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[[英語]]では、捕鯨時代には﹁悪魔の魚{{efn|﹁''Devil fish''﹂}}﹂とも呼ばれたが、これは人間による捕殺に抵抗し、とくに子供を守ろうとする母鯨が激しく暴れたことに由来するとされる<ref>Anna Guasco, 2023年, ﹃''From Devil-Fish to Friendly Whale? Encountering Gray Whales on The California Coast''﹄, Environment and History, [[ケンブリッジ大学]], White Horse Press</ref>。 [[18世紀]]までは[[北大西洋]]にも本種が生存しており、本種を指す英語での表記として「''Scrag Whale''」や「''Scragg Whale''」というものがみられた。
==分類==
{{see also|アキシマクジラ}}
コククジラの系統については長らく議論されてきた。
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これらのことから、コククジラの分類は見直される可能性が示唆され、2019年の分子系統解析では完全に[[ナガスクジラ科]]に内包されることが明らかになった{{efn|詳細は[[ナガスクジラ科#分子系統]]を参照。}}<ref>{{Cite journal|last=McGowen|first=Michael R|last2=Tsagkogeorga|first2=Georgia|last3=Álvarez-Carretero|first3=Sandra|last4=dos Reis|first4=Mario|last5=Struebig|first5=Monika|last6=Deaville|first6=Robert|last7=Jepson|first7=Paul D|last8=Jarman|first8=Simon|last9=Polanowski|first9=Andrea|last10=Morin|first10=Phillip A|last11=Rossiter|first11=Stephen J|date=2019-10-21|title=Phylogenomic Resolution of the Cetacean Tree of Life Using Target Sequence Capture|journal=Systematic Biology|volume=69|issue=3|pages=479–501|doi=10.1093/sysbio/syz068|issn=1063-5157|pmc=7164366|pmid=31633766}}</ref>。 なお、比較的に知名度の高い近縁種として[[アキシマクジラ]]
== 形態 ==
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︵人間の概念に当てはめれば︶ほとんどの個体が﹁[[右利き]]﹂であり、採餌時に体を右側に傾けるために右側のクジラヒゲがより摩耗して短くなっている事例が多く、またそれに影響されて、フジツボなどの寄生生物の付着量も体の左右側のどちらか一方に偏向している傾向にある<ref name=EDC>{{Cite web |author=|date= |url=https://us.whales.org/whales-dolphins/species-guide/gray-whale/ |title=Gray Whale - Eschrichtius robustus|website= WDC︵[[:en:Whale and Dolphin Conservation|英語版]]︶|accessdate=2023-08-22}}</ref><ref>{{Cite web |author=Sudha Warrier|date=2023-05-20 |url=https://us.whales.org/whales-dolphins/species-guide/gray-whale/ |title=How to pet a gray whale|website= マトルブーミ︵[[:en:Mathrubhumi|英語版]]︶|access-date=2023-08-22}}</ref>。 後述の北米沿岸に存在する﹁レジデント﹂は、より長距離の回遊を行う個体よりも概して小柄であり、また、頭骨や尾びれも小型化している<ref name=Smaller>{{Cite web |author=Michelle Klampe |date=2023-08-09 |url=https://phys.org/news/2023-08-gray-whales-pacific-northwest-coast.html |title=Gray whales feeding along the Pacific Northwest coast are smaller than their counterparts who travel farther to forage |website= [[Phys.org]] | == 生態 ==
