特別リポート:アジアに迫るISの魔手、比ミンダナオ島の衝撃

Tom Allard
[マラウィ市(フィリピン) 3日 ロイター] - フィリピン南部ミンダナオ島のマラウィ市で先月から続いている戦闘の発端は、数十名のイスラム主義武装勢力が刑務所を襲撃し、警備員らを降伏させたことだった。
「キリスト教徒を引き渡せ、と彼らは言った」。現地の刑務局の副局長を務めるファリダ・P・アリ氏はその時の様子を語る。「刑務所職員にキリスト教徒は1人しかいなかったため、気づかれないように彼を服役者のなかに紛れ込ませた」
「戦闘員が服役者たちを解放したため、その職員も逃れられた」とアリ氏は言う。
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今回の事件は、ISを支持するさまざまなグループ勢力を糾合してマラウィを占拠するという高度な作戦だったという証拠が集まりつつある、と東南アジア諸国で国防などを担当する政府当局者はロイターに語った。
「何も手を打たなければ、彼らはこの地域に拠点を築く」とフィリピンの隣国マレーシアのヒシャムディン・フセイン国防相は語る。
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海賊が跋扈(ばっこ)するほぼ無法地帯の水域を経由して、マレーシアやインドネシアなどの国から戦闘員がミンダナオ島に流入することを防ぐのは、各国政府にとって至難の業だ。
<司令官を解任>
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フィリピン国防軍は今回の襲撃に不意を突かれた格好であり、マラウィ市奪還に苦戦している。3日時点では、まだ抵抗拠点の掃討に手こずっている。
また、マラウィに駐留する陸軍旅団の司令官ニクソン・フォルテス陸軍准将が5日、解任された。
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攻撃発生のほんの数カ月前には、誘拐で知られる悪名高いイスラム主義武装組織「アブサヤフ」(「剣の父」の意)を長年率いてきたイスニロン・ハピロンの山岳拠点を治安部隊が攻撃したばかりだった。
イスニロン・ハピロンは2014年にISへの忠誠を誓い、他の組織をすばやくまとめ上げた。そのなかでも最も重要な存在が、マラウィの名家の出身であるオマル・マウテとアブドゥラ・マウテの兄弟が率いるマウテグループだった。
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フィリピン軍によれば、ハピロンは軍による襲撃のなかで負傷した可能性が高いが、何とかマラウィに逃れ、そこでマウテ・グループと合流したという。
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<山岳拠点>
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イスラム教の断食月ラマダンが開始する4日前の先月23日、彼らは攻撃を開始した。このときフィリピン軍部隊はマラウィ市内でハピロン逮捕を試みたが断念している。
フィリピン軍が武装した護衛団に阻まれて撤退した後、50口径の機関銃を搭載したトラックに分乗し、携行式ロケット弾と高性能ライフルで武装した約400人の戦闘員が素早く市内に展開した。
数時間のうちに彼らは刑務所と近隣の警察署を攻撃し、武器弾薬を奪った、と住民は証言する。
プロテスタント系の教育機関であるダンサラン・カレッジとカトリック系の大聖堂は破壊され、1人の神父と十数人の教区民が拘束された。彼らは今も人質になっている。
シーア派のモスクも破壊され、スペインの支配に抵抗して蜂起したフィリピンの英雄ホセ・リサールの銅像も頭部を切り落とされた。
<屋根の上に狙撃手>
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軍はヘリコプターを投入して武装勢力の拠点にロケット弾を発射し、地上部隊が主要な橋梁やビルを奪回しはじめた。だが一部の住民によれば、この反撃によって民間人も犠牲となったという。
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「爆弾が爆発して、多くの人々が亡くなった」と彼女は語り、ムスリムの聖職者や子どもも犠牲となった、と付け加えた。
軍の当局者はこの件についての報告は受けていないと語った。ロイターも独自の確認は取れなかった。
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<「殺されると予想」>
隣国インドネシアの当局者は、フィリピンが短期間でマラウィの奪還に成功したとしても、依然として大きな脅威にさらされるだろうと憂慮する。
「武装勢力がこちらに来るのではないかと心配している」とインドネシアのテロ対策当局者は語り、ミンダナオ島がインドネシアのスラウェシ島からさほど離れていない点を指摘する。
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頭部を撃たれた8人の労働者の遺体が先月28日、マラウィ市外の渓谷で発見された。警察によれば、市内から脱出しようとして武装勢力に阻止された人々だという。
軍によれば、マラウィ奪還には、さらに民間人の犠牲者が出る可能性が高いという。
「人々は飢え、傷つき、殺されるだろうと予想している」と軍広報官のヘレラ中佐は言う。「この種の作戦では、巻き添え被害を100%防ぐことは不可能だ」
(翻訳:エァクレーレン)

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