HDCD (High Definition Compatible Digital)は、ディザ技術・非直線量子化技術および隠しコード化技術を用いて、20 – 24bit音源を自然な音質で、なおかつ聴感上のノイズを低下させつつ音量感を伴う音で16bit化し聴取するしくみである。あくまでも16bitのままで音質を改善するためのディザノイズリダクション技術セットであり、16bitのデータと隠しコードから20 – 24bitのデータを復元する技術ではない。

特徴

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A/D HDCDCDHDCDHDCDHDCDHDCD16bitHDCD調

HDCDPeakExtensionLowLevelExtend

HDCD1986  1991HDCDModel1HDCDPMD100HDCDCDRR-S3CD19941996

基本機能

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音源を自然な音質で収録・再生するために量子化雑音の分布が平坦となる回路を採用していることが特徴で、内蔵A/D変換回路には4倍オーバーサンプリング20bit逐次比較型が用いられ、16bitに丸める際には高域集中ディザが用いられる。A/D変換器はマルチビット逐次比較型を採用することでノイズフロアの平坦性を確保し、自然な音色で記録できる。HDCDエンコーダーには外部A/D変換ユニットのデジタル信号も入力可能なためノイズシェーピングを用いたデータもHDCDエンコードすることはできるので、HDCD盤であれば必ずノイズフロアが平坦であるとは限らない。⊿Σ型A/D変換器を用いて収録した音源でもノイズフロアが平坦な場合もあるので、HDCDエンコーダー内蔵逐次比較型A/D変換回路を使わねばならない訳ではない。

ダイナミック フィルタ プロセスと呼ばれる可変LPF技術は、リアルタイムに音楽成分のスペクトラムを観測し、高域エネルギー成分の有無によって、A/D変換回路の折り返しノイズ防止用プリフィルターを可変することで常時高次LPFが挿入されることによる特性劣化を防ぐためのしくみである。現在では一般的な、高速標本化で得た低bit信号の量子化雑音の分布を⊿Σ変調器を用いて整形するA/D変換回路とは異なり、4倍オーバーサンプリング20bit逐次比較型A/D変換回路を用いているが、この機能によって低速標本化A/D変換回路における高次LPF挿入の弱点を克服している。高速標本化⊿Σ型A/D変換回路を使用する場合には、ダイナミック フィルタ プロセスは働かない。

24 – 20bit音楽信号をCDフォーマットの16bitに丸める際に高域集中ディザを採用することによってグラニュラーディストーションを回避しつつ聴感S/Nを確保する。 HDCDエンコード音源の量子化雑音分布をみると、16kHzまでは平坦なノイズフロアとなっていることが判る。16kHz以上の帯域は人間の耳には感度が低いので気付かないが、高域集中ディザが記録されているのでノイズフロアが上昇している。 ディザを用いて16bitに語長が丸められたデータはデコーダーが無くとも一般のCDプレーヤーで再生可能なので、汎用性・互換性の高いシステムと紹介されることが多い。「減算型ディザ A/D 変換」と紹介している場合があるが、16kHz以上の帯域に発生させた高域ノイズはCD盤上に記録され、D/A変換回路で再生されるので、ここでいう高域集中ディザはA/D変換回路内で用いられるディザではなく、あくまでも20bit〜24bit音源を16bitに丸める際の高域集中ディザのことである。しばしば16bitへの語長丸めについて、「CD でのエンコードに 4 ビット分をプラスする」という説明を行っている場合が散見されるが、これは誤りである。HDCDプロセスで用いられるのはあくまでもディザであり、20bit語長を16bitに丸める仕組みなので4bit分をプラスする訳ではない。

