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[[File:Bathgate-Christmas-2005-2.JPG|thumb|300px|]]
{{出典の明記|date=2019-03-09}}
'''放射冷却'''(ほうしゃれいきゃく)とは、物体が周囲に[[電磁波]]を[[放射]]し温度を下げていくこと{{Sfn|気象科学事典|p=486|ps=「放射冷却」(著者:大西晴夫)}}。原理上あらゆる物体に起こりうる{{Sfn|気象科学事典|p=486|ps=「放射冷却」(著者:大西晴夫)}}<ref name="jma">{{Cite web|和書|title=放射冷却(ほうしゃれいきゃく)って何? |url=https://www.jma.go.jp/jma/kids/kids/faq/b1_02.html |publisher=気象庁 |access-date=2024-06-18}}</ref>が、主に[[気象学]]で用い、日常的な使用、特に[[天気予報]]の場面では地表が冷えるときの説明によく用いる{{Sfn|NHK放送文化研究所|p=175|ps=「放射冷却」}}{{R|jma}}。
{{参照方法|date=2019-03-09}}
[[File:Bathgate-Christmas-2005-2.JPG|thumb|300px|放射霧が遠くの空に映え、霜が降りた朝。2005年12月25日スコットランドにて]]
'''放射冷却'''(ほうしゃれいきゃく)とは、高温の物体が周囲に[[電磁波]]を[[放射]]し温度が下がる事。身の回りのあらゆる物においても日常的に見られる現象(例:熱いフライパンを放置すれば冷める)。
 
== 気象原理 ==
あらゆる物体はその温度に応じて電磁波を放射していてこれを[[熱放射]](熱輻射)という<ref name="小出">[[#小出|小出「熱放射」、『日本大百科全書』]]</ref>。放射する電磁波のエネルギー量は、その表面温度([[絶対温度]])の4乗に比例する([[シュテファン=ボルツマンの法則]]){{Sfn|気象科学事典|p=486|ps=「放射冷却」(著者:大西晴夫)}}{{R|小出}}。放射する電磁波の[[周波数]]([[波長]])は連続[[スペクトル]]分布をとるが、温度が高い物体ほど波長の短い電磁波を強く出す{{R|小出}}。
[[日本]]では主に気象関係で耳にするくらいだが、地面の温度が下がり、気温が下がる程度が大きい時に特に使われる言葉(実際には常に放射冷却は起きている)。[[秋]]から[[冬]]を挟み[[春]]までのよく[[晴れ]]た[[風]]の弱い夜間に気温が下がりやすい。[[天気予報]]では放射冷却による気温の著しい低下が予想される場合、冬を中心に低温に注意する旨の呼びかけが、「低温注意報」として発表される。また、秋(早霜)と春(晩霜)は[[霜]]に注意する旨の呼びかけが「霜注意報」として発表される。(冬季は霜注意報が発表されない)。そのため単に放射冷却と言った場合には、[[気象]]としての現象を指すことが多い。
 
=== 地表の放射冷却の条件 ===
地表からの熱放射はほぼ[[赤外線]]である{{Sfn|気象科学事典|p=486|ps=「放射冷却」(著者:大西晴夫)}}。[[太陽]]からの[[日射]]が地面を加熱するのに対して、地表からの熱放射は地面を冷却する。また地面からの[[蒸発]]や冷たい空気への[[伝熱|熱移動]]も地面を冷却する方向に働く{{Sfn|気象科学事典|p=486|ps=「放射冷却」(著者:大西晴夫)}}{{Sfn|近藤|2011}}。これに対し、[[大気]]自身は赤外線を熱放射して([[大気放射]])地面を保温する働きをもつ{{Sfn|近藤|2011}}<ref name="ams1">[[#ams1|AMS]]</ref>。
[[絶対温度]]が零度ではない全ての物体は、[[プランクの法則]]により電磁波を放射している。電磁波を放射している物体は温度が下がり、他から放射を受けた物体は温度が上がる。
 
