「不当利得」の版間の差分
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=== 一般不当利得と特殊不当利得 ===
不当利得についての原則的な処理方法が記述されているのは703条と[[b:民法第704条|704条]]であり、これを'''一般不当利得'''︵一般的不当利得︶と呼ぶ<ref name="uchida564">内田貴著 ﹃民法Ⅱ 第3版 債権各論﹄ 東京大学出版会、2011年2月、564頁</ref><ref>川井健著 ﹃民法概論4債権各論 補訂版﹄ 有斐閣、2010年12月、367頁</ref>。 これに対して[[b:民法第705条|705条]]以下には非債弁済、期限前の弁済、他人の債務の弁済が定められており、これらは'''特殊不当利得'''︵個別的不当利得︶と呼ぶ<ref 不当利得は沿革的には[[ローマ法]]に由来する制度であるが、そこでは非債弁済など個別的不当利得のみが認められており、その後、近代自然法の影響を受けて統一的な制度としての不当利得︵一般的不当利得︶がドイツ法において確立されるに至った<ref>内田貴著 ﹃民法Ⅱ 第3版 債権各論﹄ 東京大学出版会、2011年2月、565頁</ref><ref>川井健著 ﹃民法概論4債権各論 補訂版﹄ 有斐閣、2010年12月、367頁</ref>。 22行目:
* 類型説(類型論)
: 公平説に対しては、その後、ドイツ民法学において多様な適用場面を包摂する不当利得において公平という概念が曖昧で個々の場面では用をなさないという批判が大きくなり、日本でも次第に不当利得が適用される場面の類型に応じて理論化する類型説︵類型論︶が有力視され現在では主流になっているとされる<ref name="uchida566">内田貴著 ﹃民法Ⅱ 第3版 債権各論﹄ 東京大学出版会、2011年2月、566頁</ref><ref>川井健著 ﹃民法概論4債権各論 補訂版﹄ 有斐閣、2010年12月、368頁</ref>。 === 具体的な類型化 ===
類型論は現在では多数説と目されているものの、どのような類型を用いるかは学説間で必ずしも一致してはいないが、一般には少なくとも給付利得︵給付不当利得︶と侵害利得︵侵害不当利得、財貨利得︶については分けて考えられている<ref * 給付利得
: 給付利得とは、外形的には有効な契約など︵表見的法律関係と呼ばれる︶による財貨の移転ののち、当該法律関係が無効・取消し・解除によって清算の対象となる類型を指す<ref>内田貴著 ﹃民法Ⅱ 第3版 債権各論﹄ 東京大学出版会、2011年2月、566-568頁</ref><ref>川井健著 ﹃民法概論4債権各論 補訂版﹄ 有斐閣、2010年12月、368頁</ref>。その性質は財貨帰属秩序の回復であるとされ<ref>大島俊之・下村正明・久保宏之・青野博之著 ﹃プリメール民法4第2版﹄ 法律文化社︿αブックス﹀、2003年3月、166頁</ref>、契約の解除に準じて処理すべきとされ<ref>我妻栄・有泉亨・川井健著 ﹃民法2 債権法 第2版﹄ 勁草書房、2005年4月、403頁</ref>、当事者間の公平の観点から[[同時履行の抗弁権]]や[[危険負担]]の規定が適用される<ref name="uchida568">内田貴著 ﹃民法Ⅱ 第3版 債権各論﹄ 東京大学出版会、2011年2月、568頁</ref>。 * 侵害利得(財貨利得)
: 侵害利得とは、何らの法律上の原因も存在しないまま、相手の権利を侵害して利益を受けている者がいる場合に、そこで得られた利益の返還を求める類型を指す<ref その他、以下のような類型が用いられることもある。
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=== 不当利得の一般的要件 ===
# 他人の財産または労務により利益を受けること('''受益''')
#: 受益とは財貨の給付を受けることを意味する<ref # 他人に損失を及ぼしたこと('''損失''')
#: 損失とは他人による財貨の給付を意味する<ref name="uchida569">内田貴著 ﹃民法Ⅱ 第3版 債権各論﹄ 東京大学出版会、2011年2月、569頁</ref>。積極的損失︵財産が減少した場合︶のみならず消極的損失︵本来であれば増加したはずの財産が増加しなかった場合︶をも含む<ref>川井健著 ﹃民法概論4債権各論 補訂版﹄ 有斐閣、2010年12月、371頁</ref><ref>我妻栄・有泉亨・川井健著 ﹃民法2 債権法 第2版﹄ 勁草書房、2005年4月、405頁</ref>。 # 受益と損失の両者に'''因果関係'''があること
#: 因果関係をめぐっては、直接的なものに限るとする直接的因果関係説、社会観念上のもので足りるとする社会観念的因果関係説︵通説︶、因果関係は要件としては実質的な機能をもたないとみる因果関係緩和説が対立している<ref>川井健著 ﹃民法概論4債権各論 補訂版﹄ 有斐閣、2010年12月、372頁</ref><ref>内田貴著 ﹃民法Ⅱ 第3版 債権各論﹄ 東京大学出版会、2011年2月、569-574頁</ref>。判例は直接的因果関係説をとっているが︵大判大8・10・20民録25輯1890頁︶、社会観念的因果関係説をとったとみられる判例も登場している︵最判昭49・9・26民集28巻6号1243頁︶<ref>川井健著 ﹃民法概論4債権各論 補訂版﹄ 有斐閣、2010年12月、372頁</ref><ref>大島俊之・下村正明・久保宏之・青野博之著 ﹃プリメール民法4第2版﹄ 法律文化社︿αブックス﹀、2003年3月、169頁</ref>。なお、因果関係に関わる問題として後述の転用物訴権や騙取金弁済の問題がある。 # 利得について'''法律上の原因がない'''こと
