kakeruの読者には、実際のところ“クリエイター”はどれくらいいるだろうか。
近年においては、クリエイターがSNSで作品やその制作プロセスの話、それに込めた想い、そして作品以外のことでもさまざまな気持ちを楽しそうに、軽やかに吐き出しているのを見かける。私自身はそこに明らかに出遅れたデザイナーである。タイムラインでの楽しげな発信や交流を見て焦り、スマホを手にしたままぼんやりとしてしまったり、投稿をあげたはいいが、思い立って消してしまったりすることもこれまでに何度もあった。
そういう中で先日、れもんらいふの代表、アートディレクター千原徹也氏のnoteのリンクがタイムラインで流れてきた。
ラフォーレの問題から思う事|千原徹也|note
当時、ラフォーレ原宿の広告に対していわゆる﹁パクリ騒動﹂がTwitterを中心に巻きおこり、それを通して千原氏が旧態然とした広告・デザイン業界に反旗を翻す声をあげたnoteの投稿であった。
書かれている強い意見の表明も印象深く、広告の世界にいた自分にはもちろん惹かれるものがあったが、それ以上にタイムライン上でさまざまなクリエイターがその投稿へのリンクを貼り、自分自身の意見を表明し、一石を投じる発信に対して反応を返していることに強く興味を惹かれた。それまで今回のような“古くからの”広告・デザインの世界の人間の発信に、SNSでさまざまな反応が巻きおこる状態を見たことがなかったからだ。
そして千原氏に話を聞きに行こうと思いたち、すぐにアポイントメントを取りつけて、こうして言葉にしたものが今回の記事である。広告・デザイン業界だけでなく、SNSで発信することを難しいと感じているさまざまな人に、読んでいただきたいと思います。
千原徹也プロフィール
1975年京都府生まれ。
広告、ブランディング、CDジャケット、装丁、雑誌エディトリアル、映像など、デザインする
ジャンルは様々。
H&M GOLDEN PASSキャンペーン、﹁Onitsuka Tiger×Street fighter V﹂ディレクション、
adidas Originals店舗ブランディング、久保田利伸 ﹁Beautiful People﹂、桑田佳祐 ﹁がらく
た﹂、関ジャニ∞ アルバム﹁ジャム﹂、吉澤嘉代子MV&ジャケットデザイン、ウンナナクール
のクリエティブディレクター。その他にも、アートマガジン﹁HYPER CHEESE﹂、﹁勝手に
サザンDAY﹂企画主催、J-WAVEパーソナリティ、れもんらいふデザイン塾の主催、東京応援
ロゴ﹁KISS,TOKYO﹂プロジェクトなど、活動は多岐に渡る。れもんらいふ
Twitter
Instagram
Youtubeチャンネル CHITUBE
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千原‥だからもっとデザインのことをPRしたほうがいいと思う。で、デザインのことを深く世の中のみんながわかってくれて、理解してもらえてたら、東京オリンピックのロゴの︵﹁パクリ騒動﹂の︶ときも、あんなことにはならなかったと思う。
──あの時、佐野研二郎さん︵※1︶が、こういうコンセプトでこう考えてこのロゴを作りましたということを記者会見でお話されていて、アートディレクターやデザイナーがプロセスをああいう公の場で話すのを初めて見て感動したんですが、記者会見の後の世の中の反応は真逆でしたね。
︵※1︶アートディレクター。騒動のきっかけとなった東京オリンピックのロゴ・エンブレムをデザイン。オリジナリティの有無が物議を醸し、後に使用が中止になった。
千原‥あれはいろいろ負の状況が重なっていったのでね。僕は佐野さんがみんなの前でプレゼンテーションしてこんな意図があるんだよって、提案をしたのはすごくよかったと思っているんですよ。
──よかったですよね。
千原‥でも、それを普段から世の中に知らしめていないから、ちょっと似ているだけでパクリだって言われるんです。この間のラフォーレ原宿の問題にしても、広告やってる人はコンセプトがあってこうなっているって言えるけど、一般の人に︵広告での︶物事の考え方を、今までPRしてないから。だから消費者の気持ちをわかってないんだよね。今まで接点持ってこなかったくせに、いきなりオリンピックのロゴ作りやがってみたいな感じじゃない?
