﹁俺が大空の覇者だ!﹂
ここ数日、関東ではやたら夜が涼しくなり、センチメンタルな秋の気配。秋の虫といえば、鈴虫などの鳴く虫とあわせて、田んぼに群れて飛ぶトンボなどを思い出す方も多いのでは?わたしも小さいころ、ドブ川の土手で大量の赤トンボを口を開けて見ていたものです。
2012年度特別展 ﹁大空の覇者-大トンボ展﹂ - 神奈川県立生命の星・地球博物館
今年の7月14日から11月4日にかけて、小田原にある神奈川県立生命の星・地球博物館では﹁大空の覇者 - 大トンボ展﹂という特別展を開催しています。この夏、展示とトンボ撮影会に参加し、それまで特別に意識したことがなかったトンボの魅力にちょっと触れることができました。
ビオトープでトンボと向き合う、真夏のトンボ撮影講座
そんなわけで、去る8月19日、尾園さんが講師をされるトンボ生態写真撮影入門に行ってきました。集合場所でまず諸注意をうけます。﹁熱射病にはくれぐれも気をつけること︵交通機関の関係上、かなり暑い時間帯になってしまったそう︶﹂﹁野外で昆虫観察する際、いちばん怖いのはハチ。スズメバチよりアシナガバチの毒で、毎年多くの人が亡くなってます﹂とのこと。尾園さんの腕でハチの毒を吸い出すポイズンリムーバーを実演されているのは、神奈川県博の苅部さん。トンボ保全の第一人者だそうです。
この日は水族館にお勤めの、ゲンゴロウを愛するHさん︵こちらの日記にお会いしたときのことを書いてます︶、そして美しい水族館写真で知られるてつるぐらふのてつるさんも参加されていて、個人的にオフ会っぽい一日であった!
小田急線の新松田にあるアサヒビール神奈川工場。苅部さんらが造成に関わられたというビオトープガーデンが、今回の撮影会場です。池に降りていくにあたって、猫に気をとられるてつるさんとわたし…
むっとする夏の熱気。
説明が始まる前から、見慣れない黄色の鮮やかなイトトンボに視線は釘づけ。キイトトンボといって、神奈川では最近減少著しいトンボだそうです。ちょっと見まわしただけで水面を複数種のトンボが飛び交っている。これは期待できそう!
最初に、苅部さんによるビオトープ造成のエピソードなど。アメリカザリガニは身近な存在すぎて、一般人にとって駆除の対象とは考えにくいのですが、ビオトープにとっては非常に厄介者。水を抜いて駆除しなければならないのだそうです。植生などに心を配って、数年かけて神奈川では有数のトンボ観察地になりました。そんな貴重な場所で、とにかくトンボを狙う!撮る!アドバイスを仰ぐ!﹁トンボの正面に入ると、意外と寄らせてくれますよ﹂とのアドバイスを胸に、今日はがんばろう…。ジマンじゃないが、オートフォーカスで押して撮るよりほかしたことないゼ!
ガマの穂がかわいいねー
オオシオカラトンボかな?
藍色の翅が美しいチョウトンボです。交尾写真が多いのは、交尾のときはじっとしてるから…
キイトトンボの顔はロボみたいだなあ、と思いながら撮っていると、通りがかった尾園さんが﹁キイトトンボ、すっごく貪婪なんですよ!﹂とどこか嬉しそうにコメント。
お尻をツンと上げて止まるショウジョウトンボ。
﹁水色と緑のあの大きなトンボ、すごく撮りたいけど速すぎて無理…﹂と思っていたら、木陰でお昼ご飯を食べているときにつかまえたギンヤンマを見せてもらえた!なんて上品でかっこいいカラーリングなんだ。お腹の青色が、トルコ石から刻みだしたかのようです。わたしはルリセンチコガネのようなピカピカした甲虫が好きなんですが、宝石度合いならトンボも負けていませんね。
﹁今度、天蚕︵ヤママユ︶を見に行くんですよ﹂という話をしていたら、近くの枝から繭を取っていただく。虫の先生と野外を歩くと、いかに自分が何も見ていないかがわかるね!この繭は寄生されていたのか、不穏な穴が開いております…。
ヤゴの大きさもいろいろだなあ。
さて、午後になったことだし、本気出したいところです!