地表面における放射冷却は、日射と下向き(地面向き)の大気放射、その他の熱源からの加熱に比べて、地表からの熱放射が大きいときに起きる{{R|ams1}}。[[晴れ]]て[[風]]の弱い夜にこれが最も強まり、地面付近の空気は強く冷やされて気温が低下する{{Sfn|気象科学事典|p=486|ps=「放射冷却」(著者:大西晴夫)}}{{R|ams1}}。
昼間、[[太陽]]の光が地表面に当たっている時、地表面は太陽放射を受けて温度が上昇する。逆に夜間は、地表面から宇宙空間に向けての放射があり、地表面の温度は低下する。このとき、大気中に[[雲]]が存在すると、雲からの放射を地表面が受けることにより、地表面の温度低下が妨げられる。一方、大気中の水蒸気が少ないよく晴れた夜間(日本では冬季間が代表的)には、地表からの放射はそのまま[[宇宙]]空間に放出されるため、地表付近の温度が低下しやすい。この状態を放射冷却と呼ぶ。
 
ふつう、夕方の日没の少し前のころに、日射加熱と放射冷却は逆転し、冷却が始まる<ref name="松野">[[#松野|松野「放射冷却」、『日本大百科全書』]]</ref>{{Sfn|近藤|2011}}。冷却の速度は、開始後の夕方が最も速く、次第に遅くなる傾向がある{{Sfn|近藤|2011}}。
風が強い場合には、放射冷却が起こっても空気が[[攪拌|混合]]して上空の暖かい空気が降りてくるため、放射冷却は弱くなる。また、水は[[比熱容量]]が大きいため放射冷却が起こりにくい。海岸や湖岸などでは、風が弱くても[[海陸風]]や湖陸風によって自然と混合が起こるため、水辺に近いほど放射冷却が弱くなる。[[山]]や[[丘]]に囲まれた[[盆地]]や[[窪地]]では、低地に冷気が溜まって[[冷気湖]]となり、混合が抑えられるので放射冷却が強い。広大な[[大陸]]の[[内陸]]部では、盆地でなくとも放射冷却した冷気層が均一に広範に存在するため、混合が抑えられて放射冷却が強い。
 
== 放射冷却の強さを決める要素 ==
さらに、上空に[[寒波|寒気]]が流入するなど、大気上層から中層が冷たい場合は、それに応じて下層の温度低下も大きく、より放射冷却が強い。
風が強いときや[[雲]]が多いときは放射冷却による夜の冷え込みが抑えられる。これは、風が冷却された地表付近の空気と比較的暖かい上空の空気を混合するためであり、雲からの下向きの熱放射は地表を暖め、[[水蒸気]]は赤外線を吸収しやすいためである{{Sfn|気象科学事典|p=486|ps=「放射冷却」(著者:大西晴夫)}}{{R|松野}}。
 
地表の熱放射量から地表の日射量を差し引いたものを正味放射量といい、放射冷却量に比例する関係を持つが、晴れた夜間には60 - 100[[放射照度|ワット毎平方メートル]](W m<sup>−2</sup>)に達し、低い雲が広がるときは20 W m<sup>−2</sup>程度となる{{Sfn|近藤|2011}}<ref name="Richard-3">[[#Richard and J. Paulo (2005)|Richard and J. Paulo (2005)]], CHAPTER 3 - MECHANISMS OF ENERGY TRANSFER</ref>。
放射冷却によって地表付近は冷える一方で、地中は[[地熱]]が保持されているため、地中深くなるほど放射冷却による温度低下が小さくなる。また、植物などの地面から離れたものは、地表面と違って地熱の伝導を受けないので、地表面よりも若干温度低下が大きい。ただし、断熱効果のある覆いなどを植物の上に被せると、覆いの温度が低下してもその下は保温され、温度低下が小さくなる。
 
また、地表の物体の[[熱容量]]が小さいほど、地熱を伝える[[熱伝導率]]が小さいほど、放射冷却は強い{{Sfn|近藤|2011}}。表[[土]]が乾燥しているほどよく冷やされる{{Sfn|近藤|2011}}。[[積雪]]のあるときはない時よりも冷え、特に新雪のほうが熱伝導率が小さくよく冷やされる{{Sfn|近藤|2011}}。
[[]]湿[[]]1
 
