「秋葉原通り魔 弟の告白」(前編)-1.捨てられた兄と救われた弟
﹃被害者・遺族の方々に与えてしまった、想像を絶する苦痛、また、国民の皆さんに与えた不安を取り除くためには、謝罪だけではなく、事件に関して何らかの説明をすることが必要だと思いました“犯人”と同じ屋根の下で過ごした影響を説明することが、今回の凶行を起こした原因をひもとくきっかけになればと思い、この手記を発表することにいたしました﹄
﹃私の家の恥部をさらすことで、犯人が犯行に及んだ説明の一端になれば……。そのことが現在の私にできるすべてだと思っています﹄
真摯な姿勢で﹃原因をひもとくきっかけ﹄を提供してくれたのだから、そこから感じることを書いてみたい。
<秋葉原無差別殺傷事件>
★﹁秋葉原通り魔 弟の告白﹂︵前編︶---------------------------- 1.捨てられた兄と救われた弟 ︵本項︶ 2.家庭という﹁完全統制区域﹂ 3.怒れる絶対君主
★﹁秋葉原通り魔 弟の告白﹂︵後編︶---------------------------- 1.道具としての子ども 2.背後に潜む愛情飢餓連鎖 3.密室︵価値閉塞空間︶の中に事件の種が蒔かれる 4.AC︵Adapted Child︶を育てた中学校
★加藤智大容疑者の心の闇---------------------------- 1.1日中繰り返される﹁一人﹂のつぶやき 2.絶対零度の孤独 3.操り人形な毎日 4.﹁I,m not OK.﹂の人生 5.自己概念の循環効果 6.憎む対象が世間になる理由 7.﹁彼女﹂と﹁不細工﹂-2つのキーワード 8.﹁時間の構造化﹂の方法 9.転がりはじめた殺意 10.ストローク飢餓の殺人ゲーム
★その他記事----------------------- ・﹁誰でもよかった﹂―秋葉原通り魔事件 ・秋葉原通り魔事件のニュースを見て
★1.捨てられた兄と救われた弟
3歳下の弟によると、ごく普通の家庭だったのが変わり始め、﹃一年経つごとに、家族仲は悪くなって﹄いったのは、加藤智大容疑者が中学に入った頃からである。
記事をお読みになれば分かるが、そこにあるのは﹁家庭﹂ではなく、母親が看守である﹁監獄﹂だ。弟は、母親の﹃厳しい躾や教育﹄を﹃洗脳﹄と呼んでいる。 また、加藤兄弟が通った中学校も﹃生徒の個性などというものは存在さえしませんでした﹄という﹃軍隊﹄だった。弟は、学校も﹃洗脳﹄と呼んでいる。
家庭でも学校でも洗脳される鬱屈した日々。その鬱屈が爆発するのが、中3の時。口論の末、加藤容疑者が母親を初めて殴り、以降、部屋の壁をボコボコにすることで感情を爆発させるようになった。弟の方も、壁を殴ったり蹴ったりすることが“癖”になっている。
地域トップの高校に入り両親は有頂天になるが、﹃あっという間に普通の人﹄になってしまった加藤容疑者を母親は見捨てた。 ﹃﹁俺より弟を優先して、俺を見放すのか!弟だけにしたいんだろう﹂と詰め寄っている姿を目撃したことがあります﹄
高卒後、兄は自動車整備学校に進学し、見捨てられたまま家を離れる。 同時期、優秀といわれた弟も3ヶ月で高校を辞め、引きこもる。彼はその時期、﹃うまくいかない状況を母のせいにしてきました﹄。
しかし、引きこもること5年-20歳で上京するときに﹃母が、﹁お前たちがこうなってしまったのは自分のせいだ﹂とつぶやき、私に謝罪してきたんです﹄。これで、﹃私は母の謝罪の言葉をきっかけに、母を許すことができました﹄-弟は救われた。
兄には落伍者のレッテルを貼った母親も、弟までもが5年間も引きこもる中で、自分の姿と向き合わざるを得なかったのだろう。5年間鏡を見続け、そしてようやくのこと、自分が悪かったと認めたのである。 これで、弟の5年間は報われた。だから、弟は新たな人生のスタートを切ることができたのである。
しかし、兄は……?
兄は、親の期待を一身に浴び、その全エネルギーを丸ごとぶつけられた。兄という防波堤の影で、弟は少し身動きできたことと思う。それに弟が中2の時に﹃ルール緩和﹄がなされ、テレビが見られるようになった。兄の中学時代とは雲泥の差である。 それでも弟は引きこもった。 つまり、兄はそれ以上のパワーを一身で受け止めていたのである。
その上、弟は親と向き合うことができたが、兄はそのチャンスすら与えられていなかった。 そして、弟は、自ら表現しているが、母親と﹃邂逅︵思いがけなく出会うこと︶﹄することができた。弟は母親の人間としての姿を見ることができたが、兄は看守としての母親しか知らない。
﹃アレは今でも両親を恨んでいるはずだ﹄と弟は言う。 その通りだろうと思う。
︵﹁アレ﹂という言い方に突き放した距離を感じましたが、津軽弁で言う﹁アレ﹂は、兄弟友人間で普通に使われるそうです。コメントありがとうございました︶
︻追記注︼ 1、母親に焦点が当たっているようですが、母親もまた連鎖の中にいた犠牲者です。そのことが﹁後編﹂を読めばわかると思います。
2、一家族の問題ではなく、日本社会全体が価値閉塞系となっており、家庭、学校、会社などいろいろな組織がサティアン化しています。社会システムが家族や個人を追い詰めており、形を変えて問題は起こっています。生命本来の姿である開放定常系になることが問題解決の基本視点として必要です。
3、この母親に影響を与えているのは、上記社会システムと祖父母です。この祖父母の世代は戦争という時代を体験し、存在不安を抱えています。その戦争の後遺症が、現代様々な現象となって今まさに現れています。3世代にわたって深刻な影響を与え続ける戦争の本当の怖さを検証しなければなりません。戦争は終わっていません。 ・20代の心の病~戦争後遺症という視点 ・時代が世代間連鎖に与える影響-日本全国版 ・﹁自己責任﹂に苦しむ20代
︻この項のご参考︼ 若高兄弟の確執の裏︵1︶‥兄弟の運命を分けた父親の言葉
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