Wikipedia

「井口喜源治」の版間の差分

履歴の双方向閲覧
← 古い編集
削除された内容 追加された内容
ビジュアルウィキテキスト
編集の要約なし
編集の要約なし
 
(16人の利用者による、間の24版が非表示)
1行目:
[[ファイル:Kigenji Iguchi Memorial Museum Iguchi Kigenji bust.jpg|thumb|180px|井口喜源治の胸像（井口喜源治記念館）]]
'''井口 喜源冶'''︵いぐち きげんじ、明治3年[[5月3日 (旧暦)|5月3日]]︵[[1870年]][[6月1日]]︶ – 昭和13年︵[[1938年]]︶[[7月21日]]︶は、[[長野県]][[安曇野市]]出身で、[[キリスト教]]精神に基づく私塾﹁[[研成義塾]]﹂の創設者である。
 
== 生い立ち ==
[[画像File:Kigenji Iguchi memorialMemorial hall01s2000Museum.jpg|thumb|230px|安曇野市生家「江戸屋」跡にある[[建つ井口喜源治記念館]]]]
井口喜源治は、1870年︵明治3年︶長野県[[信濃国]][[安曇郡]]等々力町村︵のちの[[南安曇郡]][[穂高町|東穂高村、穂高町]]︶の[[千国街道]][[穂高宿]]に、仕立屋﹁江戸屋﹂の父喜十、母こんの長男として生まれた<ref name="#1"> ﹁井口喜源治と研成義塾﹂p.841</ref>。3歳の時に母を亡くし父と祖母に育てられた。1884年︵明治17年︶に[[安曇野市立穂高の南小学校|研成学校]]の支校・保等︵ほとう︶学校<!--ref>'''保'''高村と'''等'''々力村の意--</ref>を卒業し、旧友で生涯の友となる[[相馬愛蔵]]とともに、[[長野県松本深志高等学校|旧制長野県中学校松本支校]]へ進学した<ref name="#1"/>。この中学校時代に、英語教師であった米国人宣教師ジョージ・W・エルマーよりキリスト教の教えを受け<ref>﹁安曇野・穂高町の人物群像﹂p.146</ref>、終生変わらぬ献身者となった。
 
その後、上京して[[明治法律学校]]において法律を学んだが、同時に牛込教会に通い、[[内村鑑三]]、[[巌本善治]]らの宗教家、宗教教育者に会い、教育の道に進む決心をした。1890年︵明治23年︶、同校を中退し、上高井高等小学校小布施分校の教師となった<ref name="#2">﹁安曇野・穂高町の人物群像﹂p.125</ref>。さらに松本尋常高等小学校を経て、1893年︵明治26年︶の結婚を機に、郷里の東穂高組合高等小学校に着任した<ref name="#2"/>。
 
== 相馬愛蔵と禁酒会 ==
井口はここで帰郷するとすぐに、生涯の友となる[[相馬愛蔵]]が主唱する東穂高禁酒会に入会し、積極的に社会活動に参加していった<ref> ﹁井口喜源治と研成義塾﹂p.843</ref>。また、[[聖書]]を通してキリスト教へ傾倒していった。しかし、教え子の中からキリスト教を信仰するものが続出したためことや、井口はキリスト教に基づき、芸妓置屋の設置に反対したことから<ref name="#3">﹁長野県史 通史編 第7巻﹂p.544</ref>、校長、その他の教員たちから排斥されることになってしまった。原因は、当時の田舎ではキリスト教はヤソと言われ毛嫌いされていたことと、井口が教壇を使って生徒達に布教活動をしたのではないかと思われたことであった。結果的に、彼1898年︵明治31年︶井口は公教育の場を追われることにとなってしまった。
 
== 研成義塾の設立 ==
[[File:Kensei Gijuku monument 2.jpg|thumb|研成義塾跡]]
ことの成り行きを心配した相馬愛蔵ら禁酒会のメンバーが、井口が理想の教育を行えるようにと、村の有力者臼井喜代、愛蔵の父相馬安兵衛の援助を得て、私学校「研成義塾」を村に作ってくれることになった。研成義塾は、初めは集会所を借りた小規模なものだったが、2年後、愛蔵らの支援により本科教室と裁縫室、応接室のある新校舎が建てられた。
{{Main|研成義塾}}
事態を憂慮した愛蔵ら禁酒会の会員らが、村の旧家で有力者の臼井喜代、愛蔵の父・相馬安兵衛の援助を得て、私学校「研成義塾」を村に設立することとなった。井口も、かねてから日記に「郷党の少年を教えて一代の思想を開拓す。また人生の快事ならずや。」と記しており<ref name="#3"/>、改めて理想の教育に取り組むことを決意した。
 