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また、[[ザトウクジラ]]はシャチの狩りを積極的に妨害して他の生物を守ることが確認されており、2012年の観察以降、シャチによるコククジラの狩りや殺害後の捕食を妨害した観察例が複数回報告されている<ref>{{Cite web|author=Tia Ghose |date=2017-05-04|url=https://www.livescience.com/58960-humpbacks-stop-orca-killing-spree-video.html|title=Humpbacks Block Killer Whale Feeding Frenzy in Wild Video|website=ライブ・サイエンス︵[[:en:Live Science|英語版]]︶ |access-date=2023-07-10}}</ref><ref>{{Cite web|和書|author=Jason Bittel, 鈴木和博︵訳︶|date=2016-08-10|url=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/080900301/|title=ザトウクジラはシャチから他の動物を守る、研究報告|website=[[ナショナル ジオグラフィック (雑誌)|ナショナルジオグラフィック]]日本語版|access-date=2023-07-10}}</ref>。 商業捕鯨の禁止後は、人類による主だった脅威は少数民族による生存捕鯨、定置網への[[混獲]]、船舶との衝突、騒音、ゴミの誤飲、環境開発や環境汚染や[[地球温暖化]]などとそれらによる餌や生息 なお、後述の通り現在確認されている「アジア系個体群」は[[カムチャッカ半島]]を経由して[[北米大陸]]にも[[回遊]]していることが判明しているため、[[チュクチ自治管区]]や[[ワシントン州]]などで行われている原住民による「生存捕鯨」に絶滅危惧のアジア系個体群が影響を受ける可能性の有無については明らかになっていない。
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===アジア===
[[File:GyeongjuGlyphs1.jpg|thumb|[[:en:Bangudae Petroglyphs|盤亀台岩刻画]]{{efn|[[韓国]]・[[蔚山広域市]]の[[太和江]]付近で発見された[[ペトログリフ]]。}}には、本種や[[セミクジラ]]を含めた[[古代]]の[[朝鮮半島]]の沿岸に[[回遊]]していたと思わしい鯨類相の一部が描写されている。]] 西の系統は、過去の記録から推測すると夏は[[オホーツク海]]や[[黄海]]・[[渤海]]<ref name=GrayArea />などで過ごし、冬に[[朝鮮半島]]や[[日本列島]]、[[中国大陸]]の[[広東省]]や[[海南島]]などの沿岸で繁殖し、春と秋の回遊時には、[[朝鮮半島]]近海から[[日本列島]]を通過していたとみられる。 138 ⟶ 141行目:
1975年の[[ワシントン条約]]の発効時から、ワシントン条約附属書Iに掲載されている<ref name="species+" />。[[北太平洋]]では[[北米大陸]]側の個体群に関してはその後の捕鯨禁止が功を奏し、直近の絶滅の懸念が無くなる程に回復してきているが、後述の通り生息環境の悪化によって大量死が複数回発生している。また、東アジア沿岸の個体群は一時は[[絶滅]]したと判断される程に減少が著しく、現在の残存数はわずか100-150頭と危機的な状況にある<ref>水口博也, 2013年,﹃クジラ&イルカ生態ビジュアル図鑑﹄, 148頁, 株式会社誠文堂新光社</ref>。数値統計上、アジア系個体群は実質的に[[日本]]の捕鯨業によって壊滅した{{efn|[[朝鮮半島]]、[[大亜湾]]などの中国の大陸部の各地、[[台湾]]など様々な地区に[[日本]]の捕鯨基地を林立し、東アジアの沿岸の[[ザトウクジラ]]やアジア系の[[シロナガスクジラ]]や[[ナガスクジラ]]、[[セミクジラ]]など数多くの[[ヒゲクジラ類]]も[[日本]]由来の商業捕鯨によって大打撃を受けた<ref name=MM /><ref name=GrayJapan />。}}。沿岸の開発の影響も受けやすく、アジア系個体群にとっては[[樺太|サハリン]]北部で行われている[[ロシア]]の[[油田]]開発事業﹁[[サハリン2]]﹂による影響がとくに懸念されている。 保護活動の結果、北米大陸側の個体群は一時期は 本種が人類によって減少する以前の生息数には諸説あるが、[[遺伝子座]]などを利用した測定の結果、 ===アジア系個体群の動向===
[[File:Sakhalin-gray-whale-small.jpg|thumb|アジア系個体群の一頭と思われる個体([[樺太|サハリン]])。]]
