HTML5 Experts.jp編集部の馬場です。
いよいよ2020年度から小学校でプログラミング教育が必修化されますね。
今回の﹁Webの未来を語ろう2018﹂は﹁プログラミング教育﹂がテーマです。
HTML5 Experts.jpの白石編集長をモデレーターに、プログラミング教育の最前線で活躍中の、みんなのコード利根川裕太さん、ライフイズテック水野雄介さん、日本マイクロソフト春日井良隆さんをお招きし、プログラミング教育の現状からプログラミング教育必修化の課題、その先に目指す未来について語っていただきました。
▲ライフイズテック株式会社 代表取締役CEO 水野 雄介さん 利根川‥僕は大学卒業後、大手の不動産会社に就職し、2011年にラクスルというベンチャーに社長の次にエンジニアとして入って、立ち上げから携わりました。それから4年経った2014年くらいに、エンジニアと非エンジニアの壁をなんとなく感じていたこともあり、アメリカの非営利活動法人Code.orgが展開している﹁Hour of Code﹂をみんなでやってみたんですね。 それをきっかけに、こうしたプログラミング教育が日本にも必要だと思うようになり、2015年1月に小学生のプログラミング教育を支援する活動準備を始めました。7月にはCode.orgの日本パートナーとなる一般社団法人みんなのコードを設立しました。 当時はプログラミング教育がこんなに盛り上がるとは思っていませんでしたが、2020年から必修化も決まり、行政・企業との連携を深めながらプログラミング教育の支援活動を広げています。 私たちみんなのコードは、﹁全ての子どもがプログラミングを楽しむ国にする﹂というミッションを掲げています。なぜ、全ての子どもなのかというと、プログラミングコンテストはある程度できる子を伸ばすのにはいいけど、全ての子どもの育成に対する取り組みってあまりないと思ったから。なので、裾野を広げるほうを頑張ろうというコンセプトでやってます。 IT人材不足や論理的思考を鍛えるという考え方も大事ではあるんですが、実際に授業でやるときは﹁プログラミングを楽しむ﹂というのを第一にして、結果的に子どもの能力が高まるとか、社会で活躍できる人材を育てたいと考えたからです。 ﹁国にする﹂とした背景は、こういう活動って東京だけ先に進んでしまって、地方との格差が生まれることが多いんですよね。その差を埋めるために地方でも活動しています。とはいえ、全ての子どもに直接教えるのは無理なので学校の先生、特に小学校の先生に対しての指導を行っています。プログラミング教育についてのシンポジウムを開催したり、地方に出向いて体系的に学んでもらったり、実際の授業で使える教材を提供したりなどですね。2017年度のシンポジウムは10都市1000名超の先生に参加してもらいました。これからはさらに拡大していく予定です。
▲一般社団法人みんなのコード 代表 利根川 裕太さん 春日井‥日本マイクロソフトの春日井です。Windowsのマーケティング担当として、教育市場を見ています。HTML5 Experts.jpのエキスパートに名前を連ねているように、以前はWeb系の技術のエバンジェリストをしていたのですが、後半は学生向けのエバンジェリズム活動も兼任していて、その頃に知り合ったのが水野さん。 ﹁Life is Tech!﹂は大学生が中高生を教えるというスタイルで、お互いの年齢が近いから親近感があるんですよね。子どもたちを盛り上げる趣向が凝らされていて﹁すごい!﹂って毎回感動しています。しかも、経験と知見が積み重なり、どんどんバージョンアップしてる。 利根川さんとは、彼がCode.orgの日本パートナーとして、みんなのコードを立ち上げた頃に知り合いました。Code.orgはアメリカのSTEM教育︵※︶の普及を支援するNPO団体で、Microsoft、Apple、Google、Facebook、AWSなど大手のIT系企業が数多くサポートしています。 STEM︵ステム︶教育‥科学︵Science︶、技術︵Technology︶、工学︵Engineering︶、数学︵Mathematics︶の教育分野を総称する、2000年代に米国で始まった教育モデル。 Microsoftは﹁Microsoft MakeCode﹂というMicrosoftが開発した学習者向けのプログラミング環境とコンピューティング教育用教材を展開しています。最近はIoTを活かしたフィジカルコンピューティングが人気で、micro:bitというマイコンと連携できる﹁MakeCode micro:bit﹂が注目されています。