金利の不安定な状態が続く債券市場で、日本銀行に対する鬱積した不満が徐々に表面化し始めた。
6月11日、午前11時50分。日銀が金融緩和策の現状維持を決めたことが伝わると、一部の銀行からは﹁結局何もしないのか﹂と、深いため息が漏れた。
その前日まで、日銀が0.1%の低利で金融機関に資金を供給する﹁固定金利オペ﹂の期間延長など、市場の安定化に向けた対応策に踏み切る、との観測が広がっていたためだ。
そうした日銀の﹁ゼロ回答﹂に対するため息が、次第に怒りに変わったのが、同日15時30分から始まった黒田東彦総裁の記者会見だ。中でも金融機関の不興を買ったのが、﹁︵金利の︶ボラティリティ︵変動率︶はだいぶ収まってきている﹂という発言だった。
なぜなら、債券を売買する銀行や証券会社は今なお、金利が日によって大きく変動しながら、じりじりと上昇することで、﹁リスク量の増大に頭を悩ましている﹂︵菊池康雄・第二地方銀行協会会長︶からだ。
実際に、債券先物で過去︵ヒストリカル︶や将来︵インプライド︶の変動率を計測するデータを見ても、﹁緩和前と比較すると、まだ非常に高い水準にある﹂と、早乙女輝美・みずほ証券シニア債券ストラテジストは指摘する。
さらに、足元の金利上昇についても、黒田総裁は会見の中で直接の言及を執拗に避け、﹁毎月毎月オペを重ねていくことによって、リスクプレミアムを圧縮する︵金利を低下させる︶効果がさらに強まっていく﹂という、従来の説明に終始した。
金融機関としては、ゼロ回答の代わりに、せめて金利の安定化に向けた強いメッセージを発することを期待していただけに、﹁債券市場をあまり軽く見ない方がいい﹂︵大手行役員︶と、日銀に警告する声さえ出始めている。
そうした警告が暗示するかのように、金融政策決定会合の翌12日には、株価が下落する中でも、長期金利が一時0.9%と、2週間ぶりの水準にまで上昇した。