HDCD判別信号の隠しコードをデータ内に埋め込む技術によってHDCD盤と通常CDを判別する機能を有している。 「HDCDは16bitの中の1bitに20bitや24bitのデータを記録再生する」、という記述も散見されるが、これは誤りである。「20bitの情報を圧縮して16bitに置き換え、再生時に再び20bitに近い形に戻す」、という説明も見られるが、これも誤りである。16bit以上の符号を非直線量子化などにより16bit中の1bitに記録している訳ではない。16bit以上のダイナミックレンジを記録再生できるというのは、高域集中ディザを用いて20bitや24bitのハイビットPCMデータを16bitに語長丸めを行なうという仕組みを指す。16bitデータに記録されているのはHDCD判別符号であるが、この隠しコード記録方法を16bit以上のハイビット分解能データを記録していると誤解されることが多い。また、この判別符号は常時記録再生されているわけではなく間欠的に記録されている。この「ハイビット音源を16bitに丸める」、という部分はソニーが行っているSBM(スーパービットマッピング)やロンドン・デッカが行っているPONS(サイコアコースティカリー・オプチマム・ノイズシェーピング)と同様なプロセスであるが、SBMやPONSはノイズシェーピングを用いて、人間の聴覚が敏感な帯域の量子化ノイズフロア形状を窪ませているのに対して、HDCDの高域集中ディザは16kHzまでは平坦であるというところが異なる。

オプション機能

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HDCD



0 dB+ 9dBCDHDCDHDCDCDHDCDCDCDHDCDCD



HDCD

エンコーダーの基本構成

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HDCDA/DHDCDD/A3

A/Dbit20bitHDCD24bitA/D使HDCD44.1kHzModel188.2kHz96kHzModel22

過去行われてきた急峻なLPFが必要とされる低速標本化A/D変換回路の改善方法

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PCMPCMA/DLPF

Apogee244GLPF使244SA/DLPF244GGS

HDCDプロセス

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A/D変換

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まず、アナログ信号は、4倍オーバーサンプリング・マルチビット逐次比較型A/D変換回路で20bit176.4kHzでデジタル符号化される。 その後標本化周波数は1/2の88.2kHzに間引かれた後で1/4の44.1kHzにデシメーションされる。デシメーション回路ICは20bitだが、インターフェースは24bitに対応している。

現在主流の⊿∑変調器を用いた高速標本化低bitA/D変換回路に比較するとノイズフロアが平坦なので、どのようなパワースペクトル密度を有する楽曲でも“キャラクター”が付くことなく自然な音質で収録できるという利点がある。しかし、4倍という低速な標本化周波数であるためにLPFは急峻な減衰特性を要求されるという弱点があるが、この課題に関してHDCDはLPF次数を可変させる回路で対処した。常時入力信号の高域特性を監視し、高域信号が弱い場合にはLPF次数を短くし、減衰特性は比較的緩やかな特性とする。パルシブな信号が入力された時は急峻なLPFが挿入される。コンサートホールで収録するクラシック音楽などでは、元々のアナログ信号の高域エネルギーは小さいので、常時急峻なフィルターを挿入する必要は無いと考えた訳である。

HDCDエンコード

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CDHDCDA/D20bit16bitHDCD16kHzA/D16kHz

+9 dBHDCDD/AHDCDD/A+9 dBS/N   6 db HDCD6 dB/1bit使CD4HDCDCD16bit

HDCDHDCD16bit

HDCDCD44.1kHz16bit調

HDCD音源の編集およびマスタリング・HDCD盤のプレス製造

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HDCD音源を編集する場合、調整卓のフェーダーやエフェクト機能を用いるとHDCD音源に埋め込まれたHDCD判別用隠しコードが離散してしまう。このような編集を行った音源をCD盤としてプレスし再生した場合、HDCD判別用インジケーターが点滅したり点灯しなくなったりする。HDCD音源を編集した場合には、再度、そのデータをHDCDエンコーダーに入力し、隠しコマンドを打ち込まなければならない。

