前提(ぜんてい)とは、ある物事が成り立つためにあらかじめ満たされていなければならない条件のことをいう。論理学言語学では、いくつか異なった文脈で用いられる。

論理学における前提

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前提 (premise) とは、推論の出発点となる命題のことをいい、結論の対義語である。アリストテレス三段論法では、大前提 (major premise) に一般的な原理、小前提 (minor premise) に個別の事実を置き、そこから新たに導出される命題を結論と呼ぶ。

大前提:すべての人間は死すべきものである。
小前提:ソクラテスは人間である。
結論:ゆえにソクラテスは死すべきものである。

言語学における前提

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 (presupposition)  (premise) 







禿

禿

P ¬P QQP





 (entail) 

 (defeasible) 

前提トリガー

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 (presupposition trigger) [1]


禿






















調













前提投射

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「うちの息子は優秀だ」は「うちには息子がいる」を前提とするが、「彼はうちの息子が優秀だと思っている」はそうではない(実際には息子はいないにもかかわらず、彼が勘違いしているという解釈が可能である)。このように、ある文がより複雑な文に埋め込まれたときに、前提が全体に引き継がれるかどうかという問題は前提投射 (presupposition projection) の問題と呼ばれ、そのメカニズムの解明が精力的に行われている。

ローリ・カートゥネン[2]は、複文の中に埋め込んでも前提がそのまま引き継がれるような表現を穴 (hole) と呼んだ。たとえば「〜を後悔している」のような叙実動詞がこれにあたる。また、前提が引き継がれない表現を栓 (plug) と呼んだ。「〜と述べる」のような発話動詞がこれに該当する。さらに、条件文や接続語は前提が引き継がれる場合とそうでない場合とがあり、このような表現をフィルター (filter) と呼んだ。

前提調節

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前提は基本的には発話がなされる前に話し手と聞き手のあいだに共有されていけなければならないものであるが、実際には必ずしもそうではない。たとえば「遅れてごめん、娘が熱を出してしまって」という発話は「話し手に娘がいる」という命題を前提にしているが、聞き手は仮にこの前提を知らなかったとしても、前提をその場で受け入れて、違和感なく発話を理解することができる。この現象を前提調節 (presupposition accommodation) という。

ソール・クリプキ[3]は前提には調節の可能なものと、そうでないものの2種類があることを指摘している。調節を許さない前提トリガーには「〜も」などがある。

太郎もいい成績だったよ。

このような表現は、太郎以外の誰かがいい成績であったということが、話し手・聞き手双方にとって先行文脈から明らかである時にしか用いられない。このように調節を許さない前提トリガーは照応的 (anaphoric) と呼ばれる。

  1. ^ Stephen C. Levinson. Pragmatics. 1983. (安井稔奥田夏子訳『英語語用論』研究社出版、1990年)
  2. ^ Karttunen, Lauri. (1973) “Presuppositions of compound sentences.”Linguistic Inquiry 4: 169-193.
  3. ^ Kripke, Saul 1990, 'Presupposition and Anaphora: Remarks on the Formulation of the Projection Problem', manuscript, Princeton University.

参考文献

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関連項目

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外部リンク

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