第151回 健康的にショートスリーパーになれる人などいない
ショートスリーパー、ロングスリーパーの知名度は高いが、その眠りの質についてはご存じだろうか。
睡眠時間が短くても眠気や倦怠感に悩まされることなく健康に過ごすことができるショートスリーパー(短時間睡眠者)に対し、ロングスリーパー(長時間睡眠者)は同年代の平均と比較してより長時間の睡眠を必要とする。多くの人が憧れるのはショートスリーパーで、特に仕事や勉強に追われて自分の時間が持てない若者や働く世代の人たちではその傾向が強い。
しかし、残念ながら生活習慣の工夫などで健康的に真のショートスリーパーになることに成功した事例は無い。これまでの研究から個人の必要睡眠時間は体質的に(多因子遺伝的に)決まっていると考えられているため、人為的に操作するのが難しいのである。
睡眠障害の国際的な診断基準︵睡眠障害国際分類︶では、ショートスリーパー、ロングスリーパーの睡眠時間をそれぞれ6時間未満、10時間以上と定義している。ただし、﹁睡眠時間が短い人=ショートスリーパー﹂﹁睡眠時間が長い人=ロングスリーパー﹂ではない。実生活では睡眠不足のほか、不眠症やうつ病、体の病気、治療薬の影響など、さまざまな原因で睡眠時間は長くも、短くもなる。
真のショートスリーパー、ロングスリーパーとは、そのような原因がなく、体質的に睡眠時間が同年代の平均よりも大きくずれている人を指す。そのため睡眠障害国際分類でも睡眠障害︵病気︶ではなく、あくまでも正常者の睡眠時間の極端なタイプと位置づけている。
真のショートスリーパー、ロングスリーパーはきわめて少ないと考えられている。例えば、厚生労働省が実施している国民健康栄養調査によれば、一日の平均睡眠時間が睡眠障害国際分類でショートスリーパーと定義されている6時間未満と回答した人は成人の約4割もいる︵平成27年度調査結果︶。しかし、この人々の大部分は不眠や睡眠不足などの睡眠問題を抱えており、ショートスリーパーではない。実際、睡眠時間が5時間以上6時間未満の人の8割以上、5時間未満の人にいたっては9割以上が、睡眠が足りない、睡眠の質に満足できない、日中に眠いなどの不調を訴えていた。
この調査データを細かく解析すると、睡眠時間が短くても日中に不調無く過ごせていた人は、5時間未満の人では成人100人当たり0.7人、5時間以上6時間未満の人では100人当たり3.5人しかいなかった。さらにこの人々の中には午睡をとったり週末に寝だめをしているケース︵調査では調べられていない︶、睡眠不足による不調に気付かずに生活しているケースなども含まれているだろうから、真のショートスリーパーはさらに少ないと考えられる。
次ページ‥短時間睡眠法に惑わされてはいけない
おすすめ関連書籍
あなたの睡眠を改善する最新知識
「ためしてガッテン」などでおなじみ、睡眠研究の第一人者が指南!古い常識やいい加減な情報に振り回されないために知っておくべき情報を睡眠科学、睡眠医学の視点からわかりやすく説明。
定価:1,540円(税込)
おすすめ関連書籍
脳科学が進歩し睡眠の秘密が明らかになってきた。正しい睡眠を身に付けて、勉強や仕事、運動などで高いパフォーマンスを発揮しよう。〔全国学校図書館協議会選定図書〕
定価:1,540円(税込)
「睡眠の都市伝説を斬る」最新記事
バックナンバー一覧へ- 第159回 続々と明らかになる睡眠と学習の密接な関係
- 第158回 なぜヒトの睡眠は2種類あるのか
- 第157回 アルツハイマーの予防に効く?「40Hz」と「深い睡眠」の共通点
- 第156回 日本の若者にも寝坊のススメ、成績にも健康にも好影響
- 第155回 実に残念、期待の不眠治療アプリの保険適用が不認可に
- 第154回 厚労省の「睡眠指針」が大幅改訂に、推奨睡眠時間や要点は?
- 第153回 分かり始めた「不規則な睡眠」の怖さ、子どもでは発達の遅れも
- 第152回 “睡眠不足度”を洗い出した注目の「過労死白書」から分かること
- 第151回 健康的にショートスリーパーになれる人などいない
- 第150回 睡眠には実は“2度おいしい” リモートワークのすすめ