USBでつないだmicro:bitをビジュアルコーディングでLEDを光らせたり、温度センサーや加速度センサーを使ったモノ作りにも使えます。理科や技術なんかの教科との組み合わせの相性もいいですよね。 ほかにも、MakeCodeはMinecraft︵マインクラフト︶をプログラミング教材として使うこともできて、一緒に組み合わせる﹁Minecraft Education Edition﹂というマイクラの教育版があります。Minecraftは全世界の子どもがほぼ100%やっている人気のサンドボックスゲームですね。 水野‥シンガポールでも大人気で、どこのコンビニでも一番目立つ場所に置いてあります。 白石‥うちの小4の息子もすごくはまっていますね。いつもYouTubeの実況を見てます(笑)。 春日井‥YouTubeを見て勉強する子も多いみたいですね。古い世代は先生からの一方的な詰込み型の教育が当たり前だったんですが、お互い子ども同士が学び合おうという協働学習の学習効果に注目が集まっていて、Minecraft: Education Editionにはそんなこともできるように工夫されています。 先生が黒板に﹁ここに集合!﹂と書いたり、仮想世界にいる子どもをガイダンスしたりする機能もあって、お値段もお手頃。先生が一人、1年あたり544円払えば使うことができます。 実績としておもしろいのは、立命館小学校の事例ですね。京都には、たくさんの観光施設があることはご存じの通りですが、海外の人にもっと知ってもらおうという課題を解決する学習にMinecraft: Education Editionが使われました。 ちゃんと設計図を手に入れて、誰が屋根と庭とかを作るかなどの業務分担をし、訪れた人のアングルまで徹底的に考え、議論しながら作っています。先生はあくまで手助けするだけで、子どもたちが主体的に取り組んでいるところが素晴らしいんです。 Minecraft Education Editionはプログラミング教育だけでなく、STEM教育全般をやろうとしています。例えば、私たちの世代だと元素記号を覚えるだけだったものが、仮想空間の中で水素と酸素を合成すると水を生成するようなことを体験したりします。現CEOのサティア・ナデラの理解もあり、マイクロソフトでは全世界的にかなり教育に力を入れていますね。
▲日本マイクロソフト株式会社 Windows プロダクトマネージャ 春日井 良隆さん 白石‥子どものプログラミング教育を支援するのは、Microsoftにとってどういうメリットがあるんですか? 春日井‥1つは社会的な責任ですね。。第4次産業革命に向けた人材育成を引き合いに出すまでもなく、ICTのスキルを持った人材の育成は急務です。日本のマイクロソフトの人間として、日本の将来に貢献をしたい。それは、偽らざる気持ちです。 商売的な話をすれば、子どもの頃からWindowsに慣れ親しめば、大人になったらSurfaceを買ってくれるだろうという期待もあります(笑)。あとはスマートフォンに対する、パソコンの意義というのも伝えていきたいと考えています。
今回のゲストプロフィール
ライフイズテック株式会社 代表取締役CEO 水野 雄介さん 1982年生まれ。慶応義塾大学理工学部物理情報工学科、同大学院在学中に、開成高等学校物理非常勤講師を2年間勤める。卒業後、人材系コンサルティング会社に入社。教育変革を掲げ、退社後、2010年7月、ピスチャー株式会社︵現ライフイズテック株式会社︶設立。シリコンバレーIT教育法をモチーフとした中高生向けIT教育プログラム﹁Life is Tech!﹂を立ち上げる。現在延べ15000名の中高生がLife is Tech !に参加。 NPO法人みんなのコード 代表 利根川 裕太さん 一般社団法人みんなのコード代表。慶應義塾大学経済学部卒業後不動産デベロッパーへの勤務を経て2011年よりラクスル株式会社に立ち上げより参画。2014年Hour of Codeのボランティア実施後プログラミング教育の必要性を感じ、2015年7月一般社団法人みんなのコードを設立し代表理事に就任。2016年、文部科学省﹁小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議﹂委員。 日本マイクロソフト株式会社 プロダクトマネージャ 春日井 良隆さん 岐阜大学 教育学部を卒業後、大沢商会、アドビ システムズを経て、マイクロソフトに入社し、ExpressionとSilverlightのマーケティング戦略を担当する。その後、エバンジェリストとして、ユーザーエクスペリエンスやHTML5、プログラミング教育の普及に奔走し、Imagine CupやHour of Codeの日本での活動を主導する。2015年よりWindowsのプロダクトマネージャーとしてコンシューマ市場を、2017年より教育市場を担当。プログラミング教育のこれまでの取り組み