[[山]]に囲まれた[[盆地]]では、周囲の斜面から冷気が下りてきて溜まる[[冷気湖]]ができるので、平地よりも冷却が強い。盆地が深いほどその効果は強まる{{Sfn|近藤|2011}}。また地形の起伏や気流の妨げとなる樹木などの物体によって、冷気が流れ下りやすかったり溜まりやすかったりする場所がある<ref name="Richard-6">[[#Richard and J. Paulo (2005)|Richard and J. Paulo (2005)]], CHAPTER 6 - PASSIVE PROTECTION METHODS</ref>。
放射冷却による低温を注意喚起する場合は、強い放射冷却の発生が予想される場合である。そのため、特に晴れた夜間に限って放射冷却が発生するかのような誤解も見受けられる。正確に言えば、放射冷却はどんな場合においても常に起こっている。
 
夜が十分長く続いて[[放射平衡]]に至ったと仮定して理論上導かれる放射冷却量の最大値は、寒冷地で乾燥の場合約30[[セルシウス度|℃]]、熱帯の多湿下で約10℃、日本の春・秋では約20℃程度{{Sfn|近藤|2011}}。
=== 放射冷却に伴う気象 ===
放射冷却によって地面付近の空気が急速に冷却されると、上空よりも気温が低くなり接地逆転層という種類の[[逆転層]]が発生することがある。
 
=== 放射冷却に伴う===
[[湿度]]が極端に低くないとき、放射冷却によって地面付近の空気が急速に冷却されて[[露点温度]]に達し、放射霧という種類の[[霧]]が発生することがある。また、川や海岸に近い海では、放射冷却された冷たい空気が暖かい水に接して、蒸気霧が発生することがある。地域差があるものの、少なくとも日本の多くの地域では秋から冬にかけて放射霧が多く発生する。このうえ、逆転層ができていて湿度が比較的低いときには、人の視界の高さ以下の地面付近にのみ薄い霧が発生する[[地霧]]が見られることもある。
放射冷却による冷え込みは、[[霜]]{{Sfn|気象科学事典|p=486|ps=「放射冷却」(著者:大西晴夫)}}{{R|松野}}や放射[[霧]]{{Sfn|気象科学事典|p=486|ps=「放射冷却」(著者:大西晴夫)}}{{Sfn|NHK放送文化研究所|p=175|ps=「放射冷却」}}{{R|松野}}発生の原因となる。[[秋]]の早霜や[[春]]の遅霜の時期の霜の発生は特に、放射冷却が発生の要因となる<ref name="饒村・宮澤">[[#饒村・宮澤|饒村・宮澤「放射冷却」、『知恵蔵』]]</ref>。
 
[[]]{{Sfn||2011}}5{{Sfn||2011}}
霧が発生すると、雲と同じで地面放射を吸収して再放射するため、放射冷却が和らげられる。
 
植物を[[霜#霜害|凍霜害]]から防ぐために使う、ビニールや藁などのシート・覆いやカバーの類は冷却を和らげる効果がある。カバー類は、その外側表面が外気温と同程度となり下向きの赤外放射を増加させるうえ、熱対流による植物表面からの熱損失も防ぐ。使う素材は、熱伝導率が低いほど、また赤外放射の吸収率が高いほど効果が高い{{R|Richard-6}}。
0[[]][[]]
 
放射冷却が進むと、しばしば地表近くの空気は上空よりも気温が低くなり、[[逆転層]]が生じる{{R|松野|饒村・宮澤}}。逆転層は大気の混合を抑制し、地表付近に[[大気汚染]]物質が滞留しやすくなって{{R|松野}}[[スモッグ]]の原因となったり{{R|饒村・宮澤}}、霧の原因となったりする{{R|饒村・宮澤}}。
== 出典 ==
 
* [http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/kisho/kisho02.html 放射冷却と盆地冷却] - 近藤純正
[[果樹園]]や[[畑]]に設置される[[防霜ファン]]は、冷却された空気に覆われた地表付近に高さ十数メートルの相対的に暖かい空気を送り込んで混合させる<ref name="Richard-7">[[#Richard and J. Paulo (2005)|Richard and J. Paulo (2005)]], CHAPTER 7 - ACTIVE PROTECTION METHODS</ref>。ただし、上空まで冷えて逆転層がないときには効果が乏しい{{R|Richard-7}}。凍霜害の防止技術として燃焼で生じる煤煙の効果も研究されてきたが、煙の粒子サイズでは[[可視光線]]はよく吸収するが赤外線はあまり吸収せず、放射冷却を抑える効果は乏しいとされる{{R|Richard-7}}。
 
