気づき、感謝、倒産リスク。それらと隣り合わせの中小企業につとめているので、それなりに苦労があるだろうが倒産の不安のない役人の方々が羨ましく、ときどき呪殺したくなる。僕の勤めている会社もお役所と取引をしている。関係先各位にご迷惑がかかるので伏字にさせていただくが皆様が大好きなものに係る業務をしている某独立★行政法人である。そこの食堂運営を任されていたのだ。過去形であるのは、当該独立★行政法人から契約解除を打診されたからである。収支的においしくない仕事だったので渡りに船。ラッキー。
僕にはまったく理解できないが、条件や予想収支がよろしくないにもかかわらず役所の仕事を受けることをステイタスととらえる年配の同僚がかつて少なからず存在し、その仕事もそういった人たちが決めた仕事。辞めた人間のことを悪くいうのは僕のポリシーに反するのでしないが彼らは苦労や痛みを由とするマゾだったにちがいない。性癖を仕事に持ち込まないでもらいたいものだ。
とにかくめでたく今春で契約解除。事態がおかしくなったのは、当該法人から妙なお願いをされたときだった。曰く︽全国に点在する事業所の食堂業務を一括して一業者にお任せしたい︾。プロポーザル入札実施のお知らせであった。おいしくない仕事が増えるのは明白であるというビジネス的な理由、近日中に辞める身なのでキャリアアップに繋がらない仕事などやりたくないというゆとりな理由、以上2点の理由で断ろうとしたが﹁どうかどうか﹂と懇願されたので説明会だけはつって参加することになった。無論、入札には参加しないつもりで。
案の定酷い案件。単体の事業所でもカツカツであるのに、全国のカツカツ事業所をまとめて巨大カツカツ案件とし、そのうえ﹁上級省庁からのお達しで従業員食堂も利益を出さなければならなくなりました﹂という謎理論で莫大なテナント料等が課せられ地獄案件へバージョンアップ。総額ウン千万。販売価格は500円以下が厳守。従業員食堂でそれほどの利益を出すのは不可能。利用者数や売上といったデータが最新のものではないあたりにもナメてる感がありありだった。説明会後の質疑応答は紛糾。ウチを含めて7社すべてが辞退、入札不調となった。
数週間後、第二回目のプロポーザル入札実施の連絡が来た。﹁前提条件が変わらないなら意味ないから参加しませんよ﹂と担当者に詰め寄る。﹁前回の反省点をふまえて見直しましたので大丈夫です。法人にとって従業員食堂は絶対に維持しなければならないのです﹂と頼もしい回答をいただいたので、これまた仕方なく2回目の説明会に赴いたのである。無駄であった。些細な見直し改善は認められたが、数千万円のテナント料等、販売価格の固定といった肝心な問題はそのまま。
﹁正直に事情を説明させていただきますと﹂﹁正直な話…﹂と法人の担当者は正直さを強調していたが、なぜ前回から正直に話をしないのか意味がわからないし、そもそも僕は他人の正直さに関心はないので︵正直か否かの判定が出来ないから︶ただ話が長くなるなー迷惑だなーとしか思わなかった。あいかわらずデータも古いまま。説明会後の質疑応答は穏やかに終了。法人の担当者一同は安堵の表情を見せていたが、それが業者サイドが興味を失っていることのあらわれであることに気が付いていないことがまた痛々しかった。前回の入札不調からの日時に何をしていたのだろう。僕の疑問はその点に尽きた。
結果的に全業者が辞退して入札は不調。そりゃそーだ。それからまた数日して担当者から会社に電話があった。外出先から戻った僕がコールバックすると他の人が出て﹁ホニャララは席を外していので後程あらためてお電話をいただけますか﹂などと面白いことを仰るので﹁そちらはともかく私の方に用事はないので金輪際電話するつもりはありません﹂と友好的に電話を切ると、爆弾を仕掛けられたのかと思ったのだろうね、すぐに電話がかかってきた。内容は全業者が辞退した、辞退の理由を教えてほしいというものであった。今更?きっつー。
僕は手切れ金のつもりで懇切丁寧に説明した。﹁はっきりいってですね、これはどこの業者さんも一緒だと思いますが条件が悪すぎ。相応の利益を確保できない仕事はやりませんよ独立★行政法人様はともかく民間企業は。これが理由1。それと全国展開の仕事で準備期間が2ヵ月は短すぎ。飲食業や介護業は人不足で嘆いてますよ。ニュース見てます?﹂﹁はい﹂見てるのか。ユーのアイは節穴か。しんどー。﹁人が集まらない状況で地方に展開するのはリスクでしかないですよ。理由2﹂﹁なるほど﹂﹁それともうひとつ、これは私だけかもしれないけれど、個人的には一番大きな理由だと考えてます﹂﹁なんです?﹂﹁取り仕切っている人の問題です。スタンスというかやる気がみられない。最初の入札不調のときに不調に終わった原因はわかりますよね、2回目のあいだに再度試算とかシミュレーションやりましたか?﹂﹁最初からやってません﹂驚くべき返事だった。
﹁一度も?どうしてですか﹂﹁食堂運営の試算をやったことがないからです。どうやればいいのでしょう﹂自信を持って言い切る声がきつすぎた。﹁ひとつだけ解決策があります﹂﹁それは?﹂﹁仕切っている人間の総入れ替え﹂僕は言い切った。さもないと永遠に付きまとわれる気がしたからだ。もしかしたら、わからないところがわからないのではないか。これが僕が感じた疑念で、悲しいかな、ビンゴだった。
担当の人は電話の最後に﹁えー次の入札へは参加していただけるでしょうか﹂と言った。するわけねーだろ。きっつー。︽人を変えないかぎり状況が好転しないことがある︾僕にこんな気付きを与えてくれた独立★行政法人には感謝している。時間返せ。︵所要時間35分︶