改訂新版 世界大百科事典 「吾妻与次兵衛物」の意味・わかりやすい解説
吾妻与次兵衛物 (あづまよじべえもの)
人形浄瑠璃,歌舞伎の一系統。1704年︵宝永1︶の︽落葉集︾巻四の︿山崎与次兵衛踊﹀を主人公とした一連の作品群。人形浄瑠璃に脚色したのは,18年︵享保3︶1月︽山崎与次兵衛寿︵ねびき︶の門松︾︵近松門左衛門作︶に始まり,25年1月︽昔米万石通︵むかしごめまんごくどおし︶︾︵西沢一風・田中千柳合作︶,49年︵寛延2︶7月︽双蝶々曲輪日記︵ふたつちようちようくるわにつき︶︾︵竹田出雲・三好松洛・並木千柳合作︶などがそれである。全盛の遊女藤屋吾妻を,山崎浄閑の息子山崎与次兵衛が身請︵みうけ︶したことから始まるが,享保のころの力士,濡髪長五郎,放駒長吉をからませ,与次兵衛を与五郎と改め,︽寿の門松︾に登場する難波屋与平が変化した南︵なん︶与兵衛,その愛人お早なども多く活躍する。︽曲輪日記︾系が中心になり,歌舞伎に数多くの書替狂言が作られた。清元の舞踊︽嫁菜摘︾は,1823年︵文政6︶正月江戸森田座の︽初夢曾我宝入船︾におけるお早・与兵衛の道行に使われたもの。4世鶴屋南北には,08年︵文化5︶正月江戸市村座の︽春商恋山崎︵はるあきないこいのやまざき︶︾,10年8月市村座の︽当龝八幡祭︵できあきやわたまつり︶︾など,この系統の作が多く,16年8月江戸河原崎座の︽染替蝶桔梗︵そめかえてちようにききよう︶︾のような︽太功記︾とからませたものまである。
執筆者‥向井 芳樹
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報