹄が頻出する。
なんであれば、ことこの文書内にあっては平仮名の総数よりも多いのではないかというレベル。
ごく近代~現在でも、新聞広告や看板などスペースが限られる場では、文字数を減らす目的で使用される例があるらしい。
しかし、明治政府によって標準の五十音が決定し、また一音に一字が充てられたことで多くの変体仮名や合略仮名が使われなくなった。
そこを境に次第に姿を消していき今に至るようだ。
※追記‥twitter上やはてなブックマークでいただいたコメントから、相撲・歌舞伎などの場で見られる番付表や興行幟︵役者幟︶でもこの﹁ゟ﹂が今もコンスタントに使われていることを知りました。合字というより元の二文字を縦に繋げた崩し字に近い場合も多いようですが、そういった限定的な所ではこの文字もまだ現役で頑張っているようです。
レア文字ガチャ状態
近い経緯を辿ったものに、同じく合略仮名の﹃ヿ︵コト︶﹄﹃𪜈︵トモ︶※2﹄や枡記号﹃〼︵マス︶﹄などがある。
これらも時代の流れに浚われるうちにやがて使われなくなっていった。
が、どういうわけか枡記号﹃〼﹄については、今でも店舗の立て看板やレトロな演出を伴う書物やエンタメ作品などでちょくちょく目にする。
読める人もかなり居るだろうし、そうでなくとも﹁あー見掛けたことある!﹂という人が多いと思う。
何が生き残るか分からないものだ。
例に挙げたものの他にも、多くの合略仮名や変体仮名がある※3が、何故この枡記号は現代でも比較的広く分布しているのか……。
文字の深海ゟ
ともあれ、いつの間にか影を潜めてしまった﹃ゟ﹄。
2000年にJIS規格のJIS X 0213の文字集合に追加されUnicodeにも追加されているので、対応するフォントがインストールされている環境であればPCやモバイル端末上でも表示することができるものの、やはり馴染みは浅い人が多数派であろう。
実はtwitterのように文字数の制限のある情報発信手段が広まっている今こそ、この文字を使いたいシーンが再び多くなっているのではないか、などと思ってしまう。
まあ読まれない&読みづらいので、そうもいかないが。
他の合字や変体仮名、異体字、特殊な記号など、時代とともに失われてきた文字は国内だけでも沢山ある。
気になった方は是非、このページゟ調べる行動に繋げてみていただきたい。
- ※1: 「与」の変形という説もあるらしいが、そもそも平仮名「よ」の発生起源のひとつとされる漢字なのでビミョーな気もする。
- ※2: スマートフォンなどの一部環境ではWebフォントを適用しても尚これは表示されない…。カタカナの「ト」と「モ」の合字でUnicodeはU+2A708である。
- ※3: PCやモバイル端末で表示できないものが多い。
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TEXTS & GRAPHIC by
Yuri Yorozuna
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