イベントレポート
青空文庫の夢:著作権と文化の未来
新時代の著作権は報酬請求権に――ベルヌ条約をひっくり返すという遺志
(2013/9/27 11:00)
9月25日に行われた、「青空文庫」の呼びかけ人・富田倫生氏の追悼シンポジウム「青空文庫の夢:著作権と文化の未来」の後編(※1)は、以下の方々によるパネルディスカッションが行われた(敬称略)。
大久保ゆう(青空文庫)
長尾真(前国立国会図書館長・元京都大学総長)
津田大介(司会、ジャーナリスト)
萩野正昭(ボイジャー代表取締役)
平田オリザ(劇作家・演出家)
福井健策(弁護士・日本大学芸術学部客員教授)
URL
- (※1)前編の基調スピーチは「富田倫生氏が抱いた『藍より青い』青空文庫の夢」を参照
- http://internet.watch.impress.co.jp/docs/event/20130926_616972.html
脚本には、二次利用されることを前提とした長い歴史がある
司会の津田大介氏はまず、基調スピーチには登壇していない、劇作家の平田オリザ氏に自己紹介と感想を求めた。
平田氏は、日本劇作家協会が唯一権利者の立場であるにもかかわらず、「TPPに反対する緊急アピール」を出した(※2)ことに誇りを持っていると語った。
本(活版印刷)の歴史が500年、著作権の歴史が300年、小説の歴史は200年だが、二次利用されることを前提として脚本を書く劇作家には2500年の歴史がある。
本来、文学や文芸など、「知」というものは、共有性に支えられ発展してきたものだという。もちろん本や著作権の歴史というのは、非常に豊かなものを我々にもたらしてきたが、それがいまや大きな転換点に来ているということではないかと平田氏は言う。
URL
- (※2)Japan Playwrights Association - TPPに反対する緊急アピール - 一般社団法人日本劇作家協会
- http://www.jpwa.org/main/appeal20130717
どうぞ自由に使って下さい。文句を言うつもりも、そんな権利もない
続いて、青空文庫の大久保ゆう氏によるコメント。青空文庫には昔から参加をしていて、「好き勝手やる係を担当しています」と自己紹介した。
福井健策氏が基調スピーチの中で「死後50年後のことを考えている人に会ったことがない」と言っていたが、大久保氏は青空文庫の中で1人思い浮かぶ人がいるという。それは、6月29日の緊急シンポジウム「日本はTPPをどう交渉すべきか~『死後70年』『非親告罪化』は文化を豊かに、経済を強靭にするのか?」(※3)で、富田倫生氏が朗読した「後世」の作者である芥川龍之介。「幽霊」という掌編(※4)に、死んでから50年後に古本屋へ化けて出る芥川が描かれているそうだ。
青空文庫は、著作者の死後50年後に、インターネットで読めるようにしておくというのがまず第一の目的だと大久保氏は語る。文化を共有して、継承していくのが使命。そのために必要なのは、何よりもまず本が自由であることが不可欠。「青空文庫はタダで本が読めるからフリーなのだ」ということがよく言われるが、フリーというのは無料ということだけではないという。
会場で配布された「『本の未来基金』の創設」というパンフレットには、基金へ寄せられたコメントが掲載されている。例えば「仕事に追われて図書館にも行けなくなった時期、青空文庫に支えて貰いました」とか、「海外留学中、無性に日本語の文学が読みたくなったとき、青空文庫にはよくお世話になりました」といったコメントは、本がインターネット上で自由になっていることによる成果だ。
URL
- (※3)TPP交渉、著作権保護期間延長や非親告罪化を阻止するのは国民の関心
- http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20130701_605885.html
- (※4)青空文庫 図書カード:No.94「LOS CAPRICHOS」に収録されている
- http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card94.html
本の自由と、図書館の自由
「本の自由」という話を受けて、津田氏は「本というのは昔から図書館があって、公共性が高いから、コンテンツの中ではちょっと特殊だと思うのですが」と、長尾真氏にコメントを求めた。
AppleのHyperCardによって本の不自由さに気付く
次に津田氏はボイジャーの萩野正昭氏に、どうして電子出版の道に進んだのか、そこで改めて気付いた「本の自由」ということの重要性についてコメントを求めた。
サルトルの遺族に、アンドロイドによる上演が拒否された
平田氏は、サルトルの「出口なし」を来年にフランスで上演する予定で制作準備を進めてきたのが、サルトルの遺族に上演拒否されたという事例(※5)を紹介した。拒絶理由は唯一、アンドロイドで上演することだったという。これは大阪大学ロボット演劇プロジェクトの一環だが、ご当地フランスでも「自由の象徴であるサルトルの遺族が、そんな制限を加えるとは」と、大変な驚きと怒りを呼んだそうだ。
サルトルが亡くなったのは1980年。日本であれば2030年には著作権が切れる。平田氏は、もし仮に保護期間が延長してしまうと、さすがに2050年まで現役でいられる自信はないという。二次利用というのは、お金を儲けるということだけではないのに、遺族の一言でひっくり返されてしまう。それが果たして人類の発展のためになるだろうか?と、平田氏は問いかける。
また、平田氏は、保護期間の延長問題というのは、どうみても途上国が不利な話で、日本がそれに加担することが社会的正義に叶うものなのかと、疑問を投げかける。グローバル企業というのは、途上国を締め付ける経済施策を打ってきているわけで、日本の芸術家たちがアメリカの尻馬に乗って喜んでいていいのか?と懸念を述べる。
URL
- (※5)平田オリザ|青年団公式ホームページ 主宰からの定期便
- http://s.seinendan.org/oriza/2013/09/02/3093
創作者と遺族は別の人
福井氏は「遺族」の難しさについて、平原綾香氏の歌った「Jupiter」の事例を挙げた。原曲はグスターヴ・ホルストの管弦楽「木星」で、クラシックカバーブームの先駆けとなるヒット曲だ。ホルストの遺族は著作権管理に非常に厳格で、編曲はおろか楽章ごとの演奏すら許さなかったという。だから、二次利用は著作権保護期間が切れないと無理だった。実際、復刻がヒットすると、原曲も再評価され人気を呼んだという。