HDCDデコーダー内蔵デジタルフィルター

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HDCDデコーダーはD/A変換ユニット内部のオーバーサンプリングデジタルフィルター回路に内蔵されている。 初期のHDCDデコーダー内蔵デジタルフィルターは、パシフィックマイクロソニックス社製PMD-100が供給され、米国マークレビンソン社を始めとする高級CDプレーヤーD/A変換ユニットに搭載されていた。(PMD100の日本での代理店は高千穂交易) また、1999年にバーブラウン社からD/A変換回路も内蔵し、96kHz24bitハイビットハイサンプリングに対応したDAC-ICも発売されたが、このPCM1732は⊿Σ変調回路を用いたD/A変換部を搭載しており、基本クロックの設定によっては通過帯域内のノイズフロアが平坦ではなくなるという使いこなし上の課題を有した。 数年後、モトローラ社製DSP56300をベースにハイビットハイサンプリングに対応したHDCD単体デジタルフィルターPMD200が発売されたが、この時期にモトローラ社の半導体DSP事業はオン・セミコンダクター社へ事業譲渡され、パシフィックマイクロソニックス社のHDCD関連事業もマイクロソフト社へ身売りしてしまったのでPMD200はごく一部のメーカーが採用したに留まった。その後、アナログデバイセス社製SharcDSPにHDCDデコード回路が搭載され、今日に至る。

HDCD盤(コンパクトディスク)およびHDCD音源(wavefile)の再生とデコード

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本来、HDCD対応機器はパシフィックマイクロソニックス社のライセンスを受けて製造されるが、一部メーカーは独自ルートでPMD100を入手し製品に搭載していた。この欧州メーカーの製品ではライセンス上義務づけられていたHDCDロゴ記載やHDCDインジケーターは無く、デジタルインターフェースレシーバーICであるクリスタルセミコンダクターズ社製CS8412の後ろにアナログデバイセズ社製ASRC非同期サンプリングコンバーターであるAD1890を設け、クロックを打ち直していた。AD1890の出力をPMD100に入力していたために、HDCD隠しコマンドを検出することが出来ずにピークエクステンションやローレベルエクステンションなどのHDCD特有の機能が動作しておらず、単なる8倍オーバーサンプリングデジタルフィルターとして機能していた。HDCD判別信号は元の16bit音源の中に隠しコマンドとして記録されているために、fs変換回路を通過した際に隠しコマンドが消失してしまったわけである。 また、当時発売されていたCD-Rレコーダー/プレーヤーの中には、常時fs変換回路が動作していたモデルもあったために、このメーカーのCD-RでHDCD盤をコピーするとHDCD判別信号が消滅してしまうということもあった。 この点では最近普及しているパソコンへのリッピング再生に於いても同様な問題がある。HDCDエンコードされたCDの44.1kHz16bit符号をリッピングし、そのデジタル音楽信号をパソコンのサウンドカード上のデジタル端子から出力し、外部D/A変換ユニットで再生する場合、パソコンがバイナリー一致でなければHDCD判別信号は消失する。

その他

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HDCDHDCDCD

HDCDHDCDCD HDCD0 dBCDHDCDCD調 HDCDCD-6 dB

HDCDD/A2 便CD-6 dBHDCDD/A-6 dB HDCDICPMD100PMD200DSPHDCDNo.30.5L HDCDICHDCD/CDHDCDIC-1 dB CD CDJASCDJAS CD-1NPCSM5842D/APMIPMD100 HDCDIC-1 dBCDD/A

MODEL1MODEL2HDCDHDCDHDCD A/DHDCD HDCDHDCD

HDCDHDCD

Windows PCでのHDCDデコード

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HDCD CDMicrosoft Windows XP9 Windows Media Player DACHDCDD/AHDCD2010HDCD

Windows Media PlayerHDCD16bitWAVE24bit24bit24bit16bitD/A

Windows Media PlayerHDCD

2010Windows PCHDCDfoobar2000HDCDWaveFLACWavPackHDCDHDCDHDCD
  • もともとWindowsでは、hdcd.exeというソフトウェアHDCDデコーダ(CUIアプリケーション)が存在し、リッピングされたWaveファイルにHDCDコードが埋め込まれているかの判定や、HDCDデコードを施した24bit Waveファイルの出力を行うことができる。前述のfoobar2000のコンポーネントもhdcd.exeの実装を流用している。

他の24bit→16bit丸め技術の近況

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HDCD は24bitを16bitに丸める際に高域集中ディザを用いていたが、Apogee社のUV22もほぼ同様の高域集中ディザによって量子化語長を丸めている。

関連項目

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外部リンク

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