[[File:Gray Whale, Aogashima, March 11, 2017 by Aurora Chihiro.jpg|thumb|2017年3月に[[青ヶ島]]で観察された個体。2018年の2月-3月にも同島で確認された{{efn|地上波の報道では、2018年の観察が青ヶ島における初の記録だと報じられた<ref>{{cite web |author= |date=2018-02-20 |url=https://web.archive.org/web/20180222090033/https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180220/k10011335581000.html|title=希少な﹁コククジラ﹂ 東京 青ヶ島沖で撮影|website=[[NHKニュース]] |access-date=2023-11-02}}</ref>。}}。]] アジア系の個体群︵ニシコククジラ︶は、[[日本列島]]における古式捕鯨の他にも、[[ユーラシア大陸]]における[[日本]]︵[[大日本帝国]]︶由来の商業捕鯨によって大量に捕獲されて壊滅したとされており{{efn|[[日本]]︵[[大日本帝国]]︶は現在の[[朝鮮半島]] [[朝鮮半島]]で日本の捕鯨業者によって捕獲された個体を測定した結果、胸ビレやヒゲ板、頭部のプロポーション等に北米系とは異なる特徴が見られたとされる。アジア系の個体数は、捕鯨以前の規模ですら北米系統よりは遥かに少なかったとする説が存在する<ref name=SC65bBRG12 /><ref name=GrayJapan>{{Cite journal|和書|author=中村玄 |author2=加藤秀弘 |date=2014 |url=https://doi.org/10.11238/mammalianscience.54.73 |title=日本沿岸域に近年︵1990-2005年︶出現したコククジラ''Eschrichtius robustus''の骨学的特徴,特に頭骨形状から見た北太平洋西部系群と東部系群交流の可能性 |journal=哺乳類科学 |ISSN=0385437X |publisher=[[日本哺乳類学会]] |volume=54 |issue=1 |pages=73-88 |doi=10.11238/mammalianscience.54.73 |CRID=1390282679700616576 |access-date=2023-08-25}}</ref><ref name=Yamaguchi>{{Cite web|和書|author=石川創, 渡邉俊輝|date=2014|url=https://web.archive.org/web/20150109080006/http://whalelab.org/ishikawa2014.pdf |title=山口県鯨類目録 |work=下関鯨類研究室報告 No.2|pages=1-14|website=|access-date=2023-12-07}}</ref>。その一方で、生息環境のデータなどから分析・推定された東アジア圏の[[環境収容力]]は、データが限定されていながらも、[[日本列島]]や[[樺太|サハリン]]の南半分、[[千島列島]]などだけでも 現存するニシコククジラの何割が、純粋なアジア系の生き残りなのか北米系の個体群に由来しているのか、それとも両群の交配に由来するのかは不明である<ref name=PLOS />。[[混獲]]された個体や漂着個体などを解剖した結果、近年に[[中国]]や[[日本]]の沿岸に出現してきた個体は北米側の個体群に由来する可能性および本来のアジア系群が実質的に絶滅した可能性も指摘されている<ref name=GrayJapan /><ref name=SC65bBRG12>{{cite journal|author=Kato H.|author2=Kishiro T.|author3=Nishiwaki S.|author4=Nakamura G.|author5=Bando T.|author6=Yasunaga G.|author7=Sakamoto T. |author8=Miyashita T.|year=2014| title=Status Report of Conservation and Researches on the Western North Pacific Gray Whales in Japan, May 2013 – April 2014 <nowiki>[document SC/65b/BRG12]</nowiki>|url=https://archive.iwc.int/pages/download.php?ref=4801&size=&ext=pdf&k=&alternative=-1&usage=-1&usagecomment=|access-date=2021-08-21}}</ref><ref name=2011insights />。また、個体数が激減したことによる[[近親交配]]の増加と[[遺伝的多様性]]の低下による悪影響も懸念されている<ref>NMFS︵[[:en:National Marine Fisheries Service|英語版]]︶, 2023年, ''[https://media.fisheries.noaa.gov/2023-03/2023-Gray-Whale-WNP-DPS-5-Year-Review_508-compliant.pdf Gray Whale, Western North Pacific Distinct Population Segment (Eschrichtius robustus) 5-Year Review: Summary and Evaluation]'', [[アメリカ海洋大気庁]]</ref>。 |