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{{Portal クラシック音楽}}
'''フーガ'''︵{{lang-it-short|[[wikt:fuga|fuga]]}}、遁走曲または追走曲︶は、[[対位法]]を主体とした[[楽曲]]形式{{efn|ただし定まった[[楽式]]があるわけではなく、実際にはむしろ作曲技法もしくは演奏様式の1つと考えられる<ref>久保田慶一編﹃バッハ・キーワード事典﹄︵春秋社、2012︶p. 163, {{ISBN2|9784393930281}}.</ref>。}}の1つ。 == フーガとは ==
"fuga"︵逃走︶という語が示すように、各声部が同じ主題をもとに順に﹁追走﹂する{{仮リンク|模倣 (対位法)|en|Imitation (music)|label=模倣}}の技法を特徴とする<ref name= === フーガの形式 ===
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この提示部ないし追迫部と嬉遊部の関係だけを見ると、[[リトルネロ形式]]と非常に似ている。
フーガでは各提示部において、下記のように各声部が同じ旋律を定められた変形を伴って順次奏するのが特徴であるが、普通、回ごとに各
上述のものはあくまでも典型的な例であって、標準的でないもの(主題が複数あるものや、ストレッタを欠くものなど様々)もありうる。
=== 提示部 ===
[[File:Respuesta tonal en la fuga.jpg|thumb|350px|[[ヨハン・ゼバスティアン・バッハ|J.S.バッハ]]の『[[平均律クラヴィーア曲集]]』第1巻、第16番 ([[ト短調]])フーガの冒頭。応唱(上段、2小節目)の1音目に変応がみられる。]]
フーガの大きな特徴は、[[カノン (音楽)|カノン]]同様、同じ[[旋律]]が複数の[[声部]]に順次現れるということである。
この部分を'''主題提示部'''(英・仏: exposition)、または単に'''提示部'''、主部と呼ぶが、これには次のような原則がある。
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=== バロック ===
[[バロック音楽|バロック]]初期には[[リチェルカーレ]]、[[幻想曲|ファンタジア]]など様々な対位法的な器楽曲が存在したが、後にそれらは一括してフーガと呼ばれるようになった。また[[前奏曲]]や[[トッカータ]]など即興的作品の一部として挿入されていた対位法的な部分が次第に拡大され、1つの楽章として確立したものもフーガと呼ばれるようになった。バロック後期に活動した[[ヨハン・ゼバスティアン・バッハ]]の作品はフーガの書法における一つの頂点とみなされ<ref name=grove2>“フーガ”. ニューグローヴ世界音楽大事典. pp. 10-12</ref>、また[[ヨハン・ヨーゼフ・フックス]]が[[1725年]]に発表した理論書﹃[[グラドゥス・アド・パルナッスム]]﹄は後世まで影響を与えた<ref name=groveeng>Walker, Paul. (2001), “Fugue”, in Sadie, Stanley, ed. ''The New Grove Dictionary of Music and Musicians'', '''9''' (Second ed.), Oxford University Press, pp. 328-329</ref>。 *[[ヨハン・ゼバスティアン・バッハ|J.S.バッハ]]: 『[[平均律クラヴィーア曲集]]』第1、2巻 - 長短24調による全48曲の前奏曲とフーガ。
*[[ヨハン・ゼバスティアン・バッハ|J.S.バッハ]]: 『[[フーガの技法]]』
*[[ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル|ヘンデル]]: 『[[メサイア (ヘンデル)|メサイア]]』
=== 古典派 ===
古典派の時代に入るとフーガは標準的な形式からは外れ、和声的な思考が重視されるにつれてしだいに衒学的、難解でなじみの薄いものとみなされるようになった<ref name=grove2 />。しかしフーガは作曲されつづけ、[[ミサ曲]]などの声楽曲にはフーガを配置する伝統が残ったほか、[[ソナタ形式]]などの楽曲にもフーガが組み込まれることがあった<ref name=groveeng />。 *[[フランツ・ヨーゼフ・ハイドン|ハイドン]]: 弦楽四重奏曲集「[[太陽四重奏曲|太陽]]」 op. 20
*ハイドン: 交響曲[[交響曲第3番 (ハイドン)|第3番]]、[[交響曲第13番 (ハイドン)|第13番]]、[[交響曲第40番 (ハイドン)|第40番]]、[[交響曲第70番 (ハイドン)|第70番]]
*[[ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト|モーツァルト]]: [[モーツァルトのミサ曲|ミサ曲]] - [[孤児院ミサ (モーツァルト)|K. 139]], K. 66, K. 167, K. 262, K. 337、[[大ミサ曲|K.427]] (大ミサ、未完)
*モーツァルト: [[交響曲第41番 (モーツァルト)|交響曲第41番]]「ジュピター」K. 551 第4楽章
*モーツァルト: [[レクイエム (モーツァルト)|レクイエム]] K. 626 キリエ(ルクス・エテルナ
*[[アントニーン・レイハ|レイハ]]: 36のフーガ op. 36
*[[ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン|ベートーヴェン]]: [[エロイカ変奏曲|『エロイカ』の主題による変奏曲とフーガ]] op. 35
*ベートーヴェン: [[ピアノソナタ第29番 (ベートーヴェン)|ピアノソナタ第29番]]「ハンマークラヴィーア」op. 106 第4楽章
*ベートーヴェン: [[交響曲第9番 (ベートーヴェン)|交響曲第9番]] 第4楽章 Allegro energico, sempre ben marcato 以降
*ベートーヴェン: [[ミサ・ソレムニス]] ニ長調 グローリア、クレド
*ベートーヴェン: [[大フーガ (ベートーヴェン)|弦楽四重奏のための大フーガ]] op. 133
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*[[イグナツィ・パデレフスキ|パデレフスキ]]: 変奏曲とフーガ op. 23
*[[フェルッチョ・ブゾーニ|ブゾーニ]]: ショパンのハ短調前奏曲による変奏曲と自由な形式のフーガ op. 22
*ブゾーニ: バッハの断片に基づくコラール前奏曲とフーガ BV 256a
*[[マックス・レーガー|レーガー]]: [[バッハの主題による変奏曲とフーガ (レーガー)|J.S.バッハの主題による変奏曲とフーガ]] op. 81
*レーガー: テレマンの主題による変奏曲とフーガ op. 134
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*[[ベンジャミン・ブリテン|ブリテン]]: パーセルの主題による変奏曲とフーガ op. 34([[青少年のための管弦楽入門]])
*[[ウィリアム・ウォルトン|ウォルトン]]: [[スピットファイア 前奏曲とフーガ]]
*[[モーリス・ラヴェル|ラヴェル]]: [[クープランの墓]] 第2曲 フーガ
*[[バルトーク・ベーラ|バルトーク]]: [[弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽]] Sz. 106 第1楽章
*[[エルンスト・トッホ|トッホ]]: {{仮リンク|地理的フーガ|en|Geographical Fugue}}
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*[[ヴィトルド・ルトスワフスキ|ルトスワフスキ]]: 13の独奏弦楽器のための前奏曲とフーガ
*[[ピエール・ブーレーズ|ブーレーズ]]: [[ピアノソナタ第2番 (ブーレーズ)|ピアノソナタ第2番]] 第4楽章<ref> Peter O'Hagan (2016), ''Pierre Boulez and the Piano: A Study in Style and Technique'', Routledge. pp. 101-103.</ref>
*[[リゲティ・ジェルジュ|リゲティ]]: 『[[レクイエム (リゲティ)|レクイエム]]』キリエ<ref>Amy Bauer (2016), ''Ligeti's Laments: Nostalgia, Exoticism, and the Absolute'', Routledge. p. 68.</ref>
*[[グレン・グールド]]: じゃあ、フーガを書きたいの?
[[ドミートリイ・ショスタコーヴィチ]]がピアノのための『[[24の前奏曲とフーガ]]』([[1950年]]-[[1951年]])を作曲して以来{{efn|ヴセヴォロード・ザデラツキー ([[:en:Vsevolod Zaderatsky|Vsevolod Zaderatsky]]) の『24の前奏曲とフーガ』は強制収容所で過ごした[[1937年]]から[[1939年]]にかけて書かれ、[[ソビエト連邦|ソ連]]崩壊後まで公にならず初演は[[2015年]]に行われた<ref>{{citation|和書|author=塩野直之|title=ザデラツキーと『24 の前奏曲とフーガ』|url=https://doi.org/10.15083/00077061|year=2018|publisher=Slavistika : 東京大学大学院人文社会系研究科スラヴ語スラヴ文学研究室年報|volume=33/34|pages=51-60|hdl=2261/00077061|naid=120006630014}}</ref>。}}、次のような人物がバッハを踏襲した『24のプレリュードとフーガ』を書いている。
*[[ロディオン・シチェドリン]]
*[[原博 (作曲家)|原博]]
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*[[レナード・バーンスタイン]]: 『[[ウエスト・サイド物語]]』クール
*[[ジョン・ルイス (ジャズ演奏者)|ジョン・ルイス]]([[モダン・ジャズ・カルテット]]): コンコルド
*[[アストル・ピアソラ|ピアソラ]]: フーガと神秘、フーガ9
*[[ジョン・ウィリアムズ (作曲家)|ジョン・ウィリアムズ]]: 『[[ジョーズ]]』檻の用意(シャーク・ケージ・フーガ)
*Giovanni Dettori: [[レディー・ガガ]]・フーガ︵﹃[[バッド・ロマンス]]﹄による︶{{efn|2011年4月に[[YouTube]]に投稿された動画で発表され、レディー・ガガ本人も[[Twitter]]上で言及している<ref>[https://www.classicfm.com/discover-music/humour/fugue-lady-gaga/ The epic Baroque Fugue on a Theme by Lady Gaga] - classicfm.com. 2022年4月17日閲覧。</ref>。{{仮リンク|デヤン・ラジッチ|en|Dejan Lazić}}が2011年の[[BBCプロムス]]でアンコールとして演奏し<ref>[https://www.bbc.co.uk/programmes/p00k8m3k Lady Gaga - Bad Romance (Lady Gaga Fugue arr. Dettori)] - bbc.co.uk. 2022年4月17日閲覧。</ref>、[[ハル・レナード・コーポレーション|ハル・レナード]]から複数の編曲が出版されている。}} == 学習==
フーガは[[対位法]]の学習課程で重要な位置を占める。かつて19世紀まで、ヨーロッパの主要都市の大聖堂など主だった教会に任務する[[オルガン]]奏者は、ミサで用いられる聖歌の旋律の断片をもとに、フーガを即興演奏することが求められた。この伝統は21世紀の現在においてもオルガン奏者に受け継がれている。 [[ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル|ヘンデル]]にまつわる俗説として、[[ドメニコ・スカルラッティ]]と即興演奏の公開演奏会で勝負をしたところ、[[チェンバロ]]では両者は対等であったが、オルガンでは先にヘンデルが見事な即興フーガを披露し、スカルラッティはそれを聞いただけで自分は演奏せずヘンデルの勝ちを認めたという逸話があるが、これは後世の創作である。また[[アントン・ブルックナー|ブルックナー]]は青年時代、リンツ大聖堂のオルガン奏者登用試験で受験者ではなく観客としてそれを聞きに行ったところ、他の受験者たちがフーガ課題で出来が良くなく、審査員の一人でデュルンベルガー (Johann August Dürrnberger) というブルックナーの以前のオルガンの教師が客席にいたブルックナーを見つけて演奏するように仕向けたところ、ブルックナーが見事な即興フーガを披露して他の受験者を凌ぎ、大聖堂オルガニストの座を勝ち取ったという逸話がある。 [[フランス]]においてはとくにフーガとアカデミズムとの結びつきが強く<ref name=grove2 />、[[フランソワ=ジョゼフ・フェティス]]、[[ルイジ・ケルビーニ]]、[[テオドール・デュボワ]]、[[アンドレ・ジェダルジュ]]といった教師が活動した[[パリ国立高等音楽・舞踊学校|パリ音楽院]]において、作曲の訓練のために厳格な規則をもつ形式が発展した。歴史上の実作とは必ずしも符合しないこの規範的な形式は﹁学習フーガ﹂(仏‥fugue d'école、英‥school fugue) と呼ばれ<ref name=ecole>Walker, Paul. (2001), “Fugue d'école”, in Sadie, Stanley, ed. ''The New Grove Dictionary of Music and Musicians'', '''9''' (Second ed.), Oxford University Press, p. 332</ref>、21世紀に入っても教えられている。 旧ソ連邦ではソ連崩壊まで「ピアノ(またはオルガン)のためのプレリュードとフーガ」の作曲が必修であった。[[ドミートリイ・ショスタコーヴィチ]]は、バッハの平均律の解釈を[[マリア・ユージナ]]からプライヴェートレッスンで教わった。その結果生まれたのが『[[24の前奏曲とフーガ|ピアノのための24のプレリュードとフーガ]]』である。▼
▲旧[[ソビエト連邦]]ではソ連崩壊まで﹁ピアノ(またはオルガン)のためのプレリュードとフーガ﹂の作曲が必修であった。[[ドミートリイ・ショスタコーヴィチ]]は、バッハの﹃平均律﹄の解釈を[[マリア・ユージナ]]から かつて[[20世紀]]の音楽学校ではフーガは必修科目であったが、戦後は[[対位法]]学習の旧弊な点が指摘され、徐々にカリキュラムから減らされていった。[[ルチアーノ・ベリオ]]は「パリベニ(Giulio Cesare Paribeni)のクラスで対位法をやっていたが、たびたび二人きりの授業になった」と語っている<ref>D・オズモンド=スミス;ベリオ『現代音楽の航海者』([[青土社]])p.14, {{ISBN2| 4-7917-5645-2}}より</ref>。また、[[ナディア・ブーランジェ]]が目指した最も高い指標に「即興でフーガを作曲すること」がある。▼
▲かつて[[20世紀]]の音楽学校ではフーガは必修科目であったが、戦後は[[対位法]]学習の旧弊な点が指摘され、徐々にカリキュラムから減らされていった。[[ルチアーノ・ベリオ]]は﹁パリベニ (Giulio Cesare Paribeni) のクラスで対位法をやっていたが、たびたび二人きりの授業になった﹂と語っている<ref>D・オズモンド=スミス;ベリオ﹃現代音楽の航海者﹄︵[[青土社]]︶p.14, {{ISBN2| 4-7917-5645-2}}より</ref>。また、[[ナディア・ブーランジェ]]が目指した最も高い指標に﹁即興でフーガを作曲すること﹂がある。 イタリアの各種音楽院もパリ音楽院に倣って、和声法と対位法とフーガの書籍が大量にイタリア語に翻訳された。翻訳のみならず{{仮リンク|ヴィンセンツォ・フェローニ|it|Vincenzo Ferroni}}のように、1939年<ref>{{Cite web |url = https://archive.is/Y1HDz|title = Corso di Contrappunto e Fuga|website = www.picclickimg.com|publisher = www.picclickimg.com|date = |accessdate = 2021-04-14}}</ref>には隅々までパリ音楽院のメソッドを輸入<ref>{{Cite web |url = https://archive.is/806Sw|title = Corso di Contrappunto e Fuga|website = www.picclickimg.com|publisher = www.picclickimg.com|date = |accessdate = 2021-04-14}}</ref>していた時期もあった。しかしながら、{{仮リンク|レナート・ディオニーシ|it|Renato Dionisi}}が1960年代末から対位法教育の改革に取り組み、現在では16世紀の技法と18世紀の技法を別個に習うよう元に戻されている。ただし、日本はそのまま元に戻ることはなく、現在もパリ音楽院のメソッドが継承されている。 == フーガに関する文献 ==
*[[山口博史 (作曲家)|山口博史]] (2016). フーガ書法~パリ音楽院の方式による~. [[音楽之友社]].
*[[島岡譲]] (1984). 音楽の理論と実習 III. 音楽之友社. (絶版)
*[[ジョゼフ・カーマン|Joseph Kerman]] (2005). The art of fugue: Bach fugues for keyboard, 1715-1750. University of California Press.
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*[[フーゴー・リーマン|Hugo Riemann]] (1890, 1891). Katechismus der Fugen-Komposition: Analyse von J. S. Bachs Wohltemperiertem Klavier und Kunst der Fuge.
*Marjorie Wornell Engels (2006). Bach's Well-Tempered Clavier: An Exploration of the 48 Preludes and Fugues. McFarland.
*[[カール・
*[[:it:Bruno Zanolini|Bruno Zanolini]] (1993). La tecnica del contrappunto strumentale nell'epoca di Bach. [[ゼルボーニ音楽出版社|Suvini Zerboni]].
*Peter Schubert; Christoph Neidhöfer (2006). Baroque counterpoint. Pearson Prentice Hall.
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== 脚注 ==
=== 注釈 ===
{{Reflist}}▼
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=== 出典 ===
▲{{Reflist|30em}}
==外部リンク==
*[https://www.oxfordmusiconline.com/grovemusic/view/10.1093/gmo/9781561592630.001.0001/omo-9781561592630-e-0000051678 Fugue] - Grove Music Online
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