白石‥まずは皆さんの自己紹介と、プログラミング教育との関わりについてお聞かせください。 水野‥ライフイズテック水野です。これまでプログラミング教育は重要だと言われながら、社会がなかなかついていけてなかった。プログラミングスキルは﹁やりたい﹂﹁好き﹂という気持ちがないと伸びないと考え、7年半前に中高生向けIT教育プログラム﹁Life is Tech!﹂を立ち上げました。 ﹁Life is Tech!﹂は春夏冬休み中に、3~8日間のキャンプ形式でiPhoneアプリやゲームを作りながらプログラミングを学びます。1回150~200人の中高生が参加し、5~6人が1チームになり、大学生がメンターとなって中高生に教えています。これまで延べ27,000人が参加しており、世界2位の規模となりました。 Life is Tech!では、ただプログラミングのスキルをつけるだけでなく、好きな仲間と出会ったり、尊敬する大学生のメンターに学ぶことでこんな先輩になりたいと思ったり、夢中になれることを見つける体験をしてほしいので、大学や企業など、中高生にとって非日常な空間でキャンプするということを大事にしています。 ▲﹁Life is Tech!﹂キャンプの様子 有料コースと無料コースがありますが、全体の1/3が無料体験会や企業とのタイアップキャンプの参加者です。最近はIoTをテーマに開催したり、NHKさんとAIを学んだりしています。ポケモンGOやUnityのコースも人気があります。参加者には勉強時間はLINEが使えなくなったり、ライバルが勉強し出すと通知が来る機能など、独創的な発想で作った勉強管理のアプリを作り、ダウンロード数が10万超えした子もいます。 子どもたちにはいつもプログラミングの力で﹁半径2mの世界を自分たちで変えていこう﹂、さらに﹁その半径を広げていこう﹂と伝えています。▲ライフイズテック株式会社 代表取締役CEO 水野 雄介さん 利根川‥僕は大学卒業後、大手の不動産会社に就職し、2011年にラクスルというベンチャーに社長の次にエンジニアとして入って、立ち上げから携わりました。それから4年経った2014年くらいに、エンジニアと非エンジニアの壁をなんとなく感じていたこともあり、アメリカの非営利活動法人Code.orgが展開している﹁Hour of Code﹂をみんなでやってみたんですね。 それをきっかけに、こうしたプログラミング教育が日本にも必要だと思うようになり、2015年1月に小学生のプログラミング教育を支援する活動準備を始めました。7月にはCode.orgの日本パートナーとなる一般社団法人みんなのコードを設立しました。 当時はプログラミング教育がこんなに盛り上がるとは思っていませんでしたが、2020年から必修化も決まり、行政・企業との連携を深めながらプログラミング教育の支援活動を広げています。 私たちみんなのコードは、﹁全ての子どもがプログラミングを楽しむ国にする﹂というミッションを掲げています。なぜ、全ての子どもなのかというと、プログラミングコンテストはある程度できる子を伸ばすのにはいいけど、全ての子どもの育成に対する取り組みってあまりないと思ったから。なので、裾野を広げるほうを頑張ろうというコンセプトでやってます。 IT人材不足や論理的思考を鍛えるという考え方も大事ではあるんですが、実際に授業でやるときは﹁プログラミングを楽しむ﹂というのを第一にして、結果的に子どもの能力が高まるとか、社会で活躍できる人材を育てたいと考えたからです。 ﹁国にする﹂とした背景は、こういう活動って東京だけ先に進んでしまって、地方との格差が生まれることが多いんですよね。その差を埋めるために地方でも活動しています。とはいえ、全ての子どもに直接教えるのは無理なので学校の先生、特に小学校の先生に対しての指導を行っています。プログラミング教育についてのシンポジウムを開催したり、地方に出向いて体系的に学んでもらったり、実際の授業で使える教材を提供したりなどですね。2017年度のシンポジウムは10都市1000名超の先生に参加してもらいました。これからはさらに拡大していく予定です。