研成義塾は、初めは集会所を借りた小規模なものだったが、2年後、愛蔵らの支援により本科教室と裁縫室、応接室のある新校舎が建てられた<ref>﹁安曇野・穂高町の人物群像﹂p.135</ref>。建物は小さくても、そこには、﹁学生の多数を望まず、校舎の壮大なるを望まず﹂、﹁一人の教師が一人の生徒と信頼をもって相対﹂するという確固たる教育精神があり、キリスト教に基づいた人格主義教育をめざし、﹁偉い人﹂でなく﹁善い人﹂になることが説かれた。
この研成義塾からは、多くの逸材が育ち、19381931年︵昭和137年︶、 井口が亡くなる年病に臥すまで続いた<ref name="#4">﹁井口喜源治と研成義塾﹂p.852</ref>。義塾の卒業生は800名近くにのぼり、朝日新聞の自由主義評論家[[清沢冽]]や[[銀座ワシントン靴店]]店主[[東条條たかし]]、[[日系人の強制収容]]に抵抗した[[ゴードン・ヒラバヤシ]]の父平林俊吾、百姓をしながら評論家であった[[斎斉藤茂]]、早逝の作家[[太田喜代松]]など、評論家、実業家、芸術家、学者として名の知られた人も輩出したが、多くは地域にとどまり、誠実な一生を送っている。
 
== 井口と内村鑑三 ==
[[ファイル:Uchimura Kanzo in 1901.jpg|thumb|150px|内村鑑三（1901年）]]
井口が敬愛した人物に、明治から昭和初期の思想界に多大な影響を与えたキリスト教徒内村鑑三がいる。内村は何度も義塾を訪ね講演などを行い、井口に深い理解と高い評価を送った<ref name="#3"/>。井口を支えたのは、経済的には相馬愛蔵であり、精神的には内村鑑三であった。
 
その内村が1901年︵明治34年︶、研成義塾を訪ねて次のように記している。﹁
{{Quotation|南安曇郡東穂高村の地に研成義塾なる小さな私塾がある。若し之を[[慶應義塾]]とか[[早稲田大学|早稲田専門学校]]とか言ふやうな私塾に較べて見たならば、実に見る影もないものである。其建物と言へば二間に四間の板屋根葺きの教場一つと八畳二間の部屋がある許りである。然し此の小義塾の成立を聞いて、余は[[有明山 (安曇野市・松川村)|有明山]]の巍々たる頂を望んだ時よりも嬉しかった。此の小塾を開いた意志は[[蝶ヶ岳|蝶ケ岳]]の花崗岩よりも硬いものであった。亦之を維持する精神は万水よりも清いものである。－以下略﹂(|﹁入信日記﹂﹃[[万朝報]]﹄)}}
 
== 信州教育への影響 ==
その後、1928年︵昭和3年︶研成義塾が創立30周年を祝ったとき、内村は病気のため出席できず、祝辞が代読された。その中で内村は、井口を[[ソクラテス]]・[[ヨハン・ハインリヒ・ペスタロッチ|ペスタロッチ]]・[[中江藤樹]]という内外の偉大な哲人・教育者と並べて評価した。このことにより、教育は人格の問題であり、知識はその次であるという信州教育の本流的発想が教育界に広まることとなり、後の[[手塚縫蔵]]、[[松岡弘 (教育者)|松岡弘]]をはじめ、信州の多くの教師に影響を与えることになった。井口は
しかし、1932年︵昭和7年︶、井口は︶10月20日に脳溢血に倒れ<ref name="#4"/>、1938年︵昭和13年︶、県知事に廃校届を発送、廃校し許可となっされた。井口はその年の7月21日午後11時30分に69歳で死去した<ref> ﹁井口喜源治と研成義塾﹂p.852</ref>。墓所は安曇野市穂高にある。
 
== 脚注 ==
<references/>
 
== 参考文献 ==
* 『井口喜源治と研成義塾』 南安曇教育会、1981年
* 『孜々として―安曇野・穂高町の人物群像』 [[安曇野市立穂高東中学校|穂高中学校]]編、2000年
* 『[[長野県史]] 通史編 第7巻 近世1』
 
== 関連文献 ==
*『井口喜源治』 研成義塾教友会、1953年
*『キリスト教社会問題研究 第19号・第21号』 [[同志社大学]]人文科学研究所、1971年
*『信州穂高の人脈 井口喜源治と研成義塾』 同志社大学人文科学研究所、1973年
*坂本令太郎 著『近代を築いたひとびと 3』 [[農山漁村文化協会]]、1975年
*斎藤茂、横内三直 編『井口喜源治』 井口喜源治記念館、1976年
*『長野県歴史人物大事典』 郷土出版社、1989年
*『安曇野人間教育の源流 1-3巻』 井口喜源治記念館、2003-2009年
 
== 外部リンク ==
* [http://kigenji.jp/ 井口喜源治記念館]
 
{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:いくち きけんし}}
[[Category:19世紀日本の教育者]]
[[Category:20世紀日本の教育者]]
[[Category:19世紀のプロテスタント信者]]
[[Category:20世紀のプロテスタント信者]]
[[Category:明治時代の人物]]
[[Category:日本の中等教育者の教員]]
[[Category:無教会]]
[[Category:日本のプロテスタントの信者]]
[[Category:長野県松本深志高等学校出身の人物]]▼
[[Category:信濃国の人物]]
[[Category:長野県出身の人物]]
[[Category:1870年生]]
[[Category:1938年没]]
▲[[Category:長野県出身の人物]]
「https://ja.wikipedia.org/wiki/井口喜源治」から取得