メレ山﹁先生…飛んでいるやつを…撮りたいです…﹂
尾園さん﹁これはねー、もう慣れるしかないんですけど。カメラをAF+MFにして、水にかかっている草なりにピンを合わせて、トンボがフレームインしたら撮る﹂
メ﹁置きピンってやつですか…聞いたことあります…﹂
尾﹁ずっとファインダーを覗いてて、来た!ってなってももう遅いですよね。なので目はファインダーに合わせずに周囲を見張っていて、フレームしたところに向かってきたらー、撮る﹂
メ﹁そんなムチャな…右足が沈む前に左足を出すみたいな感じじゃないですか!﹂
メレ山﹁要するに反射神経ってことですよね!わたしにいちばん足りないものですよ!﹂
尾園さん﹁トンボもずっと不規則に飛んでいるわけじゃなくてホバリングしたり、縄張りを主張して同じところに何度も来たりしますからね。よく行動を観察してあきらめなければ撮れますよ!﹂
ヌーン、フレームインしてくるところを撮らないかんのに、これでは追いすがってるだけである…
﹁イイじゃんか、ちょっと付き合えよ﹂
﹁キャー﹂
足元でシオカラトンボがゴニョゴニョしはじめました。
﹁俺様も参加させろ!﹂﹁横から何しに来てんだコノヤロー﹂﹁ギャー!アンタらまとめて消えてよね!﹂
どうやらメスの個体数が少ないらしく、大変な状況になっている。メスとて子孫は残したいのだろうけどこれはツラい…。
やっぱり難しいけど、暑い中でトンボのことだけ考えるのは非常に無心になって楽しかった。
﹁ミギャー﹂
キイトトンボがクモの巣にからまっている。
キイト﹁これまでか…せめて辞世の句を詠ませてほしいでござる﹂
メレ山﹁ここに来てのまさかの武将キャラ…﹂
ナガコガネグモ﹁我の獲物を横取りとは不届きな奴。隠れ帯の錆にしてくれるワ﹂
メレ山﹁アンタもかい﹂
参加者にアドバイスしてまわる尾園さんを盗撮。撮影技術だけでなくトンボの生態についてもさりげなく語ってくださり、さすがです。
これはショウジョウトンボのメスかな?下腹部を水切りの石のように、水面に打ちながら産卵しています。トンボの産卵様式はバラエティに富んでいて、連結したまま産卵するもの、空中に卵をふりまくもの、ミヤマカワトンボのように潜水して産卵するものまで!トンボのオスも、コウビさせろ!と迫るだけでなく、産卵するメスのまわりを警護飛翔するものも多いらしい。
シオカラトンボのオス﹁こうして見ると他国の姫もなかなかでござる﹂
ショウジョウトンボのメス﹁ギャー!曲者!﹂
なにげなく並んだトンボを撮っていると…
一同﹁おお!﹂
メレ山﹁こういうこともあるんですね!﹂
尾園さん﹁縄張り意識は強いんですけど、これは下がオオシオカラトンボで上がシオカラトンボなんですよ。だからこんなに余裕こいていられるんでしょうね。同種ならこうはいかないでしょう﹂
メ﹁別種だと余裕ぶっこいちゃうっていうのも不思議ですね!﹂
オオシオカラトンボ﹁とはいえ、ええ加減にせーい!﹂
シオカラトンボ﹁ドヒャー﹂
尾園さん﹁本気のカメラ持ってくればよかった…﹂
そしてさらにこの後、トンボ先生たちを驚かせる事態が!
尾園さん﹁アレは…シオカラトンボの﹃♂型♀﹄!!!!!﹂
メレ山﹁ヘッ?﹂
たしかに、さっき見た黄色いメスとは違って、まるでオスが二匹で交尾してるみたいに見えますが…
雌雄で体色が違う種で、メスがオスの体色をそっくり擬態する﹁♂型♀﹂は、︵たぶん飛んでると普通のオスと見分けがつかないという意味でも︶珍しい個体らしい。産卵の際にオスの干渉を避けるために男のなりをしていると一般的に考えられているそうですが、まだわからないことが多いそう。
あれよあれよと騒いでいると、連結したまま湖面に移動。
連結を解いて、点々と産卵をはじめました。おお…本当にメスなんだねえ…と思っていると
オス型メス子﹁アギャー!!!!!﹂
Hさん﹁あれ、なんか動きがおかしいですよ。下のやつにかじられたかな﹂
メレ山﹁なにそれ!こわい!﹂
Hさん﹁さっき見えた頭の感じからすると、ヤンマ系のヤゴかな﹂
メレ山﹁︵数メートル離れてるのに水棲昆虫のプロすごい…︶トンボがヤゴにお尻をかじられるなんて…﹂
オス型メス子﹁はーなーしーてーーーー﹂
めいっぱいトリミングしてみると、たしかになんかの頭が見える。それにしてもホラー映画かよ!恐ろしすぎる…
ブブブーン
ギンヤンマ﹁おや〜?﹂
オス型メス子﹁はなし…て…﹂
メレ山﹁ギャー!上空からもギンヤンマが!﹂
もし水面下のヤゴがギンヤンマの子だとすると、上からも下からも…というこのうえなく不幸な状況!
ギンヤンマ﹁拙者もお相伴にあずかるでござるか﹂
オス型メス子﹁ヒィ〜﹂
ヤゴ﹁いかな父上といえども、拙者の飯に手をつけることは許せんでござる!﹂
尾園さん﹁ああ…貴重な♂型♀が…﹂
メレ山﹁ギャッ!尾園さんの本気カメラでっかい!﹂
いつのまにか、本気カメラを車に走って取ってきていた尾園さんでした。
その後、網で回収された♂型♀。しっかりお尻をかじられてました…。
メスとして生まれるとオスに粘着されておちおち卵も産めないので男装してみたりしたものの、産卵はやっぱり危険と隣り合わせ、お尻をかじられたり頭から乗られたり…女三界に家なしな状況はトンボ界のほうがヤバい!と確信しました。
ちなみにテントウムシ業界もブラックらしいので、来世何になりたいかは万一誰かが希望をとってくれる場合に備えて今から考えておきたい。いまのところはカラスが有力です。→テントウムシ業界がブラックである証拠写真! - ココロ社
この日の様子は尾園さんのブログ記事トンボ生態写真撮影入門 / 夏の日のドラマ - 湘南むし日記でも。トンボ界のドラマチックさとブラックさを体感することができて最高でした!写真道は道のりが遠すぎるけれど、すごく楽しかった。ありがとうございました!
トンボ撮影会は、会期中に残り2回開催されるそうです。9月23日の分はすでに申込を締め切っているそうですが、10月14日分はこれから受付開始だそうなので、公式サイトを要チェック!>>2012年度特別展﹁大空の覇者 −大トンボ展−﹂ - 神奈川県立生命の星・地球博物館