──そうですね、距離がありますよね。
千原‥そう、距離があるよね。そういう距離を縮める努力をデザイン業界自体がしっかりやってかなきゃいけないんじゃないかな。そういう時期に来ていると思いますよ。途中経過を見せるのもかっこ悪いと思っていると思うんですよね、デザインやってる人って。作品で勝負しなさいみたいな。時代が止まってるんだよ、もう世の中変わってまっせっていう話なんだけど。
──でも、ということは新しい世代も全然育っていない、ということですよね。
千原‥もちろん必死に頑張ってる人もいますが、広い意味では、育ってない。若い人は興味もない人が多い。
──今、SNSで名前が出てきているような人たちや世代は、また新しい流れのクリエイティブを作っている人として存在していると思うんですけど、業界が2つにわかれてしまっているということなんですかね。
千原‥そうかもね。僕も最初に言われたのは、ADC︵※2︶とかほっときゃいいじゃんって。あんなこと言わなくてもって。千原くん独自の考えで、いろんなツール拡げて、自分でどんどんやってるんだから、いいじゃんって言われて。
でもそれが今のところ、日本のデザインの最高権威であるってことが危険だなって思っているんで。やるなら全然違う団体を作って、もっといろんな角度から検証できるような団体と、PRがすごく上手な団体と作るとか、それか現状の体制や組織をもっとちゃんとしていくってことをするかしないと、︵デザイン業界の︶ギャラもあがんないし︵笑︶
︵※2︶東京アートディレクターズクラブ。アートディレクターを中心に、フィルムディレクター、クリエイティブディレクター、コピーライターなどで構成される。会員数79名︵2019年4月現在︶。広告賞として年鑑作品審査会が5月に行われ、東京ADC全会員が審査員となり、ポスター、新聞、雑誌、テレビ、ウェブなど多種のジャンルの中から、ADC賞、その年度の優れた広告、デザイン作品を選出。ADC
──むしろ落ちていく︵笑︶
千原‥やっすいよね、デザインのギャラ。もうちょっと権威あったんじゃないのって気がするけどね。
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──自分なりのSNSとの向き合い方として、発信しながらSNSとの距離感みたいなものを掴んでいくことが大事なんですかね?
千原‥うん。やったほうがいいと思いますよ、みんな。
──試しにやってみるっていう。
千原‥やって炎上したりしたほうがいいと思う。
──炎上してくれたらいいんですけど、全く反応ないのがこわいっていう。
千原‥あまりにもそこに対する距離がデザインは特にあるから、デザイナーの人はみんなやったほうがいいかなって思うんだけど。そしたらもっと世の中が見えると思うんだよね。
──それと、Twitterはクリエイティブ業界にいる人のポジティブなつぶやきがウケる傾向があると思っていて。そこに疲れてしまうことはあるかもしれませんね。
千原‥あーわかりますわかります。でもそれも商業の気持ちでやってるっていうよりは、個人の気持ちでやってないとバズらないじゃない?商業感出るとだめでしょう?
──そうですね。告知みたいなのって全然反応がないですもんね。
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千原‥だから僕はそういうのをいろいろ試しながら、SNSもラジオもテレビに出るとかも、全部同じ感覚ではあります。それをやって、デザインをやっぱり間口を拡げて、市民権を得るっていう作業をやっていかなきゃいけないなと思って。デザインって、もっと楽しいよって思ってもらわないと。
──デザイナーって、楽しんだぜって。
千原‥この間のnoteでのラフォーレ原宿の問題の話で言うと、今までは作品でしっかり見せて、作品について語ることはあっても、世の中の動きとかそういうことに対して語るつもりは全くなかったんだけど、そんなこと言える器でもないしなとか思いながら、1回書いてみようと思ったの、この間は。叩かれるっていうのもそれはそれでいいかなとか思いながら、テストしてみた感じなんですよね。
──叩かれてもいいっていう感覚ですか。
千原‥そしたら思った以上に反響がでかくて、びっくりして、第一印象的には、グラフィックデザインとかMVとか、仕事でいっぱい作ってるのに、あんなのより言葉って強いんだなっていう。結局いろんなデザインを一生懸命作ったり、広告でバズらせようとか思っても大してバズらないんだけど︵笑︶ああいう世の中におきているような︵ことに対して︶強めの言葉を言うと、なんの表現より言葉って一番強いんだなっていうのは感じて、こわさも感じました。知らない間に傷つける可能性も高いんだなって、だからこわーと思いました。
──傷つけるのはこわいです。
千原‥でも実験してよかったなと思います。そのこわさも知ったし。あと意外と僕が思っていた内容に対しては9割ぐらいの人が肯定したから、それも大丈夫? と思えたけどね、世の中って感じで︵笑︶みんなの考えていることってこういうことなんだなっていうのは一回書くといろいろ知れたし、面白かったですけど。だからたまーに書いてみようかなと思って。
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取材中に﹁デビューするんですよ︵笑︶﹂と見せてくれた︵※5︶の7インチのレコードジャケット。女の子のアンダーウェアやパジャマを扱うブランド﹁une nana cool︵ウンナナクール︶﹂の店内で流れるとのこと。ジャケットのイラストは香港のイラストレーター リトルサンダー︵︶、タイトル文字は“やっと探し当てた”染谷淳一さん。2月27日に渋谷パルコ10FComMunEで、デビューイベントを開催予定。
︵※5︶KISS,TOKYO RECORDS
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「炎上したっていいじゃない。」クリエイターが世の中に語りかけること。| アートディレクター千原徹也(株式会社れもんらいふ 代表)
2020 2.20