▲一般社団法人みんなのコード 代表 利根川 裕太さん 春日井‥日本マイクロソフトの春日井です。Windowsのマーケティング担当として、教育市場を見ています。HTML5 Experts.jpのエキスパートに名前を連ねているように、以前はWeb系の技術のエバンジェリストをしていたのですが、後半は学生向けのエバンジェリズム活動も兼任していて、その頃に知り合ったのが水野さん。 ﹁Life is Tech!﹂は大学生が中高生を教えるというスタイルで、お互いの年齢が近いから親近感があるんですよね。子どもたちを盛り上げる趣向が凝らされていて﹁すごい!﹂って毎回感動しています。しかも、経験と知見が積み重なり、どんどんバージョンアップしてる。 利根川さんとは、彼がCode.orgの日本パートナーとして、みんなのコードを立ち上げた頃に知り合いました。Code.orgはアメリカのSTEM教育︵※︶の普及を支援するNPO団体で、Microsoft、Apple、Google、Facebook、AWSなど大手のIT系企業が数多くサポートしています。 STEM︵ステム︶教育‥科学︵Science︶、技術︵Technology︶、工学︵Engineering︶、数学︵Mathematics︶の教育分野を総称する、2000年代に米国で始まった教育モデル。 Microsoftは﹁Microsoft MakeCode﹂というMicrosoftが開発した学習者向けのプログラミング環境とコンピューティング教育用教材を展開しています。最近はIoTを活かしたフィジカルコンピューティングが人気で、micro:bitというマイコンと連携できる﹁MakeCode micro:bit﹂が注目されています。USBでつないだmicro:bitをビジュアルコーディングでLEDを光らせたり、温度センサーや加速度センサーを使ったモノ作りにも使えます。理科や技術なんかの教科との組み合わせの相性もいいですよね。 ほかにも、MakeCodeはMinecraft︵マインクラフト︶をプログラミング教材として使うこともできて、一緒に組み合わせる﹁Minecraft Education Edition﹂というマイクラの教育版があります。Minecraftは全世界の子どもがほぼ100%やっている人気のサンドボックスゲームですね。 水野‥シンガポールでも大人気で、どこのコンビニでも一番目立つ場所に置いてあります。 白石‥うちの小4の息子もすごくはまっていますね。いつもYouTubeの実況を見てます(笑)。 春日井‥YouTubeを見て勉強する子も多いみたいですね。古い世代は先生からの一方的な詰込み型の教育が当たり前だったんですが、お互い子ども同士が学び合おうという協働学習の学習効果に注目が集まっていて、Minecraft: Education Editionにはそんなこともできるように工夫されています。 先生が黒板に﹁ここに集合!﹂と書いたり、仮想世界にいる子どもをガイダンスしたりする機能もあって、お値段もお手頃。先生が一人、1年あたり544円払えば使うことができます。 実績としておもしろいのは、立命館小学校の事例ですね。京都には、たくさんの観光施設があることはご存じの通りですが、海外の人にもっと知ってもらおうという課題を解決する学習にMinecraft: Education Editionが使われました。 ちゃんと設計図を手に入れて、誰が屋根と庭とかを作るかなどの業務分担をし、訪れた人のアングルまで徹底的に考え、議論しながら作っています。先生はあくまで手助けするだけで、子どもたちが主体的に取り組んでいるところが素晴らしいんです。 Minecraft Education Editionはプログラミング教育だけでなく、STEM教育全般をやろうとしています。例えば、私たちの世代だと元素記号を覚えるだけだったものが、仮想空間の中で水素と酸素を合成すると水を生成するようなことを体験したりします。現CEOのサティア・ナデラの理解もあり、マイクロソフトでは全世界的にかなり教育に力を入れていますね。
▲日本マイクロソフト株式会社 Windows プロダクトマネージャ 春日井 良隆さん 白石‥子どものプログラミング教育を支援するのは、Microsoftにとってどういうメリットがあるんですか? 春日井‥1つは社会的な責任ですね。。第4次産業革命に向けた人材育成を引き合いに出すまでもなく、ICTのスキルを持った人材の育成は急務です。日本のマイクロソフトの人間として、日本の将来に貢献をしたい。それは、偽らざる気持ちです。 商売的な話をすれば、子どもの頃からWindowsに慣れ親しめば、大人になったらSurfaceを買ってくれるだろうという期待もあります(笑)。あとはスマートフォンに対する、パソコンの意義というのも伝えていきたいと考えています。