放射冷却が霧を生じさせることがある一方で、ひとたび霧が発生すると、雲と同様に赤外放射を吸収する効果のため、霧の下の放射冷却は弱められる{{R|Richard-7}}。
 
== 技術的応用 ==
{{Main|en:Passive daytime radiative cooling}}
日射および大気放射を反射し、かつ大気による再吸収が少ない[[大気の窓]]波長の赤外線を選択的に放射する素材の研究が行われている。このような技術はpassive daytime radiative cooling(PDRC)などと呼ばれ、日中でも放射冷却が働いて、周囲よりも温度が低く冷却効果をもち、[[省エネルギー]]につながる。なお、水蒸気量が少ない乾燥時ほど、また大気の窓が顕著になる標高が高いところほど、このような素材の放射冷却効果は高くなると報告されている<ref>{{Cite journal|和書|author1=須一貴啓 |author2=石川篤 |author3=林靖彦 |author4=鶴田健二 |title=温暖湿潤気候における日中放射冷却デバイスの性能限界 |publisher=応用物理学会 |journal=応用物理学会学術講演会講演予稿集 |volume=65 |year=2018 |month=03 |doi=10.11470/jsapmeeting.2018.1.0_1227 }}</ref><ref>{{Cite journal|和書|author1=末光真大 |author2=齋藤禎 |title=直射日光下で周辺気温より低温となる受動的放射冷却材料の実現 |publisher=応用物理学会 |journal=応用物理学会学術講演会講演予稿集 |volume=80 |year=2019 |doi=10.11470/jsapmeeting.2019.2.0_1034 }}</ref>。
 
== 出典脚注 ==
{{Reflist|3}}
 
== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書|editor=[[日本気象学会]] |title=気象科学事典 |publisher=東京書籍 |year=1998 |month=10 |isbn=4-487-73137-2 |ref={{SfnRef|気象科学事典}}}}
* {{Cite book|和書|editor=[[NHK放送文化研究所]] |title=NHK気象・災害ハンドブック |publisher=日本放送出版協会 |year=2005 |month=11 |isbn=4-14-011215-8 |ref={{SfnRef|NHK放送文化研究所}}}}
* {{Cite journal|和書|author=近藤純正 |title=放射冷却―最低気温,結氷,夜露― |url=https://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2011/2011_06_0075.pdf |format=pdf |publisher=日本気象学会 |journal=天気 |series=気象のABC No.2 |volume=58 |issue=6 |year=2011 |month=06 |pages=555-556 |crid=1520009407441313920 |ref={{SfnRef|近藤|2011}}}}
* {{Cite book|author=Richard L Snyder |author2=J. Paulo de Melo-Abreu |year=2005 |series=Environment and Natural Resources Series, 10 |title=Frost Protection: fundamentals, practice, and economics Volume 1 |url=https://www.fao.org/4/y7223e/y7223e00.htm#Contents |publisher=Food and Agriculture Organization of the United Nations([[国際連合食糧農業機関]]) |language=en |isbn=978-9251053287 |oclc=62170700 |issn=1684-8241 |ref=Richard and J. Paulo (2005) }}
* {{Cite web|title=radiational cooling |url=https://glossary.ametsoc.org/wiki/Radiational_cooling |work=Glossary of Meteorology(気象学用語集) |publisher=American Meteorological Society(AMS, [[アメリカ気象学会]]) |language=en |date=2024-03-27 |access-date=2024-06-10 |ref=ams1}}
* {{Cite kotobank|word=熱放射 |hash=-111438#w-1575283 |encyclopedia=小学館『[[日本大百科全書]]』(ニッポニカ) |author=[[小出昭一郎]] |access-date=2024-06-10 |ref=小出 }}
* {{Cite kotobank|word=放射冷却 |hash=-132098#w-1591745 |encyclopedia=小学館『日本大百科全書』(ニッポニカ) |author=[[松野太郎]] |access-date=2024-06-18 |ref=松野 }}
* {{Cite kotobank|word=放射冷却 |hash=-132098#w-184707 |encyclopedia=朝日新聞出版『[[知恵蔵]]』 |author=[[饒村曜]]、[[宮澤清治]] |access-date=2024-06-18 |ref=饒村・宮澤 }}
 
== 関連項目 ==
* [[熱放射]]、[[伝熱]]
* [[霧]]、[[霜]]
 
{{DEFAULTSORT:ほうしやれいきやく}}