いよいよ受験シーズンだが、入試問題は時代を色濃く反映する。
今年度の受験生も、時事問題を頭に叩き込んでいることだろう。そしてそれは、70年以上前の戦時下でもまったく同じだった。
山本五十六の戦死を英訳せよ
︵問︶大東亜戦争をthe Greater East Asia Warと言ひますが、此際何故Greaterと比較級にするのですか。︵なの1309︶ ︵答︶日本が共栄圏を建設せんとするのは所謂東亜︵East Asia︶よりも更に広い地域を目標として居るので、大東亜︵Greater East Asia︶と言ふのです。東京︵Tokyo︶が郡部を合併して大東京︵Greater Tokyo︶と言はれる様になつたのと同じです。 これは、旺文社の受験雑誌﹃螢雪時代﹄1943年5月号の、英語公開質問欄のやり取りである。﹁なの1309﹂の質問にたいし、旺文社指導局英語部の担当者が回答している。 大東亜戦争は、太平洋戦争の当時の称だ。当然、受験生はその英訳を暗記したわけだが、そこでふと﹁なぜ比較級なのか﹂と疑問に思ったのだろう。インターネットがない時代、こうした雑誌上のやり取りは貴重だった。![](https://gendai-m.ismcdn.jp/mwimgs/c/e/1280m/img_cea2593eb92c4f2f046d4af2e33e68e048359.jpg)
同誌の1943年7月号には、つぎのような懸賞問題も掲載されている。
英訳せよ。
山本提督が戦死なされたことは誠に悲しむべきことである。吾々はひたすら敵を撃滅してその霊をお慰めすべきだ。
山本提督とは、1943年4月に南太平洋で戦死した連合艦隊司令長官の山本五十六のこと。
同誌の9月号は、﹁全国民の‘撃ちてし止まむ’の決意を燎原の火と化さしめた山本元帥︵Fleet-Admiral Yamamoto︶の戦死︵death in battle︶についての問題である﹂などと前置きしたうえで、つぎのような答案例を示した。
(1) It is a thousand pities that Admiral Yamamoto died in battle. We should devote ourselves to crush our enemy to honour his memory.
(2) It is truly a matter for regret that Admiral Yamamoto fell in action. We should honour his memory by destroying our enemy completely.
この例題は﹁Admiral Yamamoto﹂を別の人物に変えれば、簡単に応用できる。まさに戦時下の入試対策に最適だった。
「決戦下に於ける日本の五大重点産業を挙げよ」
戦時受験の主役は、旧制中学校の上級生や卒業生だった。かれらは、旧制高等学校や、陸軍士官学校、海軍兵学校など上級の学校に進むため、切磋琢磨した。旧制高校は、帝国大学につながり、エリートの登竜門だったのである。
日本最古の受験雑誌のひとつである﹃螢雪時代﹄も、現在こそ大学受験の雑誌だが、当時はこの層をターゲットとした。
さて、戦時色が強かったのは、英語だけではなかった。時局ともっとも縁遠そうな数学でさえ、時代の影響をまぬかれなかった。