#:判例によれば正義公平の観念上において正当とされる原因を指す︵大判昭11・1・7民集15巻101頁︶<ref>川井健著 ﹃民法概論4債権各論 補訂版﹄ 有斐閣、2010年12月、376頁</ref>。不当利得の判断において最も重要とされ中心的位置を占める要件である<ref name="uchida574">内田貴著 ﹃民法Ⅱ 第3版 債権各論﹄ 東京大学出版会、2011年2月、574頁</ref><ref>我妻栄・有泉亨・川井健著 ﹃民法2 債権法 第2版﹄ 勁草書房、2005年4月、407頁</ref>。 === 類型論との関係 ===
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給付利得の類型においては、財貨の給付を受けたことが受益で、財貨を給付したことが損失である。たとえば、売買契約で買主が売主に代金を支払った後に契約が無効であるとされた場合、売主が代金を受け取ったことが受益に当たり、買主が代金を支払ったことが損失に当たる。 給付利得の類型において、因果関係は受益と損失という同一の事実の両面であって当事者の確定程度の意義しか持たず、因果関係は独立の要件とする意味に乏しい<ref また、給付利得の場合、﹁法律上の原因がないこと﹂というのは、給付の目的ないし原因となる契約などの法律関係が無効・取消し・解除などによって欠くこと意味する︵目的の不存在、目的の不到達、目的の消滅︶<ref ==== 侵害利得 ====
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返還すべき物は原則として利得の原物返還によるが、社会観念上不能であれば価格返還(返還時の価格)による<ref>我妻栄・有泉亨・川井健著 『民法2 債権法 第2版』 勁草書房、2005年4月、411-412頁</ref>。
返還義務の範囲は後述のように善意の受益者と悪意の受益者とでは異なるが︵善意の受益者に過失があった場合の扱いについては見解が分かれている︶、後述のように給付利得の場合にはこの区別は適合しにくい面があるとされる<ref name="uchida601">内田貴著 ﹃民法Ⅱ 第3版 債権各論﹄ 東京大学出版会、2011年2月、601頁</ref><ref>大島俊之・下村正明・久保宏之・青野博之著 ﹃プリメール民法4第2版﹄ 法律文化社︿αブックス﹀、2003年3月、174-175頁</ref>。<br /> 当事者双方に返還義務を生じる場合には両者は同時履行の関係に立つ(明文はない。533条類推適用)。<br />
なお、不当利得返還請求権は通常の債権と同様に10年の[[消滅時効]]にかかる([[b:民法第167条|167条]]1項)。
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=== 類型論との関係 ===
==== 給付利得 ====
不当利得の範囲は受益者の主観︵善意・悪意︶に応じて異なるが、この区別は内容の点からみると給付利得においては妥当でない場合があり、全体的な公平の点から調整を図る必要性があるとされる︵強迫による売買によって商品の引渡しを受けた者が当該売買を取り消した場合にも悪意者として扱うべきでないとされる︶<ref ==== 侵害利得 ====
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=== 期限前の弁済 ===
支払期日が到来していないのに支払ったような場合、その返還を請求することはできない︵[[b:民法第706条|706条]]本文︶。このような場合に取戻しを認めることは法律関係を煩雑なものにし、また、弁済受領者側からみれば弁済者が[[期限の利益]]を放棄したとみて弁済された物を処分してしまう場合もあることを考慮した規定である<ref name="uchida612">内田貴著 ﹃民法Ⅱ 第3版 債権各論﹄ 東京大学出版会、2011年2月、612頁</ref>。 ただし、債権者が不当な利益を得ることのないよう、弁済者が[[錯誤]]により給付した場合に限って返還を求めることができ︵[[b:民法第706条|706条]]但書︶、この場合には利息分についても返還義務を負う<ref === 他人の債務の弁済 ===
==== 意義 ====
勘違い︵[[錯誤]]︶によって自分が債務者だと思い込んで債務を弁済してしまった場合、本来であれば債務を負っていない︵法律上の原因がない︶のに債務を弁済しているのだから弁済したものを返せと請求できるはずであるが、民法は債権者がこの弁済は正当な弁済だと信じて受け取り、借用書などの債権証書を処分したり[[担保]]を放棄した場合には返還請求をすることができないとする︵[[b:民法第707条|707条]]1項︶。これは債権者において真の債務者から債権を回収できないおそれが大きくなるため、誤った弁済者にそのリスクを負担させる趣旨である︶<ref name="uchida613">内田貴著 ﹃民法Ⅱ 第3版 債権各論﹄ 東京大学出版会、2011年2月、613頁</ref>。 ==== 要件 ====
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麻薬の[[売買]]契約や、殺人の[[請負|請負契約]]、妾契約などは[[公序良俗]]に違反する契約であるから無効であるが︵[[b:民法第90条|90条]]︶、このような﹁不法の原因﹂のためにされた給付は、たとえ一般不当利得の要件を満たしていても返還請求ができない。これを'''不法原因給付'''という︵[[b:民法第708条|708条]]︶。 本条の趣旨は必ずしも明らかではないとされ、立法過程においても大きな論争があったことが知られている<ref
なお、同趣旨の法格言としてイギリス法における裁判所は不法な請求には関与しないというクリーン・ハンズの法理(法廷に出てくる者は「きれいな手」でなければならない)が有名である<ref>内田貴著 『民法Ⅱ 第3版 債権各論』 東京大学出版会、2011年2月、